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8日目

ペット屋逃亡

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 街近くの森にクリスタル飛行船を置いて、カノンは小さな飛行船で街に向かった。
 家に帰ると父親はまだ泥酔して寝ていた。
 テーブルの上に増やした果物を置いて、父親に昼ご飯を用意した。
 カノンには急いでやることがある。

「パトラッシュ、行きますよ」
「ワン!」

 酒臭いエリックと離れられて、パトラッシュは喜んでいる。
 ついでに外で食事が出来ると期待している。
 背中にカノンを乗せて、指示される道を走った。

「ん? ステファンの奴なら昨日辞めたぜ。急に辞めるとか勘弁してほしいよ」
「えっ? どうして辞めたんですか?」

 ペット屋に到着すると、昨日とは違う20代後半の男がいた。
 カノンが男に聞くと、昨日の男——ステファンは辞めたと言われた。

「店長の話だと、急に父親が倒れたらしいぜ。家族の面倒見るから町に帰るんだってよ。昨日の夜に、給料を店長の家まで貰いに来たんだ」
「それは大変ですね。そうです! ステファンさんの家を教えてくれませんか? 良い回復薬があるんです」
「ああ、それは構わないよ」

 嘘の辞める理由を作って、ステファンは街から夜逃げしたみたいだ。
 そんな嘘の理由を聞いて、カノンは倒れてないだろう父親の身を心配している。
 しかも親切にも、極上回復薬と万能薬を届けようとしている。

「すみませぇ~ん。ステファンさん、いますかぁ~?」

 教えられた一軒家の扉を叩いて、カノンは呼びかける。
 家の近所の格安住宅だった。

「うーん、いないみたいです。もしかすると、もう街から出たのかも。緊急事態だから仕方ないですね」

 3分程呼び続けると、カノンは諦めた。
 そして普通に扉を壊して、家の中に侵入した。

「パトラッシュ、この家の人の匂いを覚えてください。薬を渡すから見つけてくださいよ」
「任せるワン!」

 久し振りの犬の仕事だ。パトラッシュはやる気十分だ。
 家の中の男臭を覚えると、カノンを乗せて走り出した。

 相手は昨日の夜に街を出たから、追いつくのは難しい。
 カノンは時魔法の2倍速を使って、その差を縮めていく。

「馬を使っているワンね!」

 パトラッシュには匂いで、ステファンが馬を使っているのが分かる。
 街の外に出ると、追いかける速度を上げた。

 ♢

「くはぁ~~ぁ! ふぅー、そろそろ出発するか」

 街道の木の下で休んでいたステファンが、大きく背伸びしてから立ち上がった。
 走らせた馬を休憩させて、昼ご飯を食べたら眠くなった。
 ここまでに小さな町を三つも通り過ぎたから、もう安心している。

 残念ながら、それは間違いだ。
 パトラッシュは素早さを上げる装備をしている。この状態で馬よりも速い。
 しかも2倍速で、飼い主は休ませてくれない。
 極上回復薬と魔法薬の牛乳割りを飲まされて、走り続けている。

「見つけたワン!」
「ん? ま、魔物だぁー‼︎」
 
 馬に乗ろうとしたステファンは、犬の鳴き声に振り返った。
 薄茶色の毛をした巨大な犬が向かって来るのが見えた。
 急いで馬に乗ろうとしたが、焦って滑り落ちた。

「あぐっ!」
「ステファンさん! 良かったです、間に合いました!」
「ひぃぃ~!」

 パトラッシュから降りるとカノンは、頭を抱えて震えているステファンに呼びかけた。
 魔物に食べられたくないから、馬を身代わりにするように、馬の下に隠れている。

「ステファンさん、どうしたんですか? 具合でも悪いんですか?」
「えっ? ん、えっ? あ、昨日の……」

 優しそうな少女の声に、ステファンはすぐ後ろを見た。
 そこにはカノンが立っていた。魔物の方は地面に座って休憩している。
 襲われる心配がなさそうで、少しホッとした。

「はっ! す、すみませんでした! 出来心だったんです! お金は返します!」
「へぇっ?」

 だけど、すぐに少女が現れた理由に気づいて、少女に向かって土下座した。
 そっちの理由ではない。まだカノンは騙されたことに気づいていない。

「あの、お父さんが倒れたと聞きましたけど?」
「父も母も元気です! お願いします! 見逃してください!」
「んっ~?」
 
 男が必死に謝るから、カノンは訳も分からずに首を傾げている。
 父親が倒れていないなら、ペット屋を辞めた理由が分からない。

「お金返しましたよ! お金返しましたからね!」
「は、はぁ……?」
「お金返しましたからね‼︎」

 しつこい男だ。
 カノンの足元に給料を含めた金を全額置くと、馬に急いで飛び乗った。
 馬を走らせる前にもう一度振り返って、大声で主張している。

「……パトラッシュ、追いかけてください」
「ワン!」
「まだ話の途中です」

 男もしつこいが、カノンはもっとしつこい。
 ドラゴンの子供が偽モノだと親切に教える為に、ステファンを追いかけた。
 その結果、ステファンが騙されたのではなく、ステファンに騙されていたと分かった。

「がぁーん‼︎ 酷いです! パトラッシュ、食べていいですよ!」
「クゥ~ン、クゥ~ン」

 流石のパトラッシュも人肉は食べれない。
 強烈な前足のお手で、ステファンを殴り飛ばして許してあげた。
 これぐらいが妥当な罰だ。
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