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第四十三話 竜の血を飲んでみた

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 ピーちゃん、それってお姉さんに頼まれていた果物だよね。
 また怒られたいの?

『【ドラゴンフルーツ】じゃねえか。珍しい物持ってんじゃねえか』
『ああ、古代の森にしかならねえ、貴重な果物だ。その辺の森にあるもんじゃねえ』

 気に入られたみたいだ。
 地上に降りた灰色ドラゴン達が果物の山をジッと見ている。
 中にはヨダレを垂れ流しているのもいる。

『血の代価はそれで十分だ。では、バケツを出せ』

 取引き成立みたいだ。水竜が言ってきた。
 それに対して……

『倒すつもりで来たから、バケツは用意してない』

 ピーちゃんが自信満々に応えた。
 絶対にトカゲの尻尾みたいにドラゴンの尻尾持ってくるつもりだった。

『では、こちらで用意させてもらう』

 良かったね。親切な水竜で。
 口から凄い勢いで吐き出し続ける水の棒で地面を削り取ると、大きめのバケツ石柱に牙で穴を開けた。
 その中に尻尾の先を切って出てきた血を流し込んでいる。

『バケツ一杯よりは多いが、少ないよりはいいだろう。持って行け』

 石柱を翼で掴んでへし折って地面から離すと、手頃な石で蓋をして渡してきた。

『ありがとう、水竜のおじさん。次は絶対にぶっ飛ばしに来るね』

 素直にお礼を言いなよ。テレてるの?

『それは無理だ。永遠にな』

 うん、僕もそう思う。
 余計なこと言わずに、さっさと貰って帰ってきてね。

 ♢♢♢

『ひざまずけ。たたえろ』
『ははぁー!』

 やっとお披露目みたいだ。
 偉そうなピーちゃんに命令されて、ベッドから素早く降りて、床に両手を伸ばして土下座した。
 床には収納袋が置かれていて、それをピーちゃんが脚で掴んでいる。あとは飛んで持ち上げるだけだ。

『さあ、受け取れ!』

 バサァと飛び上がると袋の中から石バケツが現れた。

『ああ、ピーちゃん。ありがとう!』

 喜びのあまり、石バケツに抱きついて感謝した。
 これがドラゴン、それもアクアドラゴンの血だ。
 絶対美味しいに決まっている。

『ぐおおお!』

 頑張って石蓋を持ち上げて床に置くと、赤い液体の中に頭から突っ込んだ。

『ピィ! 何してんの⁉︎』

 見て分かんないの? 血が乾く前に飲んでるんだよ!

『ゴクゴク、ゴクゴク……』

 こんな美味しい血、飲んだことがない。
 身体中の筋肉が脳みそを含めて、膨れ上がっていく。
 僕が僕じゃなくなるようなそんな感じ。そう【爆誕】だ。

『ぷはぁ! 力が溢れてくる!』
『ピィ‼︎』

 血を一滴残らず飲み尽くすと、石バケツから頭を勢いよく出した。
 ヤバイ。今なら何でも出来そうな気がする。背中からコウモリの黒い翼が飛び出した。

『か、髪、真っ白になってる!』

 僕のフードローブからフードが取れて、ピーちゃんが驚いている。
 髪の色が黒から白になるよりも、もっと驚くことがあるんじゃないの。
 背中から翼だよ。飛べちゃうよ。

『ピーちゃんのお陰だよ。やっと僕の封印が解けたみたいだ。こっちはどうかな?』

 黒いカーテンをちょっとめくって、陽の光を小指の先に当ててみた。
 温かい。熱くはない。太陽の光も問題ないみたいだ。
 腕にも当てたけど一緒だった。これなら時間を気にせずに外を歩ける。
 カーテンを窓から外すと丸めて、ベッドに放り投げた。

『あっ、翼が生えてる』
『今頃気づいたのかい、ピーちゃん? ふぅー、愚かだね』

 窓枠に足を組んで座ると太陽の光を背中に浴びながら、ピーちゃんに言ってやった。
 もう太陽にもピーちゃんにも怯える必要はない。
 背中の翼がちょっと邪魔だけど、そう思っていたら身体の中に引っ込んでくれた。
 このまま翼がずっと出ていたら寝るのに邪魔だった。
 これなら安心して眠れる。

『なんか急に偉そうになった。翼が生えて強くなったと勘違いしてる』
『勘違い? 試してみるかい?』

 ちょうどよかった。僕も今の力を試したかった。
 弱くなったのか強くなったのかピーちゃんで試してやる。

『じゃあ、そうする。”バードストライク”』

 いきなりの先制攻撃、いや、奇襲だ。
 腹に向かって青い鳥が突っ込んできた。
 でもね、ピーちゃん。

『‼︎』
『見えてるよ』

 川の魚達との特訓の成果だ。
 青い小鳥の突撃を右手で受け止めた。
 前は重いと思ったのに、今は軽すぎる。
 拳大の石を思いきり投げつけられた程度だ。
 つまりは右手の手の平が痛いだ。

『危ないじゃないか、ピーちゃん。僕が受け止めなかったら窓が壊れていたよ。お母さんに怒られるよ』
『ば、馬鹿な!』

 受け止められて驚くピーちゃんに言ってやった。
 僕が今まで言われたぶんを全て返してやる。

『信じられない、いや、信じたくない気持ちは分かるよ。自分が雑魚だってね。もっと知りたいなら教えてあげるよ。外でね。部屋だと物壊しちゃうでしょ』

 右手からピーちゃんを離して、親指で外を指差した。

『おもしれい。後悔するんじゃねえぞ』

 単純な鳥だ。窓を少し押し上げて外に出ていった。
 どうやらまだ実力差が分かってないらしい。いや、分からないから知りたいのか。
 やれやれ仕方ないと思いつつ、窓を全開まで押し上げて外に出た。

『素手でいいよね? 剣使うと殺しちゃうから』

 パタパタ空を飛んでいるピーちゃんに向かって笑みを浮かべて言った。

『それはこっちの台詞だ。もう一度地面の味を教えてやる』

 また僕を腹パン一発で地面に倒すつもりらしい。
 今度は満面の笑みで言ってやった。

『やれるもんならやってみなよ。出来るならね』

 地面の味なら今度は僕が教えてやる。
 ジャリジャリの悔し涙の味がするってね。

『”超加速”——”残像”——』
『見えてるよ、ピーちゃん』

 話に聞いてたとおりの単純な攻撃だ。
 見えない速さで飛んでいるつもりなら、ギリギリ見えている。
 僕の勝ちだよ、ピーちゃん。

『”バードストライク”』
『ごべえっ……‼︎』

 向かってきたピーちゃんが目の前で消えたと思ったら、右頬を誰かに殴られた。
 その衝撃で空中七回転して地面に墜落した。

『ぐぐぐっ、いったい、誰が……』

 だけど、この程度で負けるわけにはいかない。
 拳を地面に突き立てて立ち上がろうとした。

『”バードストライク”』
『がはぁ……!』

 でも、後頭部を二度目の衝撃が襲った。
 右拳じゃなく、顔面が地面にめり込んだ。

『誰が立っていいって言った? よく味わえ、勘違い雑魚野朗。今度から僕の前ではその姿勢でいるんだよ』
『ぐぅぅぅ……!』

 あり得ない。倒れている僕の頭に青い小鳥が乗っている。
 地獄の猛特訓が足りなかった? いや、足りないのは血だ。
 僕の努力は十分足りている。
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