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第12話

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 この世界には『戦闘職』『技術職』『生産職』の三種類があり、さらに細かく分かれているらしい。
 異世界マジシャンである私は何故か錬金術師にされているが、錬金術師は技術職に分類されている。
 つまり非戦闘職なので、戦闘職である『剣士』のセラさんやお婆さんに勝てるわけがないのだ。

 その代わり、技術職や生産職は戦闘以外で秀でた能力がある。
 錬金術師なんかは魔法の道具を作れる力を持っている。
 戦闘職が同じ材料、同じ方法で作ろうとしても同じ物は作れないのだ。

 生産職には『農師』『釣り師』『伐採師』があって、こちらも戦闘職や技術職が同じ材料、同じ方法で野菜を育てても枯れてしまうそうだ。
 魚釣りなんかは職業関係なく出来そうな気もするけど、こちらも違いがあるそうだ。

 まあ、私の場合は帽子からハンバーガーでも、ポテトでも何でも出せる。
 ちょっと試したら魚も取り出せたから、技術職でも生産職でもいけると思う。
 その気になれば、お婆さんもマジックで倒せると思う。
 つまり異世界マジシャンは万能職で最強職であると言っても過言じゃない。

「ひぃぃ……ひぃぃ……」
「まったく……この調子だと王都に着くまでに使い物にならないねえ。ほら、休憩終わりだよ!」

 体力皆無の汗だくマジシャンにお婆さんが呆れている。
 馬車と馬は出してないけど、食事と飲み物は私が全部出している。
 サポートの仕事はキチンとやっている。

「つ、疲れたぁ~!」
「お疲れ様。しっかり休んでねえ」
「甘やかすなよ。セイラ、次の休憩まで腹筋でもしてろ」

 馬車の中に入ると力尽きた。ラナさんだけが優しい。
 まったく休憩してないけど、私の休憩は馬車の中とお婆さんが決めている。
 また揺られて吐きそうになるけど、紙袋は出せる。間に合わない時は帽子に吐こう。

 ☆☆☆

 なんだかんだと馬車に揺られて二日。目的地の王都に到着した。
 最初の町の観光もしてない私にとっては、やっとまともな観光が出来ると期待している。
 その為にもセラさんには、さっさと負けてくれることを期待している。

「何とか間に合ったねえ。武闘会は明日だから、今日はゆっくり休みな」

 また生活感のない家に連れて行かれると、お婆さんが言った。
 街の宿屋は出場者や観客で満員状態らしいので、こんなベッドの無い家でも贅沢は言えない。
 帽子から布団と枕を出して、毛布に包まれるだけ幸せな方だ。

「こら、何処に行くつもりだい?」
「えっ? ちょっ、ちょっと街の観光に……」

 しれっと家から出ようとしたら、お婆さんに気づかれ止められた。

「まさか逃げるつもりじゃないだろうねえ?」
「ま、まさかぁ~♪ そんなこと考えたいこともないです」
「本当かい? 本当に逃げるつもりがない奴は『何で逃げるんですか?』って逆に聞き返すもんだよ」
「……」

 じゃあ、こっちも聞きたい。何で逃げると思ったのか聞きたい。
『逃げるようなことをしている自覚があるからでしょ?』と聞き返したい。

「やっぱり逃げるつもりだったねえ。セラ、ラナ、あんた達も付いて行きな。逃すんじゃないよ」
「はい、お婆様」
「まったく、こっちは疲れているのに……」

 お婆さんに言われて、ラナさんは素直に、セラさんは嫌々返事をした。
 馬車の操縦はアメリア夫人で、二人は馬車に揺られていただけだ。
 私は休憩のたびに地獄の特訓だった。本当に疲れているのはアメリア夫人と私だけだ。

「で、どこを観光するんだ?」

 嫌々ながらもしっかり見張るつもりらしい。
 家を出ると早速セラさんが聞いてきた。

「とりあえず適当に歩きたいです。ずっと馬車の中だったので……」
「まあ、確かにその通りだな。試合前にちょっとは身体を動かすとするか」

 私の返事を聞いて、セラさんが大きく背伸びをしてから右肩を回している。
 運動不足アピールが凄いけど、こっちは疲れた顔で運動過剰アピールだ。
 誰も気づいてくれないけれど……。

 よし、気分を変えよう。やっと本当の休憩がやってきた。
 時刻は武闘会前日の賑わう街の昼間。
 若い女子が三人集まればやることは一つしかない。
 期間限定商品を買い漁る。

 コインマジックでお金を増やしたり、銅貨を銀貨に変えることには成功している。
 もう私に怖いものはない。理性を抑えなければ何だって出来る。
 もちろん偽金使ったのがバレるとヤバイので、ハンバーガーで稼いだお金を使うつもりだ。
 やっぱり悪いことはしない方がいい。女神様から天罰が下りて無職になったら大変だ。
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