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第1章 告白編

第6話 (薫パート)

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 先に待ち合わせの場所に到着した私は、従姉妹弟の明日香が来るのをドキドキしながら待っていました。初めて女の子に告白された相談を、本当に好きな明日香に相談するのは何だか変な気持ちになります。でも、そろそろこの無意味な感情に区切りを付けるいいきっかけになると思いました。

(何って話せばいいんだろう。それに2人っきりで会うのは半年振りになるのか)

 明日香と会うのは高校の入学祝いに親同士で集まって食事をした時と、私が隠れて明日香が参加した水泳部の大会を見に行った時だけです。観客席からドキドキしながら明日香の着る競泳水着に心を奪われてしまいました。

 待つ事10分。制服姿の明日香がこっちに向かって走ってくる。夏の暑い中を走って、汗で白いスクールシャツが濡れてしまっている。女子高生になったんだから少しは周りの男達の目を気にして欲しい。けれども久し振りに真っ直ぐに見る明日香の姿は、私には相変わらずキラキラと輝いて見えた。

「はぁはぁはぁ…ごめん。待ったよね」

「いや、急に呼び出した俺が悪いから……それよりも何処か涼しい場所に移動しようか。走ってきて熱いだろう。カラオケボックスでいいよな?」

「うん、そこでいいよ。ついでに冷たい飲み物も出来れば奢って欲しいけどね」

「はっは…遠慮するなよ。飲み物でも食べ物でも相談料ぐらいは奢らせてもらうから」

「ふっふ…だったら遠慮なくご馳走になります。まだ、バイト頑張っているんだね」

「当たり前だろう。そう簡単に辞める訳ないだろう。週3で頑張っているよ」

「ふっふ…偉い偉い」

 相変わらず明日香は私を子供扱いするのをやめません。身長もこっちが上、経済力でもこっちが上です。いい加減に少しは大人として見て欲しい。

「子供扱いするなよ。こう見えても明日香よりはお金持ってるんだからな」

「そうだね。でも、あと1ヶ月もすれば私は16歳だよ。もう結婚出来る大人の女性になるんだよ。社会的には薫が大人扱いされるのはまだまだ2年も先なんだからね。ふっふ…そこはキチンと認めないと駄目だよ」

「はいはい、そうですね。明日香お姉さん」

「ふっふ…よろしい」

 明日香は楽しそうに微笑んでいるが、私は明日香が誰かのものになるのは耐えられないかもしれない。正直なところ誰のものにもなって欲しくはない。許されるのなら……。

 ❇︎

「で、相談って何なの? もしかして恋話とかかな? なんちゃってね。あっはは…そんな訳ないか」

「………」

「えっ………と、何で黙っているの? そういう冗談はいいから…はっは…」

「同じ学校の友達に今日告白されたんだ。どう返事をしたらいいのかアドバイスして欲しい」

「あっはははは……良かったね。モテモテじゃん。あっ~~あ、先越されちゃったなぁ~。絶対に私の方が先に恋人作れると思ったのに。はっは…残念残念」

 明日香は2人でカラオケボックスに入ると、ずっと笑顔のままで会話を続けます。告白の話を聞いて、ちょっとぐらいはショックを受けているようなら、私にも少しは見込みがあったのかもしれませんが、その願いは叶わないようです。

「その子と知り合ってからまだ3ヶ月しか経ってないんだ。もう少し友達を続けてお互いの事を知った方がいいとは思わないか?」

「そうだね。それもいいかもしれないね。はっは…うんうん、それがいいかも! やっぱり早いよ。もっと人生経験を積んだ方がいいよ。うんうん、そうしよう!」

(何だか嬉しそうだ。やっぱり自分よりも先に恋人が出来るのは嫌なんだろうな)

 私が告白を断った方が明日香は嬉しいようです。でも、この満たされない関係もそろそろ終わりにしないと、私は何も進めません。今日はいい加減に覚悟を決めないといけません。

「確かに経験を積んだ方がいいと思う。だから、その子と付き合おうと思うんだ。いきなり恋人とかではなくて、友達以上恋人未満のような関係からスタートしようと思うんだ。明日香は俺に恋人が出来るのはやっぱり嫌か?」

 どうしても明日香に聞きたかった。彼女が嫌だと言ってくれるのなら、告白はキッパリと断るつもりだ。そして、目の前の明日香に今まで隠していた想いを全て告白したいと思っている。

「………それもいいんじゃないかな。うん……いいと思う」

「そう、賛成なんだ。はっは…そうか」

『………』

 シーーーンとなってしまった。お互い何も言い出せない。告白を断ろうとしたさっきまでは明日香は笑顔だったのに、今は凄く嫌な顔をしている。まるで凄く悪い事をしているように思ってしまった。だから、ずっと考えていた事を言ってしまった。

「キスの練習がしたいんだけど」

「えっ…」

「まだキスした経験がないから、もしもの時困るだろう。だから、キスの練習がしたい」

「はっはは……もうぉ~。駄目に決まってるでしょう。つまんない冗談はやめてよ」

「冗談じゃないよ。本当に嫌ならハッキリ断っていいから。少しでもキスの練習をしてもいいと思うなら、目をつぶって欲しい」

「嫌って……そんな訳ないけど…でも、そういうのは好きな人とした方が…」

「嫌じゃないならいいでしょう。従姉弟同士なんだから変に意識せずに練習だと思えばいいんだよ。これはキスの練習で本当のキスじゃない。助けると思って協力してよ」

「………1回だけならいいけど、キスだけだよ。本当に1回したら終わりだからね! もうぉ~、本当に従姉弟じゃなかったらしないんだから!」

 ゆっくりと目をつぶっていく明日香を見ながら、心臓をドキドキさせながらお互いの唇を近づけていきます。キスの練習ならば頬っぺたでも十分ですが、どうしても明日香の初めてを奪いたかった。たとえファーストキスだけでも自分のものにしたかった。

「んっ…」

 明日香の唇の柔らかい感触が伝わり、次に息がかかってきた。

「んっ……⁈ んっ…んっ…‼︎」

 唇までで我慢できずに舌で唇をこじ開けると、明日香の口内に無断で侵入した。お互いの濡れた舌を何度も絡め合った。本当に嫌なら突き飛ばしてくれると思った。でも、明日香は身体を激しく揺り動かすだけで拒絶も抵抗もしてくれなかった。

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

「何味だった?」

 口元を押さえて、激しく動揺している明日香にキスの味を聞いてみた。興奮すると耳まで赤くなるのは本当らしい。

「はぁ…はぁ…はぁ…えっ…何味? そんなの分かんない、何も分かんないよ」

「そうなんだ……ありがとう。凄く参考になったよ。何か注文しようか?」

 不適切な発言だったと後で気づいた。キスのお礼としては失礼過ぎた。そんなつもりで言わなくても怒らせてしまったのかもしれない。

「何もいらない。私、もう帰るから…」

「待って送って行くよ」

「大丈夫だから。今は顔見られたくないの。落ち着いたら電話するから待ってて」

「ごめん。やっぱり嫌だったよね。ごめん」

「嫌じゃないって言ったでしょう。嫌じゃないから……嫌じゃないの……だから困った事があったらまた連絡してよね。じゃあ…」

 明日香が帰り一段と静かになったカラオケボックスに、しばらく1人で残って気持ちを落ち着かせる事にした。明日香の言う通り、何も分からなかった。キスの味なんかどうでもよかった。ただ、分かった事は自分の本当の気持ちだけだった。

 



 

 




 

 

 

 

 
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