ログイン可能でログアウト不可の開発中欠陥フルダイブRPGの世界に閉じ込められた。テストプレイヤーなら何してもいいんだよね？

第十八話

「えっ？　どういう事？」

　現実に戻ったはずなのに、メニュー画面が見える。
　まさかまだゲームの中にいるのか？　いやいや、それはない。
　それをやるには俺の私生活を調べないといけない。

　まずは部屋を撮影して持ち物の配置、さっき電話したから仕事先まで調べる必要がある。
　まさか？　二週間意識がなくなっている間に徹底的に調べたとか？

　いやいやいやいや！　それをやる意味と目的が分からない。
　全力で馬鹿な考えを否定していると、

「お客様、お困りですか？」
「いえ、何でもないです！　大丈夫です！」

　銀行の女性店員に声をかけられた。
　ＡＴＭの前でフリーズしていたら当然の対応だ。
　こっちも否定すると、素早く50万円下ろして後ろに待っていた人に譲った。

　……ゲームの中なのか？
　とりあえず外に待っている怖いお兄さんは置いておいて、銀行の椅子に座って考えた。
　まだメニュー画面が見える。こんなの宙に浮いていたら誰かが声をかける。
　つまり俺にしか見えていない。つまりヤバイ薬をやっている奴が幻覚見ている状態だ。

　おいおい、社長さんよ。手術失敗しているぞ。
　脳に変なチップ入れたから、変なものが見えるようになってしまったぞ。
　これは追加報酬を請求してもいい事案だ。慰謝料という追加報酬だ。

「あっ、くそっ……」

　でも、貰えない。社長の連絡先が分からない。しかも名前は名乗らなかった。
　俺が知っているのはゲームのタイトル、チップ入れる方法を提案した博士、手術した先生の名前だ。

「なぁっ！」

　とりあえずスマホで調べてみた。博士の名前で検索したらヒットしなかった。
　ブラックジャック、ドクターXで調べたら、漫画家の手塚治虫と女優の米倉涼子が出てきた。
　あの社長、俺を騙しやがった！　手塚治虫と米倉涼子には請求できない。
　俺、失敗してしまった。

　いやいや、今は失敗とかそんな話じゃない。今、絶賛失敗中だ。
　早くお金を渡さないと、怖いお兄さんに恥ずかしい写真をばら撒かれる。
　逃げたりしたら絶対に追われるし、ああ、くそッ。
　こんなの100万貰っても割に合わない。

　とにかく邪魔だからメニュー画面は消そう。
　こんなの見えていても、現実では何の役にも立たない。

　うわぁ～、村正とか村娘とか全部入ってるよ。
　消す前に持ち物にタッチしてみた。幻覚のくせにキチンと反応するから驚きだ。

　まあ、もしも日本刀を取り出せてもヤクザには通用しない。
　あっちも普通に持っているし、刀よりも強い拳銃持っている。
　もしもこの中で取り出すなら村娘だ。好きに使っていいです、と言って見逃してもらう。
　もちろん無理なので、差し出すのは福沢諭吉だ。
　こっちも好きに使ってください、と言って泣く泣く渡す。

　……そろそろ出ないとな。
　あんまり遅いと銀行員に助けを求めていると疑われる。
　メニュー画面の持ち物を確認するのは終わりだ。
　最後に村正をタッチしてみた。本当に取り出せるか確認だ。
　まあ、無理だと思う……

「……なん、だと？」

　右手に日本刀が現れた。幻覚のくせに握っている感覚もある。

「きゃああああ！　あの人、強盗よ！」
「うわぁー！　日本刀持ってるぞ！　銀行強盗だ！」

　……えっ、他の人にも見えてる？
　突然叫び声が上がり、俺の周りにいた人達が逃げ出した。
　この反応は間違いなく見えている。銀行強盗するつもりはまったくないが、日本刀持っているなら強盗だ。

「いや、違っ……」
「立ち上がったぞ！　警察、警察だ！」
「落ち着いてください！　すぐに警備員が対処します！」
「……」

　駄目だ、動いたら刺激してしまう。
　立ち上がったけど、すぐに椅子に座り直した。
　男性銀行員達が客を外に誘導したり、刺又を持って警備員四人と俺を取り囲もうとしている。
　逃げるつもりも強盗するつもりもないのに過剰な反応だ。
　ゲーム世界じゃないんだから、ひ弱な俺には何も出来ない。
　この椅子のパイプだって——グニャ。

「……おんやぁ～？」

　椅子の脚である鉄パイプを力一杯握ると、アルミ缶みたいに潰れてしまった。
　思わず二度見してしまった。出せるのは日本刀だけじゃなかった。
　レベル上げで強くなった力も出せるみたいだ。

「ふぅ～、やれやれ」
「立ち上がったぞ！　やるつもりだ！」
「おい、武器を捨てろ！　抵抗するな！　大人しくしてろ！」

　はあ？　銀行強盗？
　やるつもりは全くなかったが、ここまで期待させているならやるしかない。
　久し振りに暴れてやりますか。
　警戒する男達に向かって、日本刀を持つ腕を回して、首まで回して、やるぞアピールする。

　まずは軽く剣技が使えるか試す。
　使えないなら、鉄パイプを握り潰した腕力でゴリラみたいに人間を投げ飛ばして逃げる。
　逃げた後はこの力を使って、裏社会でのし上がってやる。
　クールな俺には殺し屋なんて向いているかもしれないな。

「剣風斬」

　ぐぎぁっ！とやっぱり殺し屋だな♪
　飛ばされた風の刃によって、警備員が刺又と一緒に真っ二つになった。
　断末魔の叫びを上げて、上半身が床にベチャと落ちた。

「うわぁあああああ！」

　獲得経験値200、獲得ゴールド0——もうゲームの延長なのか、現実なのかどうでもいい。
　この力があればたっぷり楽しめる。コイツら殺したら、小春ちゃんの所に行ってやる。
　俺を騙してボッタクリしたんだから、何されても文句は言えない。
　今まで騙されてボッタクられた男達の無念の為にも、俺が正義を成してやる。

　素早く警備員に踏み込むと一閃。ズバッ！と警備員の身体を切り裂いた。
　さらにズバッズバッ！と素早い動きで警備員を次々倒していく。
　コイツらまったく反応できていない。棒立ちの丸太だ。俺の動きが見えていない。

「雑魚どもが」

　まあ、相手が悪かった。
　銀行の床が血だらけになっている。さて、今度はこっちを試してみるか。
　死体を触った状態でメニュー画面の持ち物を選んで収納を押した。
　警備員の死体が消えて、持ち物に加わった。返り血と床の血だけは残っている。
　これは洗濯が面倒だから、ブランドショップで5万のTシャツでも貰おうかな♪