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第1章 告白編

第1話 (薫パート)

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 私は思う。誰にでも初恋は訪れる。けれども、一生涯に一度、1人だけという特別なものではないと思う。

 初恋は何度でも訪れる。一生涯に何度でも訪れる。1人の異性に対して1回だけ初恋に落ちるのだ。初恋とは初めてその人を好きになった瞬間でしかない。

 私はそう思いたい……。

 ❇︎

 私の覚えている最初の初恋は小学4年生の時だった。同じ学年の別のクラスの女生徒で、キラキラと彼女だけが沢山いる同級生の中で輝いて見えていたのだ。

 恋に落ちたその日から私の日常の1つに彼女の存在が大きく関わるようになっていった。恋をすると女性は綺麗になると聞いた事がある。それと同じで私も少しずつだが子供ながらに綺麗になる努力をしようとした。

 彼女の好きな物、得意な事は自分も好きになりたいと思ったし、得意になろうと努力をするようになった。

 彼女はピアノが弾けて、バスケット部に入っていた。成績もそれなりに優秀で私にとっては雲の上の存在だった。決して手の届かない憧れの存在……私に出来た事は彼女を意識する事だけだった。

 お昼休みになると彼女は友達と一緒によくピアノを弾いていた。題名も分からないに10分も20分も彼女の演奏を喜んで聴き続けた。子供の私はそれだけで幸福を感じる事が出来たのだ。

 だが、月日は流れて私の中に彼女以外の特別な女性が少しずつ増えていく。雲の上の存在の彼女よりも、一緒に居て、見て、触れて、楽しく遊べる近しい存在に私の心は傾いていった。

 ただの女友達から特別な女友達へと変化するのは、ちょっとした出来事だけで十分だった。

 ❇︎

 高校生になった私は初恋の彼女とは別々の学校に進む事になった。男友達2人と女友達3人で今日は話題の映画を見て、ファーストフード店で食事をして解散する事になった。その帰り際に明日香あすかに呼び止められた。

「……ちょっといいかな?」

「いいけど…なんか言いにくそうだぞ。悪いニュースはあんまり聞きたくないんだけど」

「まだ、それは分かんない。かおる君次第かな…」

「ふぅ~~ん? まあ、どっちでもいいけど……言いたい事があるなら言った方がいいぞ。スッキリするから。ほらほら、早く言ってみぃ」

「ねぇ、私の事どう思う? 可愛いと思う?」

「えっ~~と……本気で答えた方がいい?」

 コクコク。

 明日香は軽く頷いて返事をした。少し回答に困る質問だった。他の4人に助けを求めようにも、既にいなかった。いつもならもっとダラダラするのに今日はさっさと帰っていった。

 明日香とは高校で仲良くなった女友達である。私の男友達の女友達の女友達として知り合ったのだ。知り合ってから約3ヶ月が過ぎて、お互いの事がある程度分かるようになってきた。

(可愛いとは思う。身長は平均的だし、太っている訳でもない。性格も大人しいけど暗い訳じゃない。普通に高校一年生の女子としては可愛い方だと思う。それに名前も……)

「可愛いと思うよ。個人的な意見かもしれないけど、俺は可愛いと思うよ」

「そう…可愛いんだ//// ありがとう」

 私の返事を聞いて、明日香は満面の笑みになった。どうやら彼女が満足する答えだったようだ。きっと好きな男でも出来たのだろう。

 だとしたら、瑛太えいたしょうのどちらかかもしれない。男友達に春が来た事を密かに喜んで、ちょっとだけ嫉妬する事にしよう。

「もしかして、俺に聞きたい事は終わった? はっは…だとしたら帰ろうか」

「……まだ、聞きたい事があるの……私と付き合ってください」

「えっ……どういう意味の…」

 彼女の言葉の意味が分からなくてパニックになる。これから遊びに付き合ってくださいなのか、恋人として付き合ってくださいなのか、どっちなのか分からなかった。正直な気持ち期待と混乱が頭の中でグチャグチャになってしまった。

「薫君の事が好きになりました。私と付き合ってください!」

「えっ……と、俺なの?」

 コクコク。

 馬鹿げた質問だった。私に好きだと言っているのに、私以外の誰がいるのだろう。彼女は真っ赤な顔でさっきと同じように軽く頷いた。その仕草を可愛いと思い、私も顔を熱くさせた。初めて女の子に告白された事に心臓はドキドキと激しく動揺していた。

「えっ……と、その………」

 どう返事をすればいいのか正直分からない。傷付けないように断る方法も、恋人同士がやる事もまったく分からない。何も言い出せずに私はただ慌てる事しか出来ていなかった。

「返事は今すぐじゃなくていいから。ゆっくり考えて。いきなり、こんな事言われてもやっぱり困るよね。 ………ごめんね。私もう帰るからまた明日学校でね」

「うん…また明日」

(季節は夏なのに春が来てしまった)

 早足で帰って行く彼女の後ろ姿を見ながら、フッとくだらない事を思ってしまった。こんな私を好きになる物好きな女の子が現れるなんて夢にも思ってなかった。



 

 

 
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