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第22話 強と野盗騎士団の戦闘

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「やあ、良い天気だな。まずはその物騒な物を下ろしてくれないか? 俺達は野盗じゃない。ただの冒険者だ」

 清はスケッチブックを左手に持って、右手を軽く上げて、にこやかに挨拶しながら近づいていく。
 12の弓矢を向けられて、まったく動じない男は怪しさしか感じないが、怪しいだけなら騎士団は射てない。
 怪しいから射って殺しました、そんな報告をしたら殺人者として牢獄行きだ。

「止まれ。野盗じゃなければ、冒険者が何の用でここにいる? 現在、この森は立ち入り禁止だ」
「ああ、それでか。道理で野盗に襲われるわけだ。なに、俺達はセインとクレアの友人だ。清とカイルと言えば分かる。コルの町から騎士団が大勢で出て行くのを見かけて、気になって付いて来たんだよ。二人は後ろの建物の中にいるのか? 会わせてくれれば、誤解はすぐに解けるはずだ」

 偽者だが、本物の騎士団のように、野盗は強に止まるように警告した。
 強は言われた通りに止まると、このクテツの森に来た理由を話して、クレアに会わせてくれと頼んだ。

「おい、どうする? 殺すか?」
「会わせた方が良いんじゃないのか?」
「会わせてどうすんだよ? 仲間にするつもりか?」
「無理だろ。さっさと殺そうぜ」

 弓矢を構えたままの野盗達が小声で話し合っている。多数決では殺すが圧倒的に多い。
 仲間にするなら騎士団じゃなくて、野盗だと正直に話す必要がある。
 普通は断るが、野盗の仲間にしてくれと言ってくる場合もある。

 だが、信用できない人間を入れる危険は取りたくない。野盗達は安全第一主義だ。
 それに強を見ても、クレアもセインも誰だか分からない。
 本当に得体の知れない怪しい男が現れただけだ。

「……ちょっと待っていろ」

 弓矢を持たずに見ていた三人の幹部の一人が、そう言って丸太小屋に入った。
 親切な野盗もいるもんだが、丸太小屋の隙間から外を覗いていたセインは「あんな大男の知り合いはいない」と、やって来たスラッと背の高い金髪の男に手を振って否定している。
 それでもカイルの事は知っている。町の騎士団を襲った事を二人が知らないなら、油断させて殺しやすい。
 セインは会う事に決めた。

「お待たせして申し訳ありません。作戦会議中でして。クレアさんなら、建物の中にいます。どうぞこちらへ」

 丸太小屋からセインが幹部の男と一緒に出て来ると、出て来れなかった理由を言って、笑顔で小屋に入るように勧めてきた。
 小屋に入ろうとした瞬間、背後から剣で滅多刺しか、矢で滅多刺しにするつもりのようだ。

「それは済まない。邪魔にならないようにすぐ帰るよ。カイル、クレアはいるそうだ。助かったな。これで足の怪我を治してもらえる」
「あ、ああ、そうだな……」

 強に黙っているように言われたから、カイルは黙っていたが、もういいようだ。
 右手で手招きして、こっちに来るように言っている。
 強の聞きたい事が何なのか分からなかったが、足の怪我を治してもらえるならそれでいい。
 笑みを浮かべる野盗騎士団の間を通って、強と並んで丸太小屋の中に入った。
 殺すのは小屋の外ではなく、逃げ場のない小屋の中みたいだ。

 二階建ての丸太小屋の広さは、コンビニ2軒分はある。
 いくつかある三段の大きな木棚には酒瓶や缶詰が並び、ロープやノコギリなどの仕事道具も見える。
 そして、騎士団の制服を着た男が一人、木こりの服装の男が五人、クレアがいる。
 ロープで縛られていないが、緊張した顔はすでに騎士団ではなく、野盗だと知っているようだ。

「やあ、クレア。無事で良かった。もう安心していい。【聖域色=レッド=業火ごうか】——」

 野盗達と同じように強はクレアににこやかに挨拶すると、右手で左腰の剣を素早く抜いた。
 唖然とする野盗達だったが、銀色の刀身が真っ赤に塗り替えられた。
 そして、その刀身を強は丸太の床に深く突き刺した。
 剣が突き刺さった床を中心に赤色が広がっていく。野盗達が動揺している。

「な、何だ、これは⁉︎」

 床から壁に、壁から天井に、丸太小屋の人間以外の全てが赤く染められていく。
 強達を袋のネズミにしたつもりが、自分達が袋のネズミにされてしまった。
 
「火遊びの時間と行こうか」
「ゔぎゃああああ‼︎」
「熱い熱い! 助けてくれぇー‼︎」

 強がそう言うと、赤く塗り替えられた部屋全体が一瞬で炎に変わった。
 六人の野盗に向かって炎が蛇のように襲いかかり、全身を灼熱の業火が焼いていく。
 その野盗達がのたうち回る火の海の中で、強、カイル、クレアの三人だけは何ともない。

「これは一体……」
「キ、キヨシ‼︎ お前、何してんだよ⁉︎ 相手は騎士団だぞ⁉︎」

 クレアは何が起こっ楽分からず呆然としている。
 カイルは強が騎士団を攻撃したから大慌てだ。

「なに、軽い火遊びだ。良く焼いたからもう問題ない。それよりもカイル、お前は早く足を治療してもらえ」

 取り乱すカイルに平然と答えると、強は床から剣を抜いた。
 それと同時に部屋全体が元の丸太小屋に戻った。
 火の海を走り回っていた野盗達の身体からも炎が消えて、野盗達は次々に倒れた。
 だが、全身を焼かれたはずなのに服は無傷だ。身体だけが黒く焼かれている。

「カイル、怪我したの? 私を助ける為に」
「い、いや、別に大した傷じゃねえよ。唾でもつければすぐ治るよ。まあ、一応診てくれよ」

 面倒くさい男だ。さっさと診てもらえ。
 カイルが怪我をしていると聞いて、クレアは杖を持って、心配して駆け寄った。
 カイルは笑いながら強がりを言っていたが、やっぱり診てもらうようだ。

「カイル、クレアの事は任せた。俺は外のゴミ掃除をしてくる」
「いや、ちょっとキヨシ! だから、騎士団だって!」

 カイルの警告を無視して、強は丸太小屋から外に出て行った。
 奴らの正体はクレアに治療してもらいながら、教えてもらえばいい。

「射て!」
「ん?」

 扉から強が出ると同時に弓矢が放たれた。13本の矢が強に飛んでいく。
 残念ながら強には無駄だ。右手の剣に聖域色=グリーンを使い、剣を水平に一振りした。
 凄まじい風圧が矢に向かって飛んでいき、矢を白いタンポポの綿毛のように軽く吹き飛ばした。

「危ないな。俺じゃなかったら死んでいたぞ」
「くっ、魔法使いか。どこの騎士団だ! 俺を見張っていたのか!」

 弓矢を構える12人の野盗達の後ろで、弓矢を持ったセインが強を殺せずに取り乱している。
 野盗と内通しているのがバレて、別の騎士団から調査に強がやって来たと思っている。

「見張る? 何を言っているのか分からないが、お前の事を怪しいとは思っていた。お前一人を迎えに行くのに、16人の騎士団員が動くとは思えない。俺なら野盗にやられる役立たずを、戦力としてわざわざ迎えには行かない。時間の無駄だ」

 強は清と記憶を共有している。清が気づけなかったおかしな点に、気づいている。
 森の中で弓矢の野盗六人に襲われずに騎士団が素通り出来た事、丸太小屋にいた野盗と同じ服の男達。
 騎士団と野盗が仲間だと疑うには、強にはこれで十分だった。

「ああ、そうかよ! だったらお前はただのお節介焼きの死にたがり野朗だ! 死にやがれ!」

 仲間の前で強に侮辱されて、セインは激怒した。
 さっき無駄だった弓矢を引いて、強の胸に向かって発射した。
 距離20メートル、訓練された騎士団員の矢は正確に飛んでいく。
 そして、当たり前のように強の剣に叩き落とされた。

「今度は矢の無駄……いや、お前達の人生が無駄か。面倒だ、纏めて掛かって来い。無駄を終わらせてやる」

 銀色の剣先を騎士団の青い制服を着た野盗達16人に向けて、強は強気に言った。
 16対1、ちょっと多いが強なら問題なく倒せるはずだ。
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