42 / 121
10日目
商人護衛依頼
しおりを挟む
冒険者ギルドから追い払われたカノンは、飛行船で街の上空を回って、ルセフを探した。
見つければ、やったことがない冒険者の仕事を手伝えるかもしれない。
「あっ! いました!」
街の外に向かって走る一台の、二頭引きの馬車を見つけた。ルセフが御者をやっている。
飛行船を下降させて、馬車の後方についた。ゆっくりと接近していく。
このまま気づかれずに護衛するつもりなら、かなり不気味だ。
「うーん、これは遅いですね」
だけどカノンが尾行するのに飽きてしまった。馬車の速度が遅すぎる。
馬車を軽々と追い越して、飛行船の窓から驚いているルセフに手を振った。
馬車がゆっくりと速度を落として停車した。
「何だ、それは!」
初めて見る黄金の小船に向かって、ルセフは怒鳴った。
飛行船が地面に着陸して、カノンが扉を開けて出て来た。
「これは飛行船です。ルセフさんの家にお酒を届けに行ったんですけど、お母さんしかいなくて探したんですよ」
カノンの説明が不十分だったのか、ルセフは人差し指を上に向けて、もう一度聞いている。
「そんなこと聞いてねぇよ! 何で空飛んでんだよ!」
「それは分かりません。飛ぶから飛ぶんじゃないですか?」
「くっ、駄目だ。聞く相手が駄目すぎる!」
聞いた相手が悪かった。本人も理解せずに飛んでいる。
ルセフは空飛ぶ船は見なかったことにしようとした。
けれども、馬車の中から護衛中の商人とウェインが飛び出して来た。
「その船は何なんだ⁉︎ いくらで買えるんだ!」
「ちょっと危ないですって。馬車の中に居てくださいよぉー」
商人なら飛行船に興味があるのは当たり前だ。
困り顔のウェインに止められるが、構わずにカノンに近づいていく。
「3000万、いや、5000万までなら出す!」
「お金ならあるからいいです」
「くぅぅぅ! 1億ならどうだ!」
灰色髪にモジャ口髭の商人が、必死に買取り交渉をしているが無駄だ。
カノンが大金貨袋を取り出して、ジャラジャラ鳴らしてトドメを刺した。
「いえ、お金ならあります。全部大金貨です」
「がぁーん‼︎」
商人がショックを受けている。小娘に資金力の差を見せつけられた。
「あのおじさんを護衛すればいいんですよね? 私の船で飛んで行った方が早いですよ」
「おじさんじゃない。依頼人のガリバンさんだ。それにこれは俺達の仕事だ。お前には関係ない」
「じゃあ、ここは依頼人さんに決めてもらいましょう。ガリバンさん、飛行船と馬車のどっちが良いですか?」
馬車の中に戻った商人の奪い合いが始まった。カノンとルセフが話し合っている。
二人だけでは決着は付かないと、カノンは項垂れている商人に聞いた。
答えはもちろん決まっている。
「……飛行船がいい」
「フフッ。決まりですね。馬車を乗せられる大きい船を持って来ます。ここで待っててくださいね」
移動手段が商人によって決まった。
カノンは喜んで、クリスタル飛行船を森に取りに行った。
7分程で馬車の上空に、二階建ての家が六軒並んだような、青い宝石の大型船が現れた。
「なぁっ⁉︎ あががががぅっ~‼︎」
上空を見上げる商人がガタガタ震えている。
今度は買うとは言えない。予想価格は2500~3500億ギルドぐらいだ。
船が着陸すると、船尾の扉が倒れるように開いていく。
板状の扉が地面に付くと、上りやすい緩やかな上り坂が出来た。
「後ろから乗っていいですよぉー!」
「おい、これは……いや、何でもない。ウェイン、さっさと馬車を乗せるぞ!」
カノンが船の上から、下にいるルセフ達に大きな声で言った。
ルセフは何か聞こうとしたけど、やめた。聞いてもどうせ分からない。
船尾から船内に入ると、船内の階段を上って、操舵室のカノンの元にやって来た。
「いやぁー。カノンちゃん、凄い金持ちなんだね。こんな船があるなら、護衛と配達の仕事を受け放題だよ」
「エッへへ♪ 私って、そんなに頼りになりますか?」
「調子に乗るな。目的地はミゲールだ。場所が分からないとか言わないよな?」
ウェインは褒めるが、ルセフは褒めない。
目的地に到着するまでが仕事だ。
「図鑑があるから大丈夫です。えーっと、ミゲールですね……ありました。40分で着くと思いますよ」
「えっ、40分⁉︎ 馬車で三日もかかるんだけど!」
「あっはは。そんなにかかりませんよ。じゃあ、出発しますね」
カノンは万能地図図鑑を取り出して、ミゲールの町を探し出した。
ウェインは到着時間を聞いて驚いているけど、構わずにクリスタル飛行船は発進した。
一気に障害物のない空に上昇して、そのまま町のある方角に一直線に飛んでいく。
「町が見えて来ました。町の近くに降ろしますね」
「…………」
到着時間は32分だった。早すぎて疑われる時間だ。
冒険者ギルドへの報告は、六日後にした方がいい。
見つければ、やったことがない冒険者の仕事を手伝えるかもしれない。
「あっ! いました!」
街の外に向かって走る一台の、二頭引きの馬車を見つけた。ルセフが御者をやっている。
飛行船を下降させて、馬車の後方についた。ゆっくりと接近していく。
このまま気づかれずに護衛するつもりなら、かなり不気味だ。
「うーん、これは遅いですね」
だけどカノンが尾行するのに飽きてしまった。馬車の速度が遅すぎる。
馬車を軽々と追い越して、飛行船の窓から驚いているルセフに手を振った。
馬車がゆっくりと速度を落として停車した。
「何だ、それは!」
初めて見る黄金の小船に向かって、ルセフは怒鳴った。
飛行船が地面に着陸して、カノンが扉を開けて出て来た。
「これは飛行船です。ルセフさんの家にお酒を届けに行ったんですけど、お母さんしかいなくて探したんですよ」
カノンの説明が不十分だったのか、ルセフは人差し指を上に向けて、もう一度聞いている。
「そんなこと聞いてねぇよ! 何で空飛んでんだよ!」
「それは分かりません。飛ぶから飛ぶんじゃないですか?」
「くっ、駄目だ。聞く相手が駄目すぎる!」
聞いた相手が悪かった。本人も理解せずに飛んでいる。
ルセフは空飛ぶ船は見なかったことにしようとした。
けれども、馬車の中から護衛中の商人とウェインが飛び出して来た。
「その船は何なんだ⁉︎ いくらで買えるんだ!」
「ちょっと危ないですって。馬車の中に居てくださいよぉー」
商人なら飛行船に興味があるのは当たり前だ。
困り顔のウェインに止められるが、構わずにカノンに近づいていく。
「3000万、いや、5000万までなら出す!」
「お金ならあるからいいです」
「くぅぅぅ! 1億ならどうだ!」
灰色髪にモジャ口髭の商人が、必死に買取り交渉をしているが無駄だ。
カノンが大金貨袋を取り出して、ジャラジャラ鳴らしてトドメを刺した。
「いえ、お金ならあります。全部大金貨です」
「がぁーん‼︎」
商人がショックを受けている。小娘に資金力の差を見せつけられた。
「あのおじさんを護衛すればいいんですよね? 私の船で飛んで行った方が早いですよ」
「おじさんじゃない。依頼人のガリバンさんだ。それにこれは俺達の仕事だ。お前には関係ない」
「じゃあ、ここは依頼人さんに決めてもらいましょう。ガリバンさん、飛行船と馬車のどっちが良いですか?」
馬車の中に戻った商人の奪い合いが始まった。カノンとルセフが話し合っている。
二人だけでは決着は付かないと、カノンは項垂れている商人に聞いた。
答えはもちろん決まっている。
「……飛行船がいい」
「フフッ。決まりですね。馬車を乗せられる大きい船を持って来ます。ここで待っててくださいね」
移動手段が商人によって決まった。
カノンは喜んで、クリスタル飛行船を森に取りに行った。
7分程で馬車の上空に、二階建ての家が六軒並んだような、青い宝石の大型船が現れた。
「なぁっ⁉︎ あががががぅっ~‼︎」
上空を見上げる商人がガタガタ震えている。
今度は買うとは言えない。予想価格は2500~3500億ギルドぐらいだ。
船が着陸すると、船尾の扉が倒れるように開いていく。
板状の扉が地面に付くと、上りやすい緩やかな上り坂が出来た。
「後ろから乗っていいですよぉー!」
「おい、これは……いや、何でもない。ウェイン、さっさと馬車を乗せるぞ!」
カノンが船の上から、下にいるルセフ達に大きな声で言った。
ルセフは何か聞こうとしたけど、やめた。聞いてもどうせ分からない。
船尾から船内に入ると、船内の階段を上って、操舵室のカノンの元にやって来た。
「いやぁー。カノンちゃん、凄い金持ちなんだね。こんな船があるなら、護衛と配達の仕事を受け放題だよ」
「エッへへ♪ 私って、そんなに頼りになりますか?」
「調子に乗るな。目的地はミゲールだ。場所が分からないとか言わないよな?」
ウェインは褒めるが、ルセフは褒めない。
目的地に到着するまでが仕事だ。
「図鑑があるから大丈夫です。えーっと、ミゲールですね……ありました。40分で着くと思いますよ」
「えっ、40分⁉︎ 馬車で三日もかかるんだけど!」
「あっはは。そんなにかかりませんよ。じゃあ、出発しますね」
カノンは万能地図図鑑を取り出して、ミゲールの町を探し出した。
ウェインは到着時間を聞いて驚いているけど、構わずにクリスタル飛行船は発進した。
一気に障害物のない空に上昇して、そのまま町のある方角に一直線に飛んでいく。
「町が見えて来ました。町の近くに降ろしますね」
「…………」
到着時間は32分だった。早すぎて疑われる時間だ。
冒険者ギルドへの報告は、六日後にした方がいい。
0
お気に入りに追加
345
あなたにおすすめの小説
「お姉ちゃん、見てるぅ~?」
藍田ひびき
恋愛
『お姉ちゃん、見てるぅ~?私、今から勇者様と一緒に魔王を倒してきまーす』
聖女エステルの元へ送られてきた映像記録には、婚約者の勇者アレンと妹デイジーが映っていた。映像のアレンはエステルとの婚約を破棄し、デイジーを選ぶと告げる。
両親に溺愛されるデイジーに、様々な物を奪われてきたエステル。映像を見ても両親は妹の味方で、彼女が悪いと責め立てる。だが事態は思わぬ方向へ進んでいって……?
※ 設定はゆるふわです。
※ なろうにも投稿しています。
会社で「ポーションを作ってくれ」と無茶振りされました
みこと
ファンタジー
私の名前は上原美里(うえはらみさと)
某製薬会社に勤める27歳のOLです。
ある日部長から「ポーションを作ってくれ」と頼まれました。
えええ、ポーションってあの異世界の。
そんなものできるわけないでしょうが。
でも部長に頭を下げられて、必死に説得されて。
仕方なく作ることにしました。
果たして美里はポーションを作ることができるのか。
田舎者の薬師は平穏に暮らしたい。
シグマ
ファンタジー
田舎の農村で口減らしの為に町へ奉公に出ることになったシャルは、とある薬屋で働くことになった。
そこでひたすらにポーションを作り続けていたら知らないうちに効き目の良さが噂になり、いつしか聖女のいる薬屋と呼ばれるように。
平穏な日々を守るためにもシャルは努力を続けるのだが……。
侯爵様にお菓子目当ての求婚をされて困っています ~婚約破棄された元宮廷薬術師は、隣国でお菓子屋さんを営む~
瀬名 翠
ファンタジー
「ポーションが苦い」と苦情が殺到し、ドロテアが勤める宮廷薬術師団は解体された。無職になった彼女を待ち受けていたのは、浮気者の婚約者からの婚約破棄と、氷のように冷たい父からの勘当。
有無を言わさず馬車で運ばれたのは、隣国の王都。ひょんなことから”喫茶セピア”で働くことになった。ある日、薬術レベルが最高になって身についていた”薬術の天女”という特殊スキルが露呈する。そのスキルのおかげで、ドロテアが作ったものにはポーションと同じような効果がつくらしい。
身体つきの良い甘党イケメンに目をつけられ、あれよあれよと家に連れ去られる彼女は、混乱するままお菓子屋さんを営むことになった。
「お菓子につられて求婚するな!」なドロテアと、甘党騎士団長侯爵の、ほんのり甘いおはなし。
さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~
遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」
戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。
周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。
「……わかりました、旦那様」
反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。
その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。
死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く
miniko
恋愛
お茶会の参加中に魔獣に襲われたオフィーリアは前世を思い出し、自分が乙女ゲームの2番手悪役令嬢に転生してしまった事を悟った。
ゲームの結末によっては、断罪されて火あぶりの刑に処されてしまうかもしれない立場のキャラクターだ。
断罪を回避したい彼女は、攻略対象者である公爵令息との縁談を丁重に断ったのだが、何故か婚約する代わりに彼と友人になるはめに。
ゲームのキャラとは距離を取りたいのに、メインの悪役令嬢にも妙に懐かれてしまう。
更に、ヒロインや王子はなにかと因縁をつけてきて……。
平和的に悪役の座を降りたかっただけなのに、どうやらそれは無理みたいだ。
しかし、オフィーリアが人助けと自分の断罪回避の為に行っていた地道な根回しは、徐々に実を結び始める。
それがヒロインにとってのハッピーエンドを阻む結果になったとしても、仕方の無い事だよね?
だって本来、悪役って主役を邪魔するものでしょう?
※主人公以外の視点が入る事があります。主人公視点は一人称、他者視点は三人称で書いています。
※連載開始早々、タイトル変更しました。(なかなかピンと来ないので、また変わるかも……)
※感想欄は、ネタバレ有り/無しの分類を一切おこなっておりません。ご了承下さい。
10歳になると妖精と契約できる世界でハズレ妖精と契約してしまった少年
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
誕生日の朝、カイルは町で一番美味しいミルクを買いに出掛けた。
この国では十歳から妖精と契約して、妖精達が住む世界『夢界』に行く事が出来るようになるからだ。
夢界に行けるのは、十歳から大人になるまでの短い期間だけど、多くの子供が妖精と契約できるように頑張ってミルクを用意する。
そして、カイルの頑張りに応えるように、夜に窓をコンコンと叩く音が聞こえた。
喜んでベッドから起きたカイルは、小鳥のように小さく、羽の生えた綺麗な妖精を探した。
だけど、窓の外にいたのは、どう見ても羽の生えていない人間のお兄さんだった。
カイルは「妖精さんだよ。家に入れて」と笑顔で言うお兄さんを無視すると、カーテンを閉めた。
明らかに妖精さんじゃなくて、泥棒さんだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる