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第三章 最強高校生vs内閣総理大臣

第29話 総理からの殺人依頼

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 部屋に戻ると、嫌がる藤原さんに錠剤を飲み込んでもらった。
 薬が効くまで時間がかかると思っていたけど、流石は不思議な賽銭箱だ。
 すぐに効果が現れた。

「あれ、神村君? 戻ってきたんだ。でも、私、どうして制服着ているの?」

 さっきまで怖がっていたのに、ベッドに座る藤原さんの表情が落ち着いている。
 眠り姫が王子様のキスで寝覚めたような反応だ。
 ……うん、今のは自分でも分かるぐらい気持ち悪い表現だな。王子の顔じゃない。

「昨日の夜から何があったか覚えている? 変な人に薬とか飲まされなかった?」
「昨日の夜……あっ! 朝に黒マスクの人が家に来たよ。うーん、その後は思い出せ……」
「多分、そいつが藤原さんの記憶を消したんだ。きっと藤原さんの家族の記憶も消されている」
「そうなんだぁー。お金とか盗られてないかな?」

 藤原さんに聞くと黒マスクが出てきた。犯人は予想通りのようだ。
 薬ではなく、ピカッと光って記憶を上書きする装置の可能性が高そうだ。
 常にサングラスで防御した方が良いかもしれない。

「とりあえず続きは賽銭箱の中で話そう。聞かれたらマズイ話がたくさんあるから」
「えっ! えーっと、中じゃないと駄目?」
「ごめん、時間がないんだ。行くよ」

 ちょっと戸惑っているけど、時間がない。
 ベッドに座ると藤原さんの手を握って、ケーキ屋に向かった。
 佐藤夏織が病院にいる事、内閣総理大臣が事件を揉み消している事を話した。
 余った時間は服を脱がせて、服を脱いで、チョコを使って愛し合う時間に使った。

「んん、んっ、んむっ」
「はぁ、はぁ……!」

(チョコバナナ、チョコバナナだから!)

 記憶を消されて、変な事をされてないか心配だったけど、藤原さんの純潔は守られていた。
 今度は忘れられないように、妹で鍛えた技で満足させよう。

『時間切れだ』

 藤原さんが食べている途中だったのに、時間切れでケーキ屋から追い出された。
 藤原さんがベッドに倒れ込んで、真っ赤な顔を両手で隠している。

「んんーッッ! 神村君、何で私にエッチな事させるの。恥ずかしいよぉー!」
「本当に分からないの? こんな事したいと思う女の子は藤原さんだけだよ」
「あぅっ、それって……」

 真剣な顔で藤原さんの横に寝っ転がると、藤原さんの両手を顔から退けて、上から覗き込んだ。
 順番がめちゃくちゃになってしまったけど、今日こそは告白する。
 明日も生きている保証はない。死んで後悔しない生き方をする。

「藤原さん、俺、ずっと藤原さんの事が……」
『ピンポーン♬』
「んっ?」
「あっ、お、お客さんみたいだね。出なきゃ」

 今、俺の人生で一番良い所なのに、雰囲気を壊す邪魔者が現れた。
 だけど、この程度で諦めるつもりはない。藤原さんの目を真っ直ぐに見て続きを話した。

「そんなのどうでもいいよ。藤原さんは俺だけを見て。俺も藤原さんだけを見て……」

 コン、コン……

「……っ!」

 扉がいきなりノックされた。
 慌てて扉を見たけど、この状況はマズイ。俺が藤原さんを襲っているみたいだ。
 賽銭箱を持って逃げようとしたけど、その前に扉開いた。

「お母さん、誤解です! 強引だけど合意なんです!」
「ここに来ると思っていた」
「なっ⁉︎ 西田⁉︎」

 扉が開いて現れたのは藤原ママではなく、短い黒髪に眼鏡をかけた総理大臣だった。
 ある意味セーフだったけど、絶対絶命のピンチである事に変わりない。

「口の利き方が直ってないな。おっと、逃げるな。下にいるご婦人を乱暴したくない」
「か、関係ないだろ! 俺を殺しに来たのなら、俺だけを殺せばいい!」

 藤原ママを人質に使うなんて、やっぱり犯罪者だ。
 こんな奴が総理の椅子に座っているから、日本から犯罪が無くならない。

「ふふっ。今日は勇敢だな。可愛い彼女の前で必死の強がりか? 良い部屋だ、若い女の匂いを嗅ぐと若返る」
「息するな! 加齢臭と口臭が臭いんだよ! あと靴脱げよ!」

 ベッドの上の藤原さんを庇いながら、敵意を俺に向けさせる。
 これで裸の状態だったら格好悪いけど、これなら勇敢な最後で終われる。

「そろそろ黙れ。後ろの女を殺されたいのか? 私が何をしても、未解決事件を一つ用意するだけで解決する。お前を殺人犯にしてやろうか?」
「ぐぐっ!」

 信じられない。国家権力を使って、都合のいい事件と犯人を作ると脅してきた。
 揉み消しよりもタチが悪い。好きな罪で逆らう人間を冤罪に出来る。
 下手に逆らえば、父さんは痴漢、母さんは万引き、妹は援助交際で捕まりそうだ。

「分かった……言う事を聞くから、あの部屋に戻るから、だから、何もしないでください」

 ベッドから下りると、床に土下座してお願いした。俺さえ言う事を聞けば、他に酷い目に遭う人はいない。
 記憶を消されるかもしれないけど、最後に藤原さんに会えただけでも幸福だった。

「良い心掛けだ。お前はデスクワークよりもフィールドワークの方が向いているようだ。こっちの仕事をしてもらう。まずはこの男を殺して来い」
「んっ?」

 総理が床に一枚の写真を落としてきた。写真の男には見覚えがある。
 化粧水販売の千葉信一だ。フェイクニュース事件を揉み消す為に殺すつもりだ。

「どうして、この男を殺すんですか?」
「仕事が雑だからだ。余計な事は聞かずにお前はやればいい。まともな仕事が出来るように、賽銭箱の使い方を教えてやる。フッ。その賽銭箱では大した事は出来ないと思うがな」

 総理が得意そうに、スーツのポケットから黄金の賽銭箱を取り出した。
 いかにも金持ちの成金がやりそうな趣味の悪い賽銭箱だ。

「賽銭箱は願いを限定させる事で、試練の難易度を意図的に下げられる。瞬間移動も距離や場所を制限する事で、簡単な試練に変えられる。逆に願いを限定する事で、思い通りの物を手に入れる事も可能だ」

 総理が賽銭箱の説明を始めたけど、知っている事をベラベラ喋っているだけだ。
 でも、『賽銭箱の持ち主の居場所は探せない』は知らなかった。

 道理で前に総理を探そうとしても、賽銭箱に願いが拒否されるわけだ。
 もしかすると、この千葉信一も賽銭箱の持ち主なのかもしれない。
 居場所が分かっていれば、簡単に殺す事が出来るはずだ。

「お前のスマホを返してやる。逃げ出せば、そこに登録されている人間が全員この世から消える。失敗も許さない。自由を与えるんだ、三日やるからその男の首を持って来い」

 賽銭箱と仕事の説明が終わったみたいだ。
 総理が藤原さんに預けた俺のスマホをテーブルに置いて、賽銭箱から筒を取り出した。
 そして、ボタンを押して部屋から消えた。部屋の床には汚れた靴跡が残っている。

「掃除して帰れよ」
「怖かったぁー! 神村君、今の人、本物の総理なの?」
「本物だよ。国会議事堂に連れて行かれたんだ。それよりもお母さんが心配だから見に行こう」
「う、うん」

 緊張の糸が切れたみたいだ。藤原さんがベッドに倒れ込んだ。俺もあの威圧感に汗びっしょりだ。
 またケーキ屋に行って、二人で気持ち良い汗びっしょりになりたい。
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