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第五十話 どこかで聞いたことのある名前
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お風呂から上がると台所でお母さんに食事を食べさせられた。
ハシぐらい自分で持てると言ったのに、無理矢理に口に料理を詰め込まれた。
『うっぷっ……もう無理』
いくら血を飲んでもお腹は破裂しそうにならなかったのに、料理は別腹みたいだ。
お腹パンパンで真っ直ぐ歩けない。ヨタヨタと本当に赤ん坊みたいに歩いてしまう。
今日はこのままベッドで寝よう。
最初から眠いし、お腹いっぱいになって余計に眠くなった。
『あぁ~、これだよこれ!』
フカフカのベッドに仰向けに倒れ込んだ。
屋根や崖、魔物の家とは大違いだ。これこそ人間が眠る場所だ。
「レナス。あら、もう寝たの?」
……何で来たの? ご飯食べたでしょ?
ベッドで寝ているとノックもせずにお母さんが入ってきた。
寝たフリしているとベッドに座って、僕の髪を撫でてきた。
「この髪だとお爺ちゃんね。お父さんに頼んで白髪染め買ってきてもらわないと」
『…………』
駄目だ。【母の愛が重すぎる】寝心地は良いのに、居心地が悪るすぎる。
今日、ゆっくり寝たら明日旅に出よう。
おじ様になるつもりなのに、このままだと赤ちゃんになってしまう。
♢♢♢
『旅に出ます。疲れたら帰ります』という書き置きを残して旅に出た。
打倒ピーちゃんの僕の旅はまだ始まったばかりだ。
『Eランクならあそこでいいかも』
わざわざ冒険者ギルドに聞きに行かなくても、ピーちゃんが見つけた旧新生ダンジョンがEだ。
オオトカゲの尻尾が美味しかったから、トカゲを自分の力で倒して、血を飲んでやる。
ついでに宝箱探しだ。僕も宝箱を見つけて開けてみたい。
目的のダンジョンは森の中にある。
近くにもう一つダンジョンがあるらしいから、ついでにそっちにも行ってみる。
方位磁石と飛んだ時間、地図に描かれた山や川や森、村や町の位置で大体の現在地は分かる。
どこかの鳥みたいに適当に飛んだら、全然知らないダンジョンに到着だ。
僕はそんな失敗はしない。
『あっ! あった!』
ちょっと苦労したけど、夜になる前にダンジョンを見つけた。
なんか白い煙が上がっていたから、気になって様子を見に来て正解だった。
ダンジョンのトンネルの前で一人の多分、冒険者が座って焚き火していた。
『う~~ん』
このまま翼出したまま降りると攻撃されそうだ。
でも、いなくなるのを待つのも面倒だ。
トイレに離れた隙にダンジョンに入れそうだけど……
やっぱりそれも面倒なので、見られないように離れた場所に降りるとダンジョンに向かった。
「誰だ!」
ガサゴソと物音を立てて近づいていくと、焚き火していた男が長い木の棒を持って立ち上がった。
棒だと思ったら、炭のような色をした木剣だった。その剣の切っ先を僕の方に向けている。
『冒険者だ。そこのダンジョンに用がある』
頭からフードを取ると、サッパリした赤い髪の若い男にそう答えた。
僕よりも三、四歳は年上に見える。十四歳ぐらいだろうか。
「冒険者? どう見ても子供じゃないか。危ないから帰れ」
『子供じゃない。三十三だ』
「三、三十三⁉︎ その見た目で⁉︎」
僕の年齢に驚いている男にさらに言ってやった。
『子供が帰るなら、お前が帰るんだな』
「待ってくれ! 俺が悪かった。ははっ……見た目で判断するなんて全然成長してねえな」
『…………』
なんか知らないけど男が急に謝ってきた。
頭を下げると頭を掻きながら苦笑いを浮かべている。
『別にいい。この身長だ。子供扱いされるのは慣れている。それよりも一人か? ここは難易度Eと聞いているぞ』
心配するフリして、Eダンジョンなのかさりげなく聞いてみた。
「はい、一人で修行中です。負けたくない奴がいるんで」
『ほぉー、奇遇だな。俺も負けたくない奴が一人いる』
「じゃあ、あなたも修行に来たんですね」
『違う。コイツの試し斬りだ』
勝手に修行仲間が出来たと喜んでいるけど、キッパリ否定した。
素敵なおじ様に汗臭い修行は似合わない。収納袋から新品の剣を取り出して言った。
試し斬りという名の修行だ。
「凄い。剣の試し斬りにEダンジョンに来るなんて。俺なら安全にGに行くのに」
『安全が欲しいなら家にこもってろ。ダンジョンは生きるか死ぬかの世界だ』
「かっ、かっけえー」
少年が尊敬の眼差しで僕を見ている。
やはりおじ様とは素敵な存在らしい。
「あっ、俺、アトラスって言います」
『アトラス……?』
少年が名前を言ってきた。どっかで聞いたことがある気がする。
でも、こんな場所で修行する人なんて知らない。
「すみません。それでお願いがあるんですけど……」
『なんだ?』
思い出そうとしていたら、アトラスがちょっと遠慮がちに言ってきた。
「試し斬りを見学させてもらってもいいですか? 達人の剣技を知りたいんです」
『…………』
達人? 誰が?
「駄目ですか?」
ああ、僕か。僕しかいないよね。
アトラスが落ち込んだ犬みたいな目で聞いてきた。
断るのは簡単だけど、素敵なおじ様なら少年の期待を裏切るわけにはいかない。
『構わない。好きにしろ』
「あ、ありがとうございます!」
大きく頭を下げて感謝してきた。
これでもう逃げられない。
カッコいい試し斬りで魔物を倒さなくてはいけなくなった。
ハシぐらい自分で持てると言ったのに、無理矢理に口に料理を詰め込まれた。
『うっぷっ……もう無理』
いくら血を飲んでもお腹は破裂しそうにならなかったのに、料理は別腹みたいだ。
お腹パンパンで真っ直ぐ歩けない。ヨタヨタと本当に赤ん坊みたいに歩いてしまう。
今日はこのままベッドで寝よう。
最初から眠いし、お腹いっぱいになって余計に眠くなった。
『あぁ~、これだよこれ!』
フカフカのベッドに仰向けに倒れ込んだ。
屋根や崖、魔物の家とは大違いだ。これこそ人間が眠る場所だ。
「レナス。あら、もう寝たの?」
……何で来たの? ご飯食べたでしょ?
ベッドで寝ているとノックもせずにお母さんが入ってきた。
寝たフリしているとベッドに座って、僕の髪を撫でてきた。
「この髪だとお爺ちゃんね。お父さんに頼んで白髪染め買ってきてもらわないと」
『…………』
駄目だ。【母の愛が重すぎる】寝心地は良いのに、居心地が悪るすぎる。
今日、ゆっくり寝たら明日旅に出よう。
おじ様になるつもりなのに、このままだと赤ちゃんになってしまう。
♢♢♢
『旅に出ます。疲れたら帰ります』という書き置きを残して旅に出た。
打倒ピーちゃんの僕の旅はまだ始まったばかりだ。
『Eランクならあそこでいいかも』
わざわざ冒険者ギルドに聞きに行かなくても、ピーちゃんが見つけた旧新生ダンジョンがEだ。
オオトカゲの尻尾が美味しかったから、トカゲを自分の力で倒して、血を飲んでやる。
ついでに宝箱探しだ。僕も宝箱を見つけて開けてみたい。
目的のダンジョンは森の中にある。
近くにもう一つダンジョンがあるらしいから、ついでにそっちにも行ってみる。
方位磁石と飛んだ時間、地図に描かれた山や川や森、村や町の位置で大体の現在地は分かる。
どこかの鳥みたいに適当に飛んだら、全然知らないダンジョンに到着だ。
僕はそんな失敗はしない。
『あっ! あった!』
ちょっと苦労したけど、夜になる前にダンジョンを見つけた。
なんか白い煙が上がっていたから、気になって様子を見に来て正解だった。
ダンジョンのトンネルの前で一人の多分、冒険者が座って焚き火していた。
『う~~ん』
このまま翼出したまま降りると攻撃されそうだ。
でも、いなくなるのを待つのも面倒だ。
トイレに離れた隙にダンジョンに入れそうだけど……
やっぱりそれも面倒なので、見られないように離れた場所に降りるとダンジョンに向かった。
「誰だ!」
ガサゴソと物音を立てて近づいていくと、焚き火していた男が長い木の棒を持って立ち上がった。
棒だと思ったら、炭のような色をした木剣だった。その剣の切っ先を僕の方に向けている。
『冒険者だ。そこのダンジョンに用がある』
頭からフードを取ると、サッパリした赤い髪の若い男にそう答えた。
僕よりも三、四歳は年上に見える。十四歳ぐらいだろうか。
「冒険者? どう見ても子供じゃないか。危ないから帰れ」
『子供じゃない。三十三だ』
「三、三十三⁉︎ その見た目で⁉︎」
僕の年齢に驚いている男にさらに言ってやった。
『子供が帰るなら、お前が帰るんだな』
「待ってくれ! 俺が悪かった。ははっ……見た目で判断するなんて全然成長してねえな」
『…………』
なんか知らないけど男が急に謝ってきた。
頭を下げると頭を掻きながら苦笑いを浮かべている。
『別にいい。この身長だ。子供扱いされるのは慣れている。それよりも一人か? ここは難易度Eと聞いているぞ』
心配するフリして、Eダンジョンなのかさりげなく聞いてみた。
「はい、一人で修行中です。負けたくない奴がいるんで」
『ほぉー、奇遇だな。俺も負けたくない奴が一人いる』
「じゃあ、あなたも修行に来たんですね」
『違う。コイツの試し斬りだ』
勝手に修行仲間が出来たと喜んでいるけど、キッパリ否定した。
素敵なおじ様に汗臭い修行は似合わない。収納袋から新品の剣を取り出して言った。
試し斬りという名の修行だ。
「凄い。剣の試し斬りにEダンジョンに来るなんて。俺なら安全にGに行くのに」
『安全が欲しいなら家にこもってろ。ダンジョンは生きるか死ぬかの世界だ』
「かっ、かっけえー」
少年が尊敬の眼差しで僕を見ている。
やはりおじ様とは素敵な存在らしい。
「あっ、俺、アトラスって言います」
『アトラス……?』
少年が名前を言ってきた。どっかで聞いたことがある気がする。
でも、こんな場所で修行する人なんて知らない。
「すみません。それでお願いがあるんですけど……」
『なんだ?』
思い出そうとしていたら、アトラスがちょっと遠慮がちに言ってきた。
「試し斬りを見学させてもらってもいいですか? 達人の剣技を知りたいんです」
『…………』
達人? 誰が?
「駄目ですか?」
ああ、僕か。僕しかいないよね。
アトラスが落ち込んだ犬みたいな目で聞いてきた。
断るのは簡単だけど、素敵なおじ様なら少年の期待を裏切るわけにはいかない。
『構わない。好きにしろ』
「あ、ありがとうございます!」
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これでもう逃げられない。
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