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1日目

小銅貨進化

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「動く肉は切りにくいですね」
「ぎゃああああ~‼︎ 堪忍してスラッ~‼︎」

 カノンは左手でスライムを押さえ付けて、右手の短剣でスッーと切った。
 テーブルマナーはしっかり教育されている。
 ステーキを切るように、スライムの身体を綺麗に切って倒した。

「これで終わりですか?」

 もう倒せるスライムがいない。
 訓練所は一階建てで四部屋(一部屋はアイテムポーチ置き場)しかない。
 カノンは最後の部屋のスライムを倒して、もうやることがない。

 でもスライムを60匹倒して、小銅貨は進化できる状態になっている。
 小銅貨が入った布袋に触れて、カノンは小銅貨を進化させた。

「わぁ⁉︎ 凄い! やっぱりこれで良かったんですね!」

 床に置いた布袋の中には、大量の大銅貨が入っている。
 小銅貨を1枚進化させるはずが、500枚も進化している。
 しかも消費MPはたったの10だ。
 スキルの効果は単体ではなく、全体だった。

 パトラッシュを馬小屋に置くと、カノンは冒険者ギルドに向かった。
 スライムを全部倒したから、追加のスライムを職員にお願いする。
 カウンターに行くと、失礼な男職員がいた。

「はぁ? 全部倒したから、新しいスライムだと」
「はい。よろしくお願いします」

 職員は眉間に皺を寄せて、信じられない顔をしている。
 そんな職員に、カノンは笑顔でもう一度頼んだ。

「ふんっ。まあまあやるみたいだな。スライムなら街の下水道で汚物の掃除をしている。6匹捕まえて、一部屋に2匹ずつ放せ。5時間もすれば、30匹まで増える」
「そうなんですね」

 職員はカノンの実力を少し認めたようだ。スライムの増やし方を教えている。
 そして地図と鍵を見せて、下水道の入り口を教えると、自分で捕まえるように言った。
 スライムを捕まえに行くのが面倒くさいから、カノンに押し付けた。
 
「今度からは6匹だけ残せよ。ほら、さっさと捕まえて来い」
「すみません。すぐに捕まえて来ます」

 職員が不機嫌そうに鍵と大きな麻袋2枚を、カウンターの上に置いた。
 職員に謝罪すると、鍵と麻袋を持って、カノンは冒険者ギルドを出た。

「あっ。先に両替しておきましょう。下水道でスライムを倒すかもしれないです」

 カノンは馬小屋に行く前に、近くの店で大銅貨500枚を小銅貨5000枚に両替してもらった。
 重さが5キロもあるので、お店の人に4000枚だけ預かってもらった。

「あれ? 意外と臭くないんですね」

 カノンは下水道の鉄扉を開けて、地下へと続く階段を下りていく。
 パトラッシュも気にならないほど、下水道の匂いは臭くなかった。
 階段を下りると、アーチ型の通路に到着した。
 点検用の明かりが、壁のところどころに設置されている。

「う~ん、これは迷子になりそうです」

 下水道の通路には横穴が沢山見える。
 通路の両端には高さのある、歩ける通路がある。
 通路の真ん中には、水深30センチの水が流れている。
 一応壁に矢印があるから、簡単には迷子にならない。

「あっ。そういえばアイテムポーチがないです。これだとスライムを倒せないです」

 カノンは沢山倒すつもりでやって来たのに、倒せそうになかった。
 勝手に倒すと、また職員に怒られそうだ。
 言われた通りに、スライムを探して捕まえることにした。

 近くの通れる横穴の一つを進んでいく。
 丸い小さな部屋に12匹のスライムを見つけた。

「何だ、テメェースラ! ブチ殺すスラッ!」
「わぁー。いっぱいいるんですね」

 天井近くの壁に、小さな穴が複数空いている。
 その穴から残飯や汚物が落ちて来て、スライムがそれを食べる。
 そして栄養満点のスライムを倒して、畑の肥料にする。
 それが一般的なスライムの使い道だ。

「助けてスラ~ッ‼︎ 命だけは勘弁してスラ~ッ‼︎」
「これで6匹と。さあ、帰りましょう」

 だけど、そんな一般常識をカノンは知らない。
 2枚の麻袋にスライムを3匹ずつ詰め込んで、パトラッシュの背中に横向きに乗せた。

「ク、クゥーン~」

 重いから自分で持つつもりはなかった。
 空腹のパトラッシュがフラフラしながらも、何とか訓練所まで運びきった。
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