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第五章 鬼畜高校生vs復讐鬼

第55話 賽銭箱と空っぽの愛

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 白大虎を倒すと、装備の強化を始めた。
 ゲーム世界の魔法効果が付いた装備は作れなかった。
 斬撃耐性や打撃耐性を諦めると、普通に合金製の刀と頑丈な服を作った。
 必要な物は強さだけだ。それ以外は作る価値がないゴミだ。

「そろそろ時間か」

 時計を見ると総理と会う約束の時間になった。
 瞬間移動のボタンを押して、国会議事堂にある独房に向かった。

「すみません。お待たせしました」

 指定された独房の前に到着すると、短い黒髪と眼鏡をかけた総理が待っていた。
 偽総理が死んだ影響で、今は事件の後処理に多忙な日々を送っている。
 特に記憶が戻った少女達の心のケアが大変だと言っていた。

「私も今来たところだ。顔色がだいぶん良くなっている。これなら渡しても問題なさそうだ」

 総理がA4サイズの大きな茶封筒を渡してきた。
 口を開けて見ると、かなりの枚数の書類が入っていた。

「国内の怪しい団体、企業、個人の一覧だ」
「こんなにあるんですか?」

 数日で調べてくれたのは感謝するけど、流石に多すぎる。
 一人で調べるのは苦労しそうだ。

「おそらく氷山の一角だ。骨董品の贋作や製造元不明の銃器、未知の危険ドラッグなど、扱っている品物は幅広いが、いくら調べても入手先が不明だった」
「賽銭箱で作った可能性があるという事ですか」

 どうやら少しは調べる価値はありそうだ。
 賽銭箱で代表者や側近の居場所を、教えて欲しいと願えばいい。
 願いを拒否されたら、賽銭箱を持っている可能性大だ。

「ありがとうございます、早速調べてみます」
「ちょっと待ってほしい」
「はい?」

 お礼を言って帰ろうとすると、総理に呼び止められた。

「その中でも一番怪しいのが、宗教法人『八卦会はっけかい』だ。捕まえた偽議員の証言で、偽総理が何度も訪れている事が分かった。調べるのならば、十分に注意した方がいい」
「八卦会ですか……分かりました、また何かあったらよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく頼む。支援は惜しまない」

 偽総理が関係しているのなら、ちょうどいい。
 その八卦会が悪ならば、遠慮なく潰させてもらう。
 エミリも多少は不快になるだろう。

 キャンピングカーに戻ると、書類の怪しい人物を願いで調べていく。
 願いを拒否されなかった人物は崖を登らすに、ギブアップして除外していく。

「やはりハズレが多い」

 名前の横にバツ印が増えていく。
 賽銭箱で作った商品を販売するだけの、下請けのような存在なんだろう。
 一人捕まえて脅していけば、賽銭箱を持つボスに辿り着けるかもしれない。

「たったの三人だけか」

 書類に書かれた全員を調べ終わった。賽銭箱を持つ人間は、五百八十九中三人しかいなかった。
 一人は総理が注意するように言っていた、八卦会の宗主『天嶌蘭瞳てしまらんどう』だ。
 残り二人は古美術商と宝石商の男だった。本物のコピーを賽銭箱で作って販売しているようだ。
 
「メインディッシュは最後に取っておくか」

 まずは小物二人を狙う。大物は最後だ。住所を調べて、瞬間移動を使った。
 贋作販売は廃業してもらう。

 ♢
 
「これでいいんだろ?」

 二人を殺して賽銭箱を手に入れた。
 ベッドの上のボロ賽銭箱の前に、濃い茶色の賽銭箱を二つ並べた。
 殺されると思わなかったのか、二人とも普通の人間みたいに弱かった。
 死体は別の無人島に捨てて来た。

『どちらも特定の願いしか叶えられない最下級の賽銭箱のようだ』
「使えないのか?」

 心配で聞いてみた。使えないなら殺す前に言ってほしい。

『無いよりはマシだ。三つの賽銭箱にお金入れて、三つの賽銭箱よ、一つになれと願え。それで終わりだ』
「それは簡単だな」

 問題はなさそうだが、期待は出来そうにない。
 五円玉を三つの賽銭箱に入れて願いを言った。

「三つの賽銭箱よ、一つになれ」
『その願いを叶えよう』
「んっ?」

 三つの異なる声が同時に聞こえると、ボロ賽銭箱に二つの賽銭箱が吸い込まれ。
 何か変化が起こるかと思ったのに、ボロ賽銭箱のままだった。

「これで終わりか? 変わったようには見えないな」
『無いよりはマシだと言った。それに処女の純潔がまだ足りない。力を得たいのならば、集める事だ』
「それはあまり気が乗らない。他の賽銭箱を集めるだけじゃ駄目なのか?」

 藤原さんと薫が死んでいるのに、他の女と楽しくエッチなんか出来るはずがない。
 それに大切な人が出来てしまって、その人がまた殺されてしまったら耐え切れない。

『それは無理だ。お前が力を得るのに必要なものだ。死人を救いたければ、手段は選ばない事だ』
「分かっているよ。でも、今はそういう気分にはなれないんだ」
『遅かれ早かれやらなければならない事だ。誰も運命からは逃げられない』
「……」

 俺が望んだ運命じゃない。俺が望んだのは幸せな日々だ。
 こんな車の中で、一人で食事を食べる日々じゃない。
 父さんに会いたい、母さんに会いたい、薫に会いたい、家族で食事したい。

『それともお前は助ける事を放棄するのか? この先、誰も愛さずに一人で居続けるのか? だとしたらお前には失望した。不可能を叶える資格はない。この島で死ぬまで墓守りでもする事だ』
「お前には感情がないのか? 家族が殺されて、恋人が殺されて、そんな状態で出来る人間なんていない」

 人の気持ちを無視して、賽銭箱が無茶苦茶な事を言ってくる。
 今の俺には誰かを愛したいと思える気持ちがない。
 空っぽの愛で、それでも精一杯頑張って、皆んなを助ける為に動いている。
 これ以上頑張るなんて無理だ。

『お前が感情を語るか。お前は恐れているだけだ。自分に関わる人間が死ぬ事を、そして、死んだ人間を生き返らす事は出来ないと諦めている。お前の家族は二回殺された。最初は女に、次はお前だ。諦めるという事はそういう事だ』
「諦めていない。勝手な事を言うな」

 諦めた瞬間なんて一秒もない。俺に出来るか信じられないだけだ。

『思うだけでは願いは叶わない。助けたいと思っているなら、助ける為の行動をしろ』
「ぐっ! いちいち言われなくても、そんなの分かっているよ! お前に俺の何が分かるんだよ!」

 我慢できなかった。賽銭箱を掴んで壁に投げつけた。
 上から目線で俺の事を全部分かっているフリをされるのは、もうウンザリだ。

『……お前の事は分からなくても、人間の事は分かる。愛の無い人間は生きられない。お前が誰かを愛する事は出来なくても、誰かから愛される事は出来る。藤原美鈴の友人が神社にお参りした。何があったのか教えて欲しいそうだ。教えるついでに純潔を奪えばいい。彼女は処女だ』
「俺に愛される資格なんてない」

 藤原さんの友人とは、多分、成宮玲奈なりみやれなの事だろう。
 藤原さんと連絡が付かないから心配しているんだ。
 俺の家族と藤原さんの家族は行方不明ではなく、総理の提案で家族の急な仕事で留守になっている。
 いつまでも持たない嘘だけど、総理は何とかすると言っていた。

『それを決めるのはお前ではない。彼女だ。大切な友人を救う為に、自分の大切なものを捧げる行為も愛だ』
「愛か……」

 ベッドから降りると賽銭箱を拾った。
 純潔はどうでもいい。誰かと藤原さんの話がしたい。

 賽銭箱から手鏡を取り出して、隠しカメラで玲奈が自宅にいるか確認した。
 白い半袖シャツと青色の長いジーンズを履いて、少し散らかった部屋でスマホの画面を見ている。
 瞬間移動を二本取り出して、自宅からキャンピングカーに連れ去った。
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