上 下
7 / 20

第7話

しおりを挟む
「は、は~い♪ すぐに治しますねぇ~♪」
「「「……」」」

 会場が……じゃなくて、路上が葬式会場みたいに暗くなっている。もう私が明るくなるしかない。
 パチパチパチとセルフ拍手で盛り上げるとエイパムの頭を拾った。

「……ボンジョビ?」

 違います。喋る生首は気にせずにシルクハットの中にブチ込んだ。
 手足もブチ込むとハットを上下にシェイクする。
 しっかり混ぜたら、その帽子をエイパムの頭の無い首の上にポンと乗せた。

「さあ、皆さんご覧ください! 何と……切られた部分から切られた部分が生えますよぉ~! さあ、皆んなで生えるように応援しましょう!」
「「「……」」」

 めっちゃ静かだ。明るいのは私だけだ。仕方ない、応援したくなる雰囲気にするしかない。

 ☆召喚マジック発動☆

「生えろぉ~! 生えろぉ~!」

 帽子に向かって、両手から念じるように気を放出した。
 もちろん放出している気分で何も出ていないはずだが、思った通りのマジックは発動するはずだ。

「……クルッポ? クルッポ?」
「あっ! ハトさんだぁ!」

 帽子の中から真っ白な鳩が一羽出てきて、子供が喜んだ。
 白鳩がシルクハットを被った状態で首を傾げて鳴いている。

「あちゃー! 皆んなの応援が足りなかったみたいだぞ。頭が鳩になっちゃった。さあ、もう一度。今度は皆んなも応援しないと駄目だぞ!」
「「エイパムぅ~‼︎ エイパムぅ~‼︎」」

 とっても元気なチンピラさんが二人いるけど、チンピラの応援は聞こえないフリで進行させてもらいます。

「ほらほら、聞こえないよぉ~? 生えろぉ~! 生えろぉ~!」
「「「……は、生えろ」」」
「ん~? 聞こえないぞぉ~?」

 うざぁ、と私がやられたら思うけど、今の私はNHKの体操のお姉さんばりに明るい進行役だ。
 会場のお子さん達……と呼ぶには成長しきった大きな大人達に向かって、右耳に手を添えて聞き返した。

「「生えろぉー‼︎ 生えろぉー‼︎」」
「「「生えろぉ……生えろぉ……」」」

 とっても元気なチンピラさんが二人いるので、サクラなんか用意してないのに、サクラを用意した気分になる。
 もうこの会場の観客は全体的に終わっているので、さっさと終わらせるとしょう。

 ☆修復マジック発動☆

「おっ! おっ! 皆んなの応援の力で手足が生えてきたよ! そら、もう一息だ!」
「「生えろぉー‼︎ エイパムぅー‼︎」」

 皆んなじゃなくて、もう完全にほぼ二人の力だ。
 仲間か友達か知らないけど、チンピラの応援に応えて、エイパムの手足が切断面から伸びていく。
 手足が服と靴まで含めて完全に現れると、最後に白鳩が帽子に吸い込まれて、ポンと帽子から顔が飛び出した。

「……ボ、ボンジョビ? ぺ、ペッパーズ? お、俺……生きてるのか?」
「「エ、エ、エイパムぅー‼︎」」
「いえぃっ♪ 皆んなの応援の力でエイパムが生き返ったよ♪」
「「「…………」」」

 うん、チンピラ以外が完全に盛り下がっている。エイパムが生き返ったのに、観客の目が死んでいる。
 チンピラ達が浮遊状態でスカイダイビングみたいに手を繋いで輪っかを作って、感動の再会をしているのに、目を背けて見ようともしてない。
 
 ☆メンタルマジック発動☆

(何がマジックだ。ただの『幻術師』の幻術じゃないか。さっき食べたハンバーガーも幻だから無料だったのか。せっかく美味しいと思ったのに……)
(まったく悪ふざけが過ぎる。魔法をこんなくだらない詐欺行為に使うとは。あのチンピラ達も金で雇った奴らじゃな……)

 ん? 幻術師? 魔法? 詐欺師?
 どうやら私のマジックが失敗したわけじゃないらしい。
 この世界には魔法が存在していて、私がその魔法を使って、解体マジックショーを見せたと思っている。
 しかも詐欺師扱いだ。多分、ハンバーガーも空気を食べさせたと思われている。
 確かにお金を貰って、ハンバーガー味の空気食べさせたのなら詐欺だ。

 ☆メンタルマジック発動☆

(フフッ。あの娘……使えるわね)

 えっ? 勝手に発動したマジックが喜んでいる観客の声を拾ってくれた。
 私とチンピラ達から離れていく人垣の中に、私を真っ直ぐに見ているお婆さんがいた。
 お婆さんと言うには背筋がピーンと伸びていて、白髪の長い髪は綺麗に纏められている。
 年齢は六十前半で、上品な昭和の大女優といった雰囲気がする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

処理中です...