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第3話

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 ☆☆☆

「あぁー早く町探さないとなぁー」

 命の危機は去った。そして、赤い血を垂れ流す山男の死体は断固無視だ。
 棒読みの台詞で死体からさっさと離れることにした。

「さてと……」

 ここまで来ればもう安心。ではないけど、死体から二百メートルは離れた。
 脳裏にバラバラ山男がまだバッチリ残っているけど、こういうのは新しい記憶で上書きするしかない。

 ☆浮遊マジック発動☆

「おぉ! 飛んでる!」

 今度は私が飛ぶ番だ。私の足が地面から浮き上がった。
 飛べない豚はただの豚。その前に豚と呼ばれるほど太ってない。
 フワフワと風船みたいにゆっくりだけど、意識すれば自分が思った方向にも進めるみたい。
 とりあえず上に上に飛んでいく。やっぱり何かを探すなら高い所から見るのが一番だ。

「あっはははは!」

 必要ないけど両手をパタパタ振って、まるで小鳥さんになった気分だ。
 これなら森男の嫌な記憶が消えるのも時間の問題だ。
 たまに森男っぽいのが森の中にチラッと見えるけど、あれは断固無視する。
 私が探しているのは人間が住んでいる町だ。

「あっ! 本当にあった!」

 無い可能性もあったけど、森を抜けた先、さらにその先にある灰色の岩山の麓に町っぽいのが見える。
 まるで博物館とかに置いてある、町の模型を草原のど真ん中に置いたような感じだ。

「あそこまで飛ぶと疲れそうだなぁ……」

 博物館の町模型だ。つまり遠くに見える町は小さい。
 本当に小さい町だとそれはそれで困るけど、目測で森を抜けるまで二キロ、町まで十四キロぐらいありそうだ。
 歩くよりは飛ぶ方が楽だと思うけど、力尽きて墜落の危険もある。
 第二の浮遊マジック大失敗の犠牲者にはなりたくない。

 ☆瞬間移動マジック発動☆

「えっ? ——うわぁあああ‼︎」

 また勝手に発動した。身体が何かにギューンと引っ張られたと思ったら、町の上空に浮いていた。
 凄い。凄いけど……パンツ丸見えじゃない! 素早くミニスカートの裾を両手で押さえた。
 さっきまでは人のいない森の中だったから問題なかった。
 でも、下を見ると普通の人が町中を歩いている。
 今の私はパンツ丸見え、いや、パンツ丸見せ女だ。
『第一印象から変態だと思ってました! 付き合ってください!』と変態に告白されても仕方ない女だ。

 ☆早着替えマジック発動☆

「……へぇっ?」

 困っているとまたマジックが勝手に発動してくれた。
 ステージ衣装が一瞬で白い長袖シャツ、肩紐付きデニムパンツ、スニーカーに変化した。
 この匂い、完全に私の私服だ。両手を合わせて、女神様とマジックに感謝した。

「さぁ、さっさと降りますか……」

 変態に変態扱いされる心配はなくなったけど、このまま空に浮いていると変人扱いされてしまう。
 町の人に見つかる前にサッと降りる……ううん、瞬間移動でパッと降りた方が見つからない。

 ☆瞬間移動マジック発動☆

 人気の無い場所を探して、その場所に狙いを定めてパッと移動した。

「よし、成功。どれどれ……ほぉほぉ……」

 移動したのは高い尖塔の天辺近くにある、外周をグルッと囲んだ作業用の狭い通路だ。
 そこから町を覗き込んでみた。
 町を歩いている人達は緑肌の山男ではなく、私と同じ背格好の日本人っぽい人達だ。
 男も女も子供も老人もいる。髪の色は黒髪や茶髪が多く、緑色にオレンジを少し混ぜた人もいる。髪型も様々で、山男と違い美意識が高そうだ。
 服の方も現代っぽい感じで、普通に今の日本人を異世界に連れてきたように見える。
 東京にないのに東京のランドに作られた町に遊びに来た……そんな感じだ。

「うーん……何をしたらいいんだろう?」

 食べ物と服は出せるから飢え死にの心配はない。でも、住む場所は必要だ。
 テントはマジック出せそうだから、寝る場所は問題ないと思う。風呂もトイレも問題ないと思う。
 今すぐにやるべきことが見当たらない。
 ……ないけど、森の中で魔女みたいにひっそり暮らすのもどうかと思う。
 十六歳の女子高生のやることじゃない。
 ここは若者らしく、まずは町を観光して、面白そうなものを探してみようかな。
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