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第14話 魔力紋調査と街道の負傷者

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「か、形が変わったんだな。こ、これで出来る事が増えたんだな……な、何が増えたんだな?」

 それは自分で調べるしかない。とりあえず12個入りのたこ焼きを絵から取り出してみた。
 大ダコが入ったたこ焼きの数は12個だった。取り出しても個数は増えないみたいだ。
 むしろ清の腹の中へと減りそうだ。

「はふはふ……マ、マヨネーズが欲しいんだな」

 清はたこ焼きを食べながら考えた。
 お好み焼きと同じで、たこ焼きにもマヨネーズをかけた方が美味しい。
 辛子マヨネーズなら最高だが、描いている時間が勿体ない。
 熱々のたこ焼き12個を素早く完食した。たこ焼きは冷えると味が落ちてしまう。

「あ、味は変わらないんだな。だ、出せる大きさが変わったのかもしれないんだな」

 ほぼ食べているだけだが、清なりに成長した魔力紋を調べている。
 次は相撲取りと同じぐらいの巨大おにぎりを描こうかと思ったが、流石に食べきれない。
 一旦食べ物から離れて、食べられない物を描くべきだ。

 だが、剣や鎧のようにスケッチブックよりも大きな物を、すでに縮小して描いている。
 スケッチブックに描いた絵と同じ大きさの剣が出るわけじゃない。
 魔力紋が成長する前から、絵に描いた物を取り出すと、実物サイズになっていた。
 描いた物の大きさは、清が描いている時か、取り出す時に決まるようだ。

「きょ、巨大お寿司は無理みたいなんだな」

 清はスケッチブック限界の大きなお寿司を試しに描いてみた。
 巨大過ぎると縮小されるみたいだが、取り出した千円札サイズの玉子焼きは十分に巨大だ。
 綺麗な黄色の玉子焼きは甘く、酢飯のシャリとの相性は抜群だ。
 満腹に近いお腹では食べられないから、スケッチブックに戻した。
 明日、美味しくいただく予定だ。

「こ、このぐらいでいいんだな。ゆ、指が疲れたんだな。お、おやすみなんだな」
 
 カイルに依頼された食事とお菓子は用意した。朝から武器やら防具やら沢山書いて、もう指が限界だ。
 魔力紋が成長して、新しく何が出来るようになったのか分からないが、清は休む事にした。
 スケッチブックを広げると、畳の床に布団を敷いている快適な絵の中に入った。


 翌日、待ち合わせ場所のカイルの家で待っていると、クレアとジェシカの二人がやって来た。
 クレアは長袖、長ズボンの白い制服と着ている。
 ジェシカは上下一体化した半袖半ズボンの焦げ茶色のツナギを着ている。
 その上に蝶の羽根模様が黒で描かれた、薄い布生地の黄緑色のロングコートを羽織っている。

「うわぁー、何その格好? まさか一緒に歩くとか言わないでしょうね」

 頭部以外を青白い魔法鎧で完全防御しているカイルを見て、ジェシカは顔をしかめて嫌そうにしている。
 日本で考えると、待ち合わせ場所にコスプレ服で来た友人と一緒だ。全員が同類にされてしまう。

「当たり前だろ。襲われている間に着ろとか無理だからな。留め具が内側と外側に二箇所もあるんだぞ」
「はぁー、仕方ないから少し離れて歩きなさいよ」
「その方がいいかもしれない。少人数の方が襲われやすいと思う。カイルとキヨシ、私とジェシカで、男女で分かれて行きましょう」
「⁉︎ あ、ああ、そうだな。そうするか」

 カイルは納得してない顔だが、遊びに行くわけじゃない。
 女二人に言われて、清と一緒に前を歩き始めた。
 カイル達の後ろを50メートル離れて、クレア達も歩き始めた。


「あの格好、まるで『幽霊に聖剣』ね」
「でも、その方が襲われやすいと思う。凄く目立っているし」
「目立っているけど、悪目立ちよ。あんな将軍か騎士団長みたいな格好してたら、普通の人も寄り付かないわよ」

 いつものように街道の見回り依頼を受けて、ミルの町からコルの町を目指して、街道を歩いていく。
 女二人はカイルの変な格好にまだ言い足りないみたいだ。前方に見えるキラキラを指差して言っている。

「まあ、馬鹿は放っておいて、それよりもこの弓よ。試しに射ってみたんだけど、飛距離が凄いのよ。前の弓の2倍は遠くに飛ぶし、安定性も抜群なのよ。これって本当に模造品だと思う?」

 ジェシカが話題をカイルから弓矢に変えると、長さ90センチ程の青黒い弓の弦を引っ張って聞いた。
 青黒い弓の名前は『疾風の弓』だ。風の加護が付いているから、それで飛距離が伸びた。
 弦に矢は装着していないが、狙っている方向は前方のキラキラだ。十分に届く距離だから気を付けよう。

「私の杖も質の悪い模造品とは思えないけど、町の武器屋で盗まれたら大騒ぎになっているはずよ。それがないなら問題ないと思っていいんじゃない?」
「まあ、そうなんだけど……あいつがこれを用意できるお金を持っているとは思えないのよね。誰かから貰ったか貸してもらったと思うんだけど……そんな金持ちの知り合いがいるとは思えないし」
「もしかしたら……キヨシの絵を売ったんじゃない? 珍しい異国の絵だから欲しい人がいたのかも」
「……それあるかも! あいつならやりそうね。試しにどこかの店に絵を見せに行って、『高く買い取る』とか言われたら平気で売りそうよ」

 酷い言われようだ。実際は清を自宅に監禁して、強制的に魔法の絵を描かせているだけだ。
 人の物を勝手に売るのは犯罪だ。するわけがない。

 話しながらも女二人は順調に進んでいく。
 街道に落ちている物があれば、拾うのも見回りの仕事だ。落とし物は騎士団で保管される。
 前を歩く男二人は周囲を警戒するだけで、地面は見ていない。
 落とし物以外にも、街道の整備も見回りの仕事だ。
 穴が空いていたら埋めて、雑草が生えていたら引っこ抜く。

「どうしたのかしら?」

 だが、時には言われた以外の仕事が発生する場合もある。
 前を歩く男二人が、地面に座り込む茶髪の男と話をしている。
「どうしたんですか?」とカイル達とは無関係な人を装って、追いついたクレアが聞いてみた。

「えーっと……野盗に襲われて怪我したらしいです」
「それは大変ですね。良かったら治しましょうか? 私、回復魔法が使えます」
「うぐっ……た、助かります」

 カイルは他人ではないが、ジェシカが睨んでくるから他人のフリをした。
 身なりのいい青年は腹を押さえて苦しそうにしている。白シャツに赤いシミが広がっている。
 黒く細い縦線が何本も入った白い長袖シャツ、その上に落ち着いた茶色の革ベストを着ている。
 下は青緑色の長ズボンを履いている。通行人というよりは、若い商人という雰囲気が強い。
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