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第三章 最強高校生vs内閣総理大臣

第32話 独房の内閣総理大臣

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「お願いです! 殺さないでください! 総理に脅されただけなんです!」

 まだ死にたくない。誰にでも命乞いする軽い男だと言われてもやってやる。

「こんな物騒な物を向けた後に、それは都合が良すぎじゃないですか? お互い敵対せずにwin-winの関係で行こうと言いましたよね? こうやって敵対すると、片方だけがwinするしかありません」
「ううっ!」

 どうやら無駄な命乞いだったみたいだ。
 こめかみから右耳の穴に銃口を移動されて、グリグリと耳の穴かっぽじって、よく聞けよ状態だ。
 こんな事になるなら藤原さんに頼んで、一発で妊娠させる薬を飲んで子作りすれば良かった。
 殺されても、両親に孫の顔は見せてあげられた。

「そ、それは……人質を取られて仕方なかったんです! 何でも言う事を聞くから助けてください!」
「取引き条件としては弱いですね。何でも出来る人間に何でもするですか」
「うぅ、うぅぅ……助けてください。お願いです。まだ未成年なんです」

 涙も鼻水も流して、何とか情に訴える。テーブルの上に白木の賽銭箱が見えた。
 何でも欲しい物を手に入れられる相手に、何をどうすればいいのか分からない。
 
「まあいいでしょ。これが何なのか分かりますか?」
「へぇっ?」

 突然、右耳から銃口を離すと、千葉がテーブルの財布から硬貨を取り出した。
 あの大きさで銀色の硬貨は一円玉しか知らない。

「一円玉ですか?」
「もっとよく見てください。本当に一円ですか?」

 言われた通りによく見ると、百円玉みたいに硬そうな金属で、円の文字が角になっていた。

「一角?」
かくではなく、発音はモウです。中国の硬貨です」
「す、すみません! 馬鹿なんです! 馬鹿なんです!」

 中国の硬貨らしいけど、間違えたから殺される。最後のチャンスを失敗した。
 急いで謝罪して、お馬鹿アピールをした。馬鹿だから間違いを冒してしまう。

「まあ、敵の敵は味方と言いますし、日本人同士で戦うなんて不毛なだけですね。あの西田総理は偽者で、本物は地下牢に囚われていますよ。どんな風に脅されたのか教えてくれませんか?」
「偽者? まさか……」

 間違えたから射殺かと思ったのに、硬貨を転がしながら別の事を話し出した。
 知り合いじゃないけど、総理の顔は誰でも知っている。見間違える日本人はいない。

「知らないフリですか? 賽銭箱に本物の総理の居場所を願えば分かりますよ。賽銭箱のお金は何を使っているんですか?」
「ご、五円玉です」

 抵抗したくても何も出来ない。何も話さずに拷問もされたくない。
 知っている事は全部話すから、透明人間の薬が切れる前に楽に殺してほしい。
 裸の少年のタンポンを切り落として、拷問なんてしないでほしい。

「では、一枚だけお貸しします。これで総理の正体が分かります。ですが、その前に知っている事を全部教えてください。何か助けになるかもしれません」
「はい、もちろん全部教えます! 何でも聞いてください!」

 財布から五円玉を一枚取り出すと、また情報を聞いてきた。もちろん何でも教える。
 三日以内に千葉を殺さないと俺が殺される事、千葉を探した方法まで全部話した。

「……なるほど、そういう見つけ方もあるんですね。以後気をつけます。では、さようなら」
「えっ? ええーッッ⁉︎」

 知っている事は全部話した。
 それなのに白木の賽銭箱から瞬間移動を取り出して、笑みを浮かべて千葉が消えた。
 情報を洗いざらい喋らされて、情報と銃を持ち逃げされた。

「嘘でしょ! これはヤバイって!」

 金縛りが解けて動けるようになったけど、標的が目の前から消えた。
 冗談だと言って、すぐに現れてほしい。でも、絶対に現れない。
 俺なら二度と見つからないように、居場所を数時間ごとに変える。

「落ち着け、落ち着け! まだ何か手があるはずだ!」

 大失敗はこれが初めてじゃない。焦る気持ちを抑えて、冷静に考えるしかない。
 生きているなら、まだ出来る事はたくさんある。
 子供だって作れる。逃げる事も出来る。アイドルだって覗ける……

「そうだ、逃げればいいんだ! まだ失敗した事は知られていない!」
 
 もう終わりだと思ったけど、まだ二日も猶予があった。
 これだけあれば、総理の方を殺す事だって出来る。殺される前に殺すしかない。
 国会議事堂の床に爆弾仕掛けて、総理が演壇で演説する瞬間に爆破すればいい。

「そういえば偽者とか言ってたけど……あれって本当なのか?」

 爆弾を作る前に千葉が言った事が気になった。偽者の総理だと言っていた。
 総理は賽銭箱の持ち主は探せないと言っていた。前に一度確かめたから間違いない。

 だけど、ソファーの上に五円玉が置かれている。
 もう一度だけ確かめてもいいかもしれない。

「まあ、本物でも偽者でも殺さないと殺されるけど……」

 確かめたところで意味はないけど、服と靴を履くと賽銭箱にお願いした。
 本物の西田総理の居場所を教えて欲しいとお願いすると、いつもの断崖に放り出された。

「……少なくとも居場所は分かるのか」

 藤原さんの家に現れた総理は黄金の賽銭箱を持っていた。だけど、賽銭箱は使っていない。
 借りただけの賽銭箱を持っていた可能性もある。それならただの馬鹿力ジジイだ。
 賽銭箱の本当の持ち主が他にいる可能性がある。

 パパッと頂上まで登りきると、いつもの幽体離脱で飛ばされた。

「何だよ、やっぱり国会議事堂じゃないか」

 見覚えしかない宮殿のような建物が見えてきた。
 居場所が分かる理由があるとしたら、総理がまだ寝ていて、賽銭箱を持っていないだけだ。
 多分、政治家の乱交パーティで夜は忙しかったのだろう。寄付金集めによくやるよ。

「こっちの道は知らないな」

 トイレの隠し扉を通り抜けて、灰色の長い廊下を進んでいく。
 途中の分かれ道を曲がってしまった。
 真っ直ぐ進めば、マシンガンだらけの鏡張りの部屋に着く。

「この扉は独房か?」

 見覚えのある扉と扉横の小さな穴が壁に見えた。
 四角い穴から部屋を見ると、中に人の姿がチラッと見えた。
 俺以外にも誰か捕まっているようだ。

「おっと、ここか?」

 二十部屋以上の扉を通過すると、飛んでいた身体が急に止まった。
 まだ奥まで部屋が続いているみたいだけど、この扉の向こうに総理がいるみたいだ。
 扉を通り抜けると、薄緑色の囚人服を着せられた、白髪混じりの長い髪と髭の男が座っていた。

「この人が本物の総理?」

 髪と髭の長さから半年以上は切っていないと思う。
 身体は痩せ細り、虚な目で緑色の壁をジッーと見ている。
 テレビの総理と違って、オーラというか覇気を感じない。

「……あれが本物? じゃあ、偽者は誰なんだ?」

 時間切れになった。高級マンションの部屋に戻されてしまった。
 偽者が本物の総理を幽閉して、やりたい放題やっているみたいだ。
 だけど、目的が分からない。

「総理に聞くしかないか」

 幽閉場所は分かった。着た服をまた脱ぐと、使い捨ての瞬間移動のボタンを押した。
 幽閉された総理に話を聞けば、何か分かるかもしれない。
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