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1日目

冒険者ギルド

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「はぁ、はぁ……ここが冒険者ギルドですか? 屋敷の二十分の一もないんですね」

 カノンは疲れ果てた状態で、冒険者ギルドにたどり着いた。
 基本的に馬車移動で、パトラッシュの散歩も屋敷の庭で十分だった。
 お嬢様には散歩も重労働になる。

「おいおい。せめて犬は外に繋いでくれよ」

 酒場と宿屋を合わせた三階建ての木造建物に入ると、40代の男が苦情を言ってきた。
 食事中なのに、ボロ服のカノンと犬は勘弁してほしかった。

「すみません。どこに繋げばいいんですか?」
「おい聞いたか? どこに繋げばいいんですかってよ」
「ぷっははは! 来る店間違えてんじゃねえのか」

 カノンが上品に謝ると男に聞いた。他の男達が珍妙な少女に笑い出した。
 ボロ服を着ているのに、物腰や口調だけが上流階級の令嬢みたいで変だった。

「パトラッシュ、良い子に待っててね」
「クゥーン」

 男に馬小屋の場所を教えられると、空いている場所にパトラッシュを座らせた。
 首輪まで没収されたから、首輪の隙間にロープを通すことも出来ない。

「あの、こちらで泊めてもらえると聞いたんですけど……」
「はぁ? ここは冒険者専用の宿屋だ。一般と浮浪者はお断りだ。他所の宿屋を探しな」

 再び建物に入ると、小さなカウンターに座る30代後半の男に聞いた。
 ギルド職員の男はカノンの服装を見て、失礼な態度で断った。

「お金ならあります」
「これっぽっちじゃ一日で無くなる。最安値のうちでも、飯抜き一泊で500ギルドだ」

 カノンがカウンターに置いた全財産2500ギルドを見て、職員は呆れた。
 街の安い宿屋でも一泊1000ギルドはする。
 泊まる所を気にするよりも、食事代に使った方がマシな金額だ。

「親切な人に、ここなら泊めて欲しいとお願いすれば、面倒見てくれると聞いたんですけど」

 困った顔でカノンはもう一度聞いた。ここ以外に頼れる場所を知らない。
 金貸しの男は、男冒険者に女として面倒見てもらうように紹介した。
 だけどギルド職員の男は勘違いした。

「ん⁇ もしかして冒険者になりに来たのか?」
「その冒険者さんになれば、面倒見てくれるのですか?」
「いや、面倒は見ねえよ。仕事を紹介して、上の宿を利用できるぐらいだ。まあ今は全部部屋が埋まっているから、相部屋になるけどな」

 宿屋は二、三階になる。男性率100%という男臭たっぷりの宿屋だ。
 女冒険者は普通に、宿屋か安い貸家を女パーティで借りている。

「お嬢ちゃん困っているみたいだな。俺の部屋でよかったら、タダで泊めてやるよ」
「えっ! いいんですか?」

 困っているカノンを見ていた男冒険者が、チャンスと思って近づいて来た。
 親切そうにしているが、下品な下心しか持っていない。

「グゥヘヘヘヘ♪ ああ、いいぜ。冒険者のことを色々と教えてやるよ」
「おいおい、抜け駆けするなよ。俺の所に泊まりなよ。食事も食べさせてやるよ」
「この二人はやめておいた方がいいぜ。一日で追い出されるだけだ。俺の所にしな」
「えっと、えっと……」

 突然の大人気にカノンは混乱した。
 取り囲んでいる男冒険者の誰を選んでも、乙女の貞操のピンチだ。

「うるせいなー。おい、女。お前の武器は何だ?」
「はい?」

 誰が部屋に連れ込むか冒険者達が争っていると、錆色の髪、褐色の肌の青年がカノンの前に現れた。
 不機嫌な青年に武器を聞かれたが、カノンは意味が分からずに首を傾げた。

「何だよ、武器も持ってないのに冒険者になるつもりか。案内してやるから付いて来い」
「あ、はい。お願いします」
「あの野朗っ~!」

 獲物を横取りされた冒険者達の怒りの視線も気にせずに、青年はカノンの腕を引っ張って外に連れ出した。
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