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10日目

職員ディラン名推理

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「えーっと、次は青薬草ですね」

 カノンは二階の部屋で作業を始めた。
 素材採取は魔物の素材、自然の草花・鉱物、加工品まである。
 素材があれば、製造スキルで加工品は作れる。
 どんどん依頼の素材が集まっていく。

「ふぅー。素材調査までは無理ですね」

 カノンは晩ご飯前に作業を終わらせた。
 まだ全部用意できていないが、冒険者ギルドに向かった。
 帰り道に足りない素材を、その辺の店で集めないといけない。

「素材用意しました。お願いします」
「何だよ、今度は一人か? そろそろ帰るから早く出せよ」
「はい、分かりました」

 冒険者ギルドに到着したが、まだ失礼な職員がカウンターに残っていた。
 カノンは言われた通りに、素材が入った袋を次々に出していく。
 あまりの多さに職員が、顔面を怒りでピクピクさせている。

「おい、ちょっと待て。あとどのぐらいある?」
「えっ? これで十二分の一ぐらいですよ。心配しなくても、まだまだありますよぉ~♪」
「なっ⁉︎ テ、テメェー‼︎」

 15袋出しただけなのに、職員がカノンを止めて聞いた。
 素材採取の依頼数は約400——それを180も終わらせた。

 嫌がらせだとしたら、恐ろしい嫌がらせだ。
 素材を確認するだけで、人手と時間がかかる。
 それを依頼者の元に配達するのに、また人手と時間がかかる。
 人手不足の時にやるような仕事じゃない。
 
「これで終わりです。晩ご飯までに帰れますか?」
「出来るわけないだろう! 明日また来い!」

 カウンターだけでは面積が足りないから、テーブルの上にも素材が置かれている。
 激怒した職員に金も貰えずに、カノンは追い払われた。
 仕方ないから、トカゲにエサをやった後に家に帰るしかない。

 ♢

「くそぉー、残業かよ!」

 カノンを怒って追い出すと、冒険者ギルド職員ディランは素材の鑑定を始めた。
 金庫から白紙の鑑定紙を取り出して、紙の上に素材を置いていく。
 青白い文字が浮かび上がって、素材の名前が書かれていく。

「よし、これもいいな」

 素材の名前と採取依頼票を見比べて、問題ないようなら依頼票を袋に入れている。
 怒りながらも仕事はキチンとこなしている。失敗したら怒られるのは自分だから当たり前だ。

「うひゃー! これは大量ですね!」
「見てないで手伝え。夜勤はお前だろ」

 夜勤の20代後半の男職員がやって来て、テーブル一杯の素材達を見て驚いている。
 素材の鑑定は受け取った職員の担当だ。夜勤の職員がやる必要はない。

「えー、いいですけど。失敗しても文句言わないでくださいよ」
「配達の時に二重チェックするから間違うか。さっさとやれよ。俺が寝れねえだろ」
「はいはい、分かりました。終わったらなんか奢ってくださいよ」

 やりたくなさそうだが、先輩職員の言う通りに夜勤の職員は鑑定を始めた。
 鑑定紙をもう一枚取り出して、テーブルの素材を調べていく。

「配達物のチェックですか?」
「違う。採取の持ち込みだ。しかも女一人だ」
「へぇー、それは凄いですね。レベル60の上級者ですか?」
「いや、あれは雰囲気が違う。初級が関の山だ」

 二人の職員は喋りながら作業を進めていく。
 話題はカノンのことだ。実力は大したことないらしい。

「じゃあ、特殊スキルですね。どんな感じっぽいですか?」
「間違いなく移動系だな。隣町への配達を20分で終わらせて来た」
「それ凄いじゃないですか! 配達と護衛を全部やってもらいましょうよ!」

 ディランの話に若い職員は驚いた。
 冒険者ギルドの仕事の半分は配達と護衛だ。
 残りは未開拓地の探索、未発見素材の調査、新商品開発になる。
 半分の仕事がなくなれば、かなり仕事が楽になる。

「駄目だ。あの女は替え玉の可能性が高い。裏に移動系スキル持ちが隠れていると見ていい」
「そうなんですか?」

 だけど、ディランはカノンを疑っている。
 配達と護衛の仕事をやらせるつもりはない。

「昨日の夜に冒険者達に、ヤバイ酒を配ったのは金髪の女だ。配達できない状態にして、根こそぎ荷物を奪い取ろうという作戦だろう。最初の2件は俺を信用させる為に普通にやったんだろうな」
「じゃあ、この素材の山は……」

 事実と勘違いが混じっているが、ディランは得意気に自分の名推理を聞かせている。
 若い職員がテーブルの素材を見て答えを言う前に、間違った答えを言った。

「盗品に決まっている。明日来るように言ってやった。その時に裏に隠れている奴も捕まえてやるよ」
「先輩凄え……そんなの普通の人は気づきませんよ!」
「お前らとは頭の出来が違うんだよ。奴らの失敗は一つだけだ。ここに俺が居たことを調べ損なったことだ。明日はそれを死ぬほどに後悔するだろうな」

 ディランはニヤリと笑って、左手の人差し指で自分のこめかみを突いている。
 確かに頭の出来が違うが、明日誰かが後悔するのは当たりそうだ。
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