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第四章:商人編
第168話 地獄の扉
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「チッ、腰抜け共め!」
宿屋の個室に入ると、隣の壁に怒鳴って防音機能を確認した。
セカンドの町の宿屋で冒険者を勧誘したが、全員が腰抜けだと分かっただけだった。
町の住民に門番がいる扉を『地獄の扉』と教え込まれている。
入ったら二度と生きて帰れないそうだ。俺は何度も出入りしている。
「駄目ですよ。ここを使わないと」
「はぁ?」
ベッドに座っている半笑いメルが、自分の頭を指差して言ってきた。
ベッドの上には調理鍋と一緒に、ちゃっかりAランクの弓矢が置かれている。
複数の冒険者に話して、一万ポイントを分担して支払ってもらったそうだ。
俺よりも賢い頭だと自慢している。
「俺は戦力が欲しいんだよ。鍋で戦えると思っているのか? えー、どうなんだ?」
「あぅっ! いつもの八つ当たりですぅー!」
俺が命を懸けて手に入れた本を、調理鍋と弓矢に交換できて嬉しいみたいだ。
両頬を指で引っ張って、笑う手伝いをしてやった。遠慮しているけど、まだまだ引っ張る。
お前がやったのは金貨と銀貨を交換しただけだ。
「うぅぅ、痛いです」
「大人を馬鹿にして、無駄遣いしたお仕置きだ。しっかり反省しろ」
柔らか頬っぺたを解放してやると、メルが両頬をさすって痛がっている。
俺好みの女ならば、お仕置きすれば感謝するから、まだまだ成長が足りない。
「それよりもどうするんですか? 人が集まらなかったから、戦わないんですよね?」
「俺を腰抜け共と一緒にするな。地獄から生還して、住民達の嘘を証明してやる」
半笑いから半泣きに変わったメルが聞いてきた。
もちろん予定通りに決まっている。
「えぇー、やめた方がいいですよ。死んじゃいますよ。それともそんなに結婚したいんですか?」
「まだ足りないみたいだな?」
「あぅっ! 隊長、カッコいいです! モテモテです!」
やっぱり反省が足りないみたいだから、再びメルの頬っぺたを引っ張った。
俺は愛の為に戦うわけでも、モテないから町娘と無理矢理結婚するわけでもない。
愚かな冒険者達に真実を教えて、幸福にしてあげたいだけだ。
「よし、二人で門番を倒すぞ」
「嫌です! まだ死にたくないです! 死ぬなら一人で死んでください!」
「くっ、無駄な抵抗を!」
木の精霊がいる扉は森の中にあるそうだ。
町からすぐ近くだから、さっさと二人で倒してやる。
そのつもりなのに、メルがベッドにしがみ付いて離れようとしない。
腰を引っ張って離そうとするが、絶対に行きたくないようだ。
「もういい、分かった。お前はここにいろ。俺一人で十分だ」
「駄目ですよ。隊長、死にますよ」
「死ぬか! 俺は四種類集めて、あの店員に結婚を強要するんだ」
やはり最後に頼りになるのは自分だけだ。他人を当てにするべきではなかった。
扉には森の木を切って、それを小船で燃やしながら入ればいい。
炎と氷さえあれば、今の俺には何もいらない。
♢
「今度は葉っぱか。燃やし放題だな」
森を歩いて、冒険者達から聞いた場所に到着した。
砂漠の扉と同じように黒岩の四角い台座に、長方形の扉が開いている。
今度は流れる水ではなく、緑色のツタが扉の一面に見える。
地獄の扉はすでに開かれている。
この俺がさらに地獄に相応しい光景に変えてやろう。
小船に積み込んだ枝束に、左手の炎の指輪で着火した。
パチパチと音を立てて枝が燃えていく。
普通の冒険者ならば、ここで小船と一緒に扉に突入する。だが、俺は超一流冒険者だ。
魔剣を使って炎を紫氷、紫炎に変えて、森の樹木にも着火した。
これでメルがいなくても問題ない。大量の紫炎と一緒に扉に突入した。
「うっ、変な臭いがする」
扉の中は円形闘技場だったが、足元には大量の毒花が咲き誇っている。
空気中に毒、麻痺、睡眠作用がある花粉がキラキラ舞っている。
俺に毒は効かないが、視界の邪魔だから全部燃やさせてもらう。
大量の紫炎を竜巻のように操って、赤、黄、青色の毒花と花粉を焼き尽くした。
「さて、どこにいる?」
お花畑を燃やされても門番は出てこない。ツタ壁の上には樹木が生えている。
隠れられる場所はツタ壁の中か、樹木の森の中だけだ。
隠れるのが好きなら、そのまま隠れていればいい。
紫炎の竜巻でツタ壁を燃やしていく。
ここが終わったら、次は樹木を燃やしてやる。
「お願いします! 攻撃をやめてください!」
「んっ? 誰かいるのか?」
ツタ壁を燃やしていると、上の方から必死な感じの女の声が聞こえてきた。
俺以外の人間が扉の中に入っていたのだろうか?
二つの紫炎の竜巻を停止させて、声の主を探してみた。
【名前:ドリュアス 性別:メス 種族:木精魔人 身長:不明 体重:不明】
「お願いします、冒険者様。どうかお許しください」
樹木の中から長い黄緑色の髪に、薄緑のワンピースを着た十五歳ぐらいの美少女が出てきた。
両手を合わせて祈るように頼んでいる。身長は百五十センチぐらいなのに、不明なのが気になる。
それに識別眼の情報だと魔人だ。門番を倒した別の魔人が占領でもしているのか?
「あんた、何者だ? ここの門番か?」
足元に岩板を作って、ドリュアスと同じ高さの空中に移動して聞いた。
門番じゃないなら、魔人同士で仲良くした方が良い。
「門番? 何の事でしょうか? 私はドリュアスと言います。この森に静かに住んでいるだけです。どうか、森を焼くのをやめてください」
惚けているのか、門番は知らないと言っている。
もしかすると門番の扉じゃなくて、魔人の家の扉の可能性もある。
だけど、この円形闘技場を簡単に作れるとは思えない。
会話が出来るからといって、この女が門番じゃない可能性は捨てきれない。
「あんた一人だけか? 出口はどこにあるんだ? 壁の出口が消えている」
「分かりません。私もここに何年も閉じ込められてしまって、出口を探しているのに見つからないんです」
「つまり、出られないというわけか。それは困ったな」
出口は消えている。女が敵なのか分からない。
現状で最優先で確認するべきなのは、女が敵か味方か調べる事だ。
信用したフリをして、油断している俺を襲うか確かめる。襲ってきたら間違いなく敵だ。
紫炎を紫氷に変えると、ドリュアスの前に着地した。
「俺はカナン、同じ魔人だ。ここが門番の扉なら、必ずどこかに門番が隠れている。一緒に探して倒そう。そうすれば外に出られる」
「そうだったんですね。よろしくお願いします、カナン様。怪我しているようですけど大丈夫ですか?」
「いつもの事だから問題ない。早く探そう」
「はい」
理想的すぎる大人しい女だが、本気で油断するつもりはない。
俺の右隣を歩くドリュアスと一緒に、樹木の中を調べていく。
何年も閉じ込められて、隠れている門番を見逃すとは思えないが、俺の識別眼ならば可能性はある。
手当たり次第に樹木や地面を見ていく。だけど、闘技場を三周回っても何も見つからなかった。
「ごほぉ、ごほぉ……」
「どうですか?」
「何もないな。樹木を燃やすか、地面を砕くしかないな」
魔剣を抜いたままだから、身体から血が流れ続けている。
流石に鞘に魔剣を戻さないと出血多量で死にそうだ。
身体が嘘みたいに冷たくなっている。
「やっぱり駄目なんですね。カナン様がよろしかったら一緒に暮らしませんか?」
「それも良いかもしれないな……」
まだ樹木も地面も壊してないのに、もうドリュアスは諦めている。
怪しい動きをしてこないのは、永遠に俺をここに閉じ込めるつもりだからだろうか。
確かに小さな岩家でも建てて、二人で静かに暮らすのも悪くはない。
子供は三人ぐらい欲しいけど、敷地が広いからもっと多くても大丈夫そうだ。
だけど、そんな夢みたいな話はない。俺を襲ってこないなら、俺が襲うしかない。
信用しているフリはもう終わりだ。紫氷を紫炎に変えた。
「カナン様?」
「ここには俺とお前しかいない。だったら、門番はお前だ」
動揺するドリュアスに剣先を向けた。
演技は終了だ。お互い敵と敵に戻る時間だ。
「そんなぁ……違います! 私じゃありません。信じられないのなら、その剣で私を殺してください!」
「うっ!」
でも、ドリュアスはまだ戻るつもりはないようだ。
涙を流す目を閉じると両手を広げて、自分を殺すように言ってきた。
流石に無抵抗な女を切り殺すのは躊躇する。
そんな俺の心の動揺を無視して、ドリュアスは向けた剣先に向かって歩いてきた。
剣を下げないと胸に突き刺さってしまう。
俺が切れないから、自分から刺さるつもりのようだ。
「やめろ!」
「……カナン様が信じてくださるのならやめます」
大声で教えると、ドリュアスは剣先の前でやっと立ち止まった。
目を開いて、俺の方を真っ直ぐに見つめて聞いてきた。
だけど、明らかに怪しい人物を信じられるはずがない。
「ぐっ、信じる事は出来ない」
「でしたら、これで信じられるはずです」
俺の返事を聞くと、ドリュアスは軽く微笑んだ。
そして、迷わずに刀身を両手で掴んで、自分の胸に剣を突き刺した。
「がふっ‼︎ うぐっっ、ぐふっ……!」
「なっ⁉︎ 何をしている⁉︎」
口と胸から真っ赤な血が溢れ出している。
突き刺した剣をさらに深く刺して、俺に近づいてくる。
無実を証明する為に死ぬなんて正気じゃない。
宿屋の個室に入ると、隣の壁に怒鳴って防音機能を確認した。
セカンドの町の宿屋で冒険者を勧誘したが、全員が腰抜けだと分かっただけだった。
町の住民に門番がいる扉を『地獄の扉』と教え込まれている。
入ったら二度と生きて帰れないそうだ。俺は何度も出入りしている。
「駄目ですよ。ここを使わないと」
「はぁ?」
ベッドに座っている半笑いメルが、自分の頭を指差して言ってきた。
ベッドの上には調理鍋と一緒に、ちゃっかりAランクの弓矢が置かれている。
複数の冒険者に話して、一万ポイントを分担して支払ってもらったそうだ。
俺よりも賢い頭だと自慢している。
「俺は戦力が欲しいんだよ。鍋で戦えると思っているのか? えー、どうなんだ?」
「あぅっ! いつもの八つ当たりですぅー!」
俺が命を懸けて手に入れた本を、調理鍋と弓矢に交換できて嬉しいみたいだ。
両頬を指で引っ張って、笑う手伝いをしてやった。遠慮しているけど、まだまだ引っ張る。
お前がやったのは金貨と銀貨を交換しただけだ。
「うぅぅ、痛いです」
「大人を馬鹿にして、無駄遣いしたお仕置きだ。しっかり反省しろ」
柔らか頬っぺたを解放してやると、メルが両頬をさすって痛がっている。
俺好みの女ならば、お仕置きすれば感謝するから、まだまだ成長が足りない。
「それよりもどうするんですか? 人が集まらなかったから、戦わないんですよね?」
「俺を腰抜け共と一緒にするな。地獄から生還して、住民達の嘘を証明してやる」
半笑いから半泣きに変わったメルが聞いてきた。
もちろん予定通りに決まっている。
「えぇー、やめた方がいいですよ。死んじゃいますよ。それともそんなに結婚したいんですか?」
「まだ足りないみたいだな?」
「あぅっ! 隊長、カッコいいです! モテモテです!」
やっぱり反省が足りないみたいだから、再びメルの頬っぺたを引っ張った。
俺は愛の為に戦うわけでも、モテないから町娘と無理矢理結婚するわけでもない。
愚かな冒険者達に真実を教えて、幸福にしてあげたいだけだ。
「よし、二人で門番を倒すぞ」
「嫌です! まだ死にたくないです! 死ぬなら一人で死んでください!」
「くっ、無駄な抵抗を!」
木の精霊がいる扉は森の中にあるそうだ。
町からすぐ近くだから、さっさと二人で倒してやる。
そのつもりなのに、メルがベッドにしがみ付いて離れようとしない。
腰を引っ張って離そうとするが、絶対に行きたくないようだ。
「もういい、分かった。お前はここにいろ。俺一人で十分だ」
「駄目ですよ。隊長、死にますよ」
「死ぬか! 俺は四種類集めて、あの店員に結婚を強要するんだ」
やはり最後に頼りになるのは自分だけだ。他人を当てにするべきではなかった。
扉には森の木を切って、それを小船で燃やしながら入ればいい。
炎と氷さえあれば、今の俺には何もいらない。
♢
「今度は葉っぱか。燃やし放題だな」
森を歩いて、冒険者達から聞いた場所に到着した。
砂漠の扉と同じように黒岩の四角い台座に、長方形の扉が開いている。
今度は流れる水ではなく、緑色のツタが扉の一面に見える。
地獄の扉はすでに開かれている。
この俺がさらに地獄に相応しい光景に変えてやろう。
小船に積み込んだ枝束に、左手の炎の指輪で着火した。
パチパチと音を立てて枝が燃えていく。
普通の冒険者ならば、ここで小船と一緒に扉に突入する。だが、俺は超一流冒険者だ。
魔剣を使って炎を紫氷、紫炎に変えて、森の樹木にも着火した。
これでメルがいなくても問題ない。大量の紫炎と一緒に扉に突入した。
「うっ、変な臭いがする」
扉の中は円形闘技場だったが、足元には大量の毒花が咲き誇っている。
空気中に毒、麻痺、睡眠作用がある花粉がキラキラ舞っている。
俺に毒は効かないが、視界の邪魔だから全部燃やさせてもらう。
大量の紫炎を竜巻のように操って、赤、黄、青色の毒花と花粉を焼き尽くした。
「さて、どこにいる?」
お花畑を燃やされても門番は出てこない。ツタ壁の上には樹木が生えている。
隠れられる場所はツタ壁の中か、樹木の森の中だけだ。
隠れるのが好きなら、そのまま隠れていればいい。
紫炎の竜巻でツタ壁を燃やしていく。
ここが終わったら、次は樹木を燃やしてやる。
「お願いします! 攻撃をやめてください!」
「んっ? 誰かいるのか?」
ツタ壁を燃やしていると、上の方から必死な感じの女の声が聞こえてきた。
俺以外の人間が扉の中に入っていたのだろうか?
二つの紫炎の竜巻を停止させて、声の主を探してみた。
【名前:ドリュアス 性別:メス 種族:木精魔人 身長:不明 体重:不明】
「お願いします、冒険者様。どうかお許しください」
樹木の中から長い黄緑色の髪に、薄緑のワンピースを着た十五歳ぐらいの美少女が出てきた。
両手を合わせて祈るように頼んでいる。身長は百五十センチぐらいなのに、不明なのが気になる。
それに識別眼の情報だと魔人だ。門番を倒した別の魔人が占領でもしているのか?
「あんた、何者だ? ここの門番か?」
足元に岩板を作って、ドリュアスと同じ高さの空中に移動して聞いた。
門番じゃないなら、魔人同士で仲良くした方が良い。
「門番? 何の事でしょうか? 私はドリュアスと言います。この森に静かに住んでいるだけです。どうか、森を焼くのをやめてください」
惚けているのか、門番は知らないと言っている。
もしかすると門番の扉じゃなくて、魔人の家の扉の可能性もある。
だけど、この円形闘技場を簡単に作れるとは思えない。
会話が出来るからといって、この女が門番じゃない可能性は捨てきれない。
「あんた一人だけか? 出口はどこにあるんだ? 壁の出口が消えている」
「分かりません。私もここに何年も閉じ込められてしまって、出口を探しているのに見つからないんです」
「つまり、出られないというわけか。それは困ったな」
出口は消えている。女が敵なのか分からない。
現状で最優先で確認するべきなのは、女が敵か味方か調べる事だ。
信用したフリをして、油断している俺を襲うか確かめる。襲ってきたら間違いなく敵だ。
紫炎を紫氷に変えると、ドリュアスの前に着地した。
「俺はカナン、同じ魔人だ。ここが門番の扉なら、必ずどこかに門番が隠れている。一緒に探して倒そう。そうすれば外に出られる」
「そうだったんですね。よろしくお願いします、カナン様。怪我しているようですけど大丈夫ですか?」
「いつもの事だから問題ない。早く探そう」
「はい」
理想的すぎる大人しい女だが、本気で油断するつもりはない。
俺の右隣を歩くドリュアスと一緒に、樹木の中を調べていく。
何年も閉じ込められて、隠れている門番を見逃すとは思えないが、俺の識別眼ならば可能性はある。
手当たり次第に樹木や地面を見ていく。だけど、闘技場を三周回っても何も見つからなかった。
「ごほぉ、ごほぉ……」
「どうですか?」
「何もないな。樹木を燃やすか、地面を砕くしかないな」
魔剣を抜いたままだから、身体から血が流れ続けている。
流石に鞘に魔剣を戻さないと出血多量で死にそうだ。
身体が嘘みたいに冷たくなっている。
「やっぱり駄目なんですね。カナン様がよろしかったら一緒に暮らしませんか?」
「それも良いかもしれないな……」
まだ樹木も地面も壊してないのに、もうドリュアスは諦めている。
怪しい動きをしてこないのは、永遠に俺をここに閉じ込めるつもりだからだろうか。
確かに小さな岩家でも建てて、二人で静かに暮らすのも悪くはない。
子供は三人ぐらい欲しいけど、敷地が広いからもっと多くても大丈夫そうだ。
だけど、そんな夢みたいな話はない。俺を襲ってこないなら、俺が襲うしかない。
信用しているフリはもう終わりだ。紫氷を紫炎に変えた。
「カナン様?」
「ここには俺とお前しかいない。だったら、門番はお前だ」
動揺するドリュアスに剣先を向けた。
演技は終了だ。お互い敵と敵に戻る時間だ。
「そんなぁ……違います! 私じゃありません。信じられないのなら、その剣で私を殺してください!」
「うっ!」
でも、ドリュアスはまだ戻るつもりはないようだ。
涙を流す目を閉じると両手を広げて、自分を殺すように言ってきた。
流石に無抵抗な女を切り殺すのは躊躇する。
そんな俺の心の動揺を無視して、ドリュアスは向けた剣先に向かって歩いてきた。
剣を下げないと胸に突き刺さってしまう。
俺が切れないから、自分から刺さるつもりのようだ。
「やめろ!」
「……カナン様が信じてくださるのならやめます」
大声で教えると、ドリュアスは剣先の前でやっと立ち止まった。
目を開いて、俺の方を真っ直ぐに見つめて聞いてきた。
だけど、明らかに怪しい人物を信じられるはずがない。
「ぐっ、信じる事は出来ない」
「でしたら、これで信じられるはずです」
俺の返事を聞くと、ドリュアスは軽く微笑んだ。
そして、迷わずに刀身を両手で掴んで、自分の胸に剣を突き刺した。
「がふっ‼︎ うぐっっ、ぐふっ……!」
「なっ⁉︎ 何をしている⁉︎」
口と胸から真っ赤な血が溢れ出している。
突き刺した剣をさらに深く刺して、俺に近づいてくる。
無実を証明する為に死ぬなんて正気じゃない。
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