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第1章 告白編

第4話 (明日香パート)

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 お父さんが亡くなったのは、それから数日後でした。与えられた苦しみは長く、死ぬ時は呆気なく終わります。理不尽な生と死の中でお父さんは最後まで私達の為に笑顔を見せ続けていてくれました。

 お通夜の晩にクラスの友達が来てくれました。他にもバスケ部の仲間達も来てくれました。安藤コーチも担任の藤岡先生も来てくれました。とっても嬉しかったのですが、こういう時は悲しそうな表情をするものだと、お母さんから注意されました。嬉しい顔をすると周りの人達が変な誤解をしたり、対応に困ってしまうらしいです。

(あっ…薫も来たんだ。なんだか失敗しそう)

 伯母さんと一緒に並んで見様見真似で焼香をしています。どう見ても伯母さんのやり方を見ながらやっているのでタイミングがズレています。ちょっとは練習するか、他の人の焼香の仕方を見てからやるべきです。

(あっ! あっはは…やっぱり間違えた)

 私が心配した通りに灰を床に落としています。あんなにドジなのに学校の女子に少しだけ人気があるのでビックリです。まあ、私から見ても、スポーツも勉強も中の中、性格も顔も中の中です。今時は目立たない普通の男子が人気なのかもしれないです。将来は普通に公務員になりそうで、私はつまんないなぁ~、とは思いますけど。

 ❇︎

「本当にいいの?」

 葬儀が終わった後に伯母さんがお母さんに封筒を渡していました。きっと中身はお金だと思います。学校でも寄付を集めて、合計で30万円近くになったらしいです。本当に感謝してもしきれません。

「いいのよ! あの子がいいって言ってるんだから! どうせエロ本しか買わないんだから。遠慮なく使って上げなさいよ」

「そんな事ないでしょう。そうね……一応は最後までは使わずに取って置くから、薫の気が変わったら教えてね。それと直接お礼を言いたいから今度家に寄るわね」

「ああっ~~……それなんだけど…あの子が絶対に自分の事は言うなって言うのよ。悪いけど知らないフリしてちょうだい。きっと恥ずかしいのよ。あっはははは…恥ずかしいならやらなきゃいいのにねぇ~」

(ふぅ~~ん……薫もお金出したんだ。多分、五千円ぐらいかな。無理しちゃって)

 あとでお母さんに聞いた金額は5万円でした。凄くビックリしました。貯めていたお小遣いを全部掻き集めて用意してくれたらしいです。本当によく分からない変わった奴です。

 お父さんの事もある程度ひと段落したので、私は久し振りに中学校に行く事になりました。ちょっと緊張してしまいます。親しい友達とは学校を休んでいる時も連絡を取り合っていたのでそうでもないのですが、私の所為でクラスの雰囲気が暗くなるのはちょっと嫌かもしれません。出来る限り明るく振る舞わないといけません。

(すぅーはぁー…すぅーはぁー…そろそろ出番かな)

 深呼吸して気持ちを落ち着かせます。クラスの皆んなにお礼を言って渡す物があります。男子に女の子向けのハローキティのシャーペンを渡すのはちょっと抵抗がありますが、一人一人の好みを考えていたらキリがありません。こんな時は平等に同じ物を渡すのがいいらしいです。

 教室の左端前列の人から右端向かって一人一人にお礼を言って、贈り物を渡していきます。あまり話した事がない同級生と話すのは緊張しましたが、私が一番緊張したのは同級生ではありませんでした。

(もうすぐ薫の番だ。ああっ~~、何だか凄くドキドキして顔が熱い。私ったら変に意識し過ぎなのよ。落ち着いて…落ち着いて…)

望月もちづき君、ありがとう」

 席に座っている顔に軽く頭を下げてお礼を言います。次に紙袋に入ったシャーペンを手渡ししました。確か緑色が好きだと言っていたので、紙袋に目印を付けて緑色のシャーペンを渡しました。

「ありがとう。この度はご愁傷様でした。元気出してくださいね」

「はぁっ……⁇」

(どういう意味だろう? 元気に見えないのかなぁ?)

 ちょっと戸惑っている私を見て、担任の藤岡先生が薫を注意しました。他のクラスメイトはほとんどが黙って受け取るか、『ありがとう』と言うだけだったので、気になったようです。

「望月君。もうちょっと気の利いた事は言えないの?」

「いえ、斎藤さんが元気がなさそうだったので……駄目でしたか?」

「駄目という訳じゃありませんが、こういうのには時間がかかるんですよ」

 先生が言いたい事はなんとなく分かります。でも、クラスメイトの多くが私に対して腫れ物に触るようなヨソヨソしい態度でした。私は今まで通りの普通の学校生活を送りたいだけです。ここで頑張らないと残りの中学校生活は悲惨なものになりそうです。

「先生。私、大丈夫です。望月君、私、凄く元気だよ。凄く悲しくてたくさん泣いてきたから、しばらくは涙も枯れ果てて出ないんだから。だから、大丈夫。今は皆んなに会えてとっても嬉しくて幸せなんです。変に気を使わないで今まで通りに普通に接してください。望月君、心配してくれてありがとうね」

「別に心配なんかしてないよ。ほら、早く次に行けよ。早く配り終わらないと皆んな帰れねぇだろ」

「あっ、ごめんね」

「望月君はあとで職員室に来なさい。君は居残りです」

 クスクスクス。

 さっきまではお葬式のような雰囲気だったのに、薫の所為で一気に教室に明るい笑い声が広がりました。困った同級生を持つと苦労します。でも、ソッと私は胸の中で薫に感謝しました。




 
 
 

 
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