上 下
17 / 121
3日目

遺跡ダンジョン

しおりを挟む
 馬に揺られながら、三人と一匹は森の中の遺跡にたどり着いた。
 ダンジョンには狩猟期間があり、その期間だけ増えすぎた魔物を倒すことが出来る。

 一般的な冒険者は倒した魔物を、アイテムポーチに詰め込めるだけ詰め込んで、家で解体作業する。
 実力があれば若者でも、月40~50万ギルドも稼げる高収入の仕事だ。

「パトラッシュ、ご主人様はお前が守るんだぞぉ~」
「クゥ~ン」

 ウェインがパトラッシュの頭を撫でて、カノンの護衛を任せた。
 天井に照明器具が付けられた、整備された薄茶色の煉瓦で作られた遺跡を進んでいく。
 三人と一匹の武器は、ルセフは剣、ウェインは弓と剣、カノンは短剣、パトラッシュは牙だ。

「いいか、カノン。魔物が出たら、お前がトドメを刺せ。経験値を貰って、レベルアップしてもらわないと困るからな」

 先頭を進むルセフは厳しい口調だが、死亡率を少しでも下げるには必要なことだった。
 経験値は魔物を倒した人にしか入らない。接待ダンジョンじゃないんだから、甘やかさない。

「それなら大丈夫です。パトラッシュが倒しても、私に経験値が入りますから」
「何だ、それは? まあいい。じゃあ、パトラッシュ。お前がトドメを刺せ」
「クゥーン‼︎」

 ルセフはペットが魔物を倒して、飼い主に経験値が入るという話を聞いたことがない。
 でも経験値が入るなら、どっちでもよかった。
 パトラッシュが聞いてないよぉー、という顔をしているけど、トドメ担当になった。

「止まれ。魔物がいた」

 小声でルセフが教えると、カノンを呼んで魔物の説明を始めた。

「あれは氷フライムだ。地面を歩くのがスライム、空中を浮くのがフライムだ。アイツは魔法で氷の砲弾を三連続で撃ってくる。身体が光ったら気をつけろよ」
「はい、分かりました」

 空中を球体にカットされた、青白く輝く宝石が浮かんでいる。
 大きさはスライムよりも少し大きく、通路の真ん中を上下に波打つように進んでいる。

「よし、ここにいろよ。倒すまで絶対に来るなよ。絶対だからな」
「むぅー! 一度言えば分かりますよ」

 馬鹿な子供に言うように、ルセフはカノンに何度も注意して、パトラッシュと一緒に突撃した。
 氷フライムの氷の砲弾を右に左に避けて、剣で素早く身体を三回斬った。
 ——ガン、ガン、ガン!
 激しい剣撃に、氷フライムの氷の身体にひび割れが発生した。

「こ、壊れるフラ~ッ!」
「パトラッシュ、トドメだ!」
「もうやるしかないワン!」

 ルセフの攻撃命令で、パトラッシュは氷フライムに噛み付いた。
 右前足に剛力リストバンド(レベル4)を付けているから、力が24も上がっている。
 噛み付いたまま、壁に氷フライムを何度も叩きつけて倒した。

「飼い主と違って、お前はやるみたいだな。その調子で頑張れよ」
「クゥーン」

 パトラッシュは褒められて嬉しいけど、口の中が少し凍っている。
 出来れば噛んでも大丈夫な魔物が良かった。

 遺跡の中には、鉄ハンマーを持ったミノタウロス、子供サイズのインプと呼ばれる小悪魔がいる。
 どれを倒しても経験値が1匹30も入るから、頑張ればレベル15ぐらいには簡単になれる。
 だけどレベル30相当の魔物達を、運動不足の飼い犬が楽に倒せるわけなかった。

「舐めるなミノ‼︎」
「キャウン!」

 筋骨隆々の牛男——ミノタウロスの左腕に噛み付いたパトラッシュが、壁に叩きつけられた。
 背骨が折れる重傷だ。左腕から離れて、床にグッタリと倒れた。

「この牛野朗!」
「ぐぅがああああ! こ、これで勝ったと思うなミノ……」

 パトラッシュがやられて、怒ったルセフがミノタウロスを剣で両断して倒した。

「おい、しっかりしろ! すぐに助けてやるからな!」
「も、もうダメ、ワン……」

 急いでパトラッシュに駆け寄ると、赤いアイテムポーチから回復薬を取り出した。
 回復薬は飲めば、HPが150回復する薬だ。
 即死していなければ、これで助けることが出来る。

「あっ、大丈夫ですよ。すぐに直しますから」
「はぁ?」

 だけど回復薬を飲まそうとするルセフを、カノンが止めた。
 パトラッシュは生き物で、カノンの所有物だ。
 修復スキルを使って、元通りに修復した。
 パトラッシュは不死身だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。 その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。 しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。 奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。 これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

死に戻り公爵令嬢が嫁ぎ先の辺境で思い残したこと

Yapa
ファンタジー
ルーネ・ゼファニヤは公爵家の三女だが体が弱く、貧乏くじを押し付けられるように元戦奴で英雄の新米辺境伯ムソン・ペリシテに嫁ぐことに。 寒い地域であることが弱い体にたたり早逝してしまうが、ルーネは初夜に死に戻る。 もしもやり直せるなら、ルーネはしたいことがあったのだった。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

処理中です...