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第十三話 人間に飼われた動物は『』だ

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『そこまでだよ!』

 畑のド真ん中に降り立つと言ってやったそうだ。

『誰だ、アイツ? 新入りか?』
『知らねえ。誰かの子供か?』
『…………』

 ピーちゃん、それだけ? もっと何か言うことなかったの。
 勇しく登場したのに誰にも相手にされなかった。
 ブラックバード達はピーちゃんを無視して野菜を食べ続けた。

『ぶっ飛ばす』

 ピーちゃんのやる気スイッチが入ったみたいだ。
 一羽のブラックバードに狙いを定めると全力体当たりした。

 ドガァ。

『痛ぇな。何すんだよ? 殺すぞ』
『ピィー!』

 でも、全然効いていない。
 ニンジン食うのをやめて、ブラックバードが睨みつけてきた。

『や、野菜食べちゃ駄目! 人の野菜食べるの悪いこと!』
『知らねえよ。ここの野菜が美味いのが悪いんだよ』

 怯えながらも勇気を出して言ったのに、正論が全然通用してない。
 野菜が美味いから悪いと意味不明なことを言ってきた。
 そんな極悪鳥にピーちゃんは農家を代表して言った。

『美味しいのは毎日一生懸命お世話してるからだよ! 僕、知ってるよ。薬草のお世話とっても大変だって! 美味しい野菜が食べたいなら自分で育てなよ!』

 ピ、ピーちゃん。ありがとう。その言葉を待っていた。
 あれ? 雨漏りかな。お母さんにも聞かせてあげてね。絶対喜ぶと思うよ。

『うるせいなぁー。育てるのが面倒だから食ってんだよ。畑の肥料にされてえのか』

 雨漏りの水を目から拭き取った。
 農家の敵め。ピーちゃん、もう遠慮しなくていいよ。
 肥料になるのがどっちなのか教えてやりなよ。

『騒がしいな。何だ、その青い鳥は?』
『ボ、ボス! す、すぐに片付けます!』

 だけど、左眼に縦に大きな切り傷がある、ひと回り身体の大きなブラックバードが空から現れた。
 ピーちゃんには怯えなかったブラックバード達がブルブル震え出した。
 どうやらこのデカブラックバードが群れのボスみたいだね。

『待て。コイツの脚についているのは魔法具だ。この鳥は人間に飼われた鳥だ』
『に、人間に飼われた鳥⁉︎ か、飼い鳥だ!』

 ブラックバード達がボスの言葉にいちいち動揺している。
 そんなバード達にボスがさらに衝撃の事実を言い放った。

『違うな。お前達、人間に飼われた鳥を何って言うか知ってるか?』
『ペットですか?』
『——【人間】だ。そいつはもう鳥じゃない。人間には容赦するな』
『鳥じゃない。人間だ、人間だ!』

 ピーちゃん、このボスヤバいよ。
 ピーちゃんを逃さないようにブラックバード達が地上と上空の両方を包囲した。

「野菜の敵め! 覚悟しろ!」

 そんな絶体絶命のピンチに助けが現れた。
 クワを掲げて、ヤバい男が向かってきた。

『馬鹿な男だ。殺すなよ、野菜が食えなくなる』
『はい、ボス!』

 ヤバい男を軽く見ると、ボスがブラックバード達に命じた。
 ピーちゃんを囲んでいたブラックバードの半数がヤバい男に飛んでいった。

「痛い痛い、やめてくれぇ!」

 すぐに男の悲鳴が上がったそうだ。

『痛い痛い、助けてぇ!』

 ピーちゃんも悲鳴を上げたそうだ。両方ともクソ雑魚だったんだね。
 それでピーちゃん、傷だらけで逃げ帰ってきたんだね。
 
『わぁっ⁉︎』

 えっ、違うの? クチバシで突かれていると、両脚の指輪が光り出した。
 身体を緑色の光が包み込んで痛みが消えて、ブラックバード達が弾き飛ばされた。

バードストライク超体当たり習得】——威力は『耐久』と『敏捷』の値に比例する。

 ……ピーちゃん、本当のこと話しても、僕は恥ずかしいと思わないよ。
 ……うん、分かった。ピーちゃんがそれでいいなら聞くね。
 バードストライク習得と頭の中に浮かんだそうだ。
 
『それが脚の魔法具の力か』
『次は僕の番だよ』

 ボスと一瞬見つめ合うとピーちゃんは言い切った。
 上空に飛び上がると素早く高速旋回して、追ってきたブラックバード達に狙いを定めた。

『”バードストライク”』
『ぐがあああ!』

 そして一本の風の矢になって、ブラックバード達を大地に射ち落とした。

『ボ、ボス! あの野朗、急に強くなりやがった!』
『慌てるな。遊びの時間は終わりだ。あの羽根を真っ赤に染め上げてやれ』

 覚醒したピーちゃんの強さにブラックバード達に動揺が走った。
 でも、すぐにボスの指揮で立て直した。
 男を襲っていた半数も加わり、四十を超えるブラックバード達がいっせいに襲いかかった。

『人間を殺せ! 人間を殺せ!』
『遅すぎ。本当に鳥なの?』

 だけど、ピーちゃんの敵じゃなかった。
 さっきまでやられていたのに敵じゃなかったそうだ。
 素早く飛び回り、覚えたての『バードストライク』を連発して射ち落としていく。

『ヤバい、強すぎる! 逃げるぞ!』
『……逃げられると思っているの?』

 逃げようとしたブラックバードも追いかけて射ち落としていく。
 最後に残ったのは左眼に切り傷があるボスだけになった。

『やはりただのカラスを集めても無駄か。おい、青いの。同じ魔物同士仲間にならないか? 私と手を組めば、人間に飼われるよりも良い暮らしをさせてやるぞ』

 地上に立つボスが空のピーちゃんを見上げて、左の翼を伸ばしてきた。

『お前、嫌い。ぶっ飛ばす』

 でも、ピーちゃんはそれを素早く断った。

『残念だ。だが、愚か者を仲間にするよりはマシか。さあ、殺すとするか』

 バサァとひと羽ばたきで、ボスはピーちゃんの目の前まで移動した。

『速さなら私も自信がある。どちらが速いか、命を賭けて確かめるとしようか』
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