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後半

第61話

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 王都の屋台を堪能したウェインは茶毛の馬に乗って、ソヴリス王国の国境を目指していました。いくつかある国境の中で当然選ぶのは王都から一番近い国境です。つまりは豚女の逃亡ルートと同じです。

「歩く豚? そんなのがいるんですか?」
「それだけじゃねぇんだよ。算数も出来るんだぜ。まあ、出来るのは算数までで数学はまだ出来ないみたいだったな」

 ログログの町の食堂で『豚も思わず食べちゃう共食い豚カツ定食』が気になったウェインは、たまたま近くでその豚カツ定食を食べていた男に聞きました。そうしたら、予想外の答えが返ってきました。
 美味しい豚カツの変わった宣伝文句だと思っていたのに、本当に本物の豚が食べた豚カツだと言っているのです。しかも、歩いて算数が出来る豚なんて冗談にしか聞こえません。むしろ、冗談を言っているようにしか聞こえません。

「へぇ、凄い豚もいるんですね。すみません! 豚カツ定食、お願いします」
「はいよ! 共カツいっちょ!」

 ウェインは騙されるつもりで店員の小母さんに豚カツ定食を頼みました。作り話なのは分かっています。問題は味です。作り話を作ってまでオススメするのならば、美味しいはずです。これで味が普通ならば、くだらない話を作ってないで、腕を磨いた方がマシだと言ってやりたいです。

「そうそう俺も偶然見ただけなんだけど、自分で数字が書けるんだぜ。本当に賢い豚だよ。ソヴリスとの国境の町に向かっていたみたいだから、ソヴリスには賢い豚がいるんだろうなぁ」
「いやぁ、そんな豚、見た事も聞いた事もないですよ」
「へぇ、兄ちゃんはソヴリスの生まれなのかい?」
「ええ、まあ…」

 ソヴリスに生まれて21年。ウェインは一度もそんな賢い豚に出会った事も噂話で聞いた事もありません。ソヴリスでも豚は家畜として飼っていますが、もしかすると、豚小屋から逃げ出さないように、多少は賢い豚を作ったのかもしれません。
 でも、二本足で歩かせて、算数を解かせる必要はありません。やはり、ただの噂話でしょう。ウェインは普通に美味しい豚カツを食べると次の町に向かいました。

 ☆

「ああ、その豚さんなら六日前にやって来たよ! 喋る豚さんだよね!」

 ログログの次の町にやって来たウェインは試しに町の子供に豚の事を聞きました。そしたら、さっきの町で聞いた噂話と同じような話を始めます。素直な子供にまで徹底して嘘を教え込んでいるとしたら、大した町起こしです。少しはそのやる気をソヴリスでも見習わないといけません。

「あれ? さっきの町では歩く豚さんと聞いたんだけど、その豚さんは本当に喋る豚さんで間違いないのかな?」

 ウェインはもう一度、子供に確認します。流石に子供にまで、大人達が作った幻の豚の設定を浸透させるのは難しいです。人づてに伝わっているうちに、歩く豚から喋る豚に変わったとしても仕方ありません。

「うううん。可愛い女の子の声で話していたよ。豚さんと一緒にジャンケン大会したもん」
「ジャンケン大会? その豚さんはジャンケンが出来るのかい?」
「うん。四本指だったけど出来たよ」
「へぇ、そうなんだ…」

 子供はウェインの疑いを完全否定です。女の子の声にジャンケン大会と、確実に豚がレベルアップしています。これでは賢い豚ではなく、賢くなる豚です。
 町ごとに噂話の内容を少しだけ変えている可能性もありますが、六日前に来たという情報は明らかに不要です。それに四本指というのも凝った設定です。噂話に少しだけ信憑性が出て来ました。

「その豚さんは何処に行ったか分かるかい? 教えてくれたら、お小遣いを上げるよ」
「うん! お爺さんが地図で小父ちゃん達に聞いていたよ。国境を越えるって言っていたよ」
「そうかぁ…ありがとう。これで美味しい物でも食べてよ。ママには内緒でね」
「わあぁ、お兄ちゃん、ありがとう!」

 ウェインは男の子に情報料としてお小遣いを渡しました。僅かな金額ですが、子供には大金です。男の子は大喜びで走っていきます。きっと、お菓子でも買いに行くのでしょう。
 そして、ウェインは男の子の表情に、最後まで後ろめたさが現れなかった事を、しっかりと確認しました。嘘を教えてお金をもらったのなら、あんなに喜んだりしません。実際に喋る豚を見ている可能性が高いです。

「さてと、喋ってジャンケンする豚か。いくらで買えるかな」

 エミリア王国一の黒髪美少女は見る事は出来ませんでしたが、馬を飛ばせば喋る豚は見れそうです。この町にやって来たのが六日前という事は、国境を抜けたのは大体四日前ぐらいでしょう。寄り道しながらならば、二日前といったところです。十分に追いつけそうです。ウェインは馬に跨ると次の町を目指しました。

 ☆

「この町に豚は来ていませんか?」
「ああ、歌って戦う豚なら来たよ。昼と夕の2回公演で久し振りに燃えたよ」

 次の町に到着すると急いで豚の聞き込みをします。もしも、この町に来ていなければ幻の豚を追わされた事を笑うしかありません。でも、今度は歌って戦う豚という新しい情報が加わりました。
 町ごとに芸の種類を変えているみたいですが、何がやりたいのか分かりません。町の住民とストリートファイトする豚は最早芸ではなく、事件です。目撃情報は手に入れましたが、これ以上は馬の体力の限界です。
 今日の追跡はここまでにして、明日は国境の町に到着、そして、そのまま国境を守る自国の兵士に協力してもらえれば、喋る豚は手に入れたようなものです。ですが、その肝心の豚は国境を越えた先で突然消息を消してしまいました。

 



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