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第三章:魔人編

第129話 氷結の鎖

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「絶対に嵌めたら駄目だからな」
「あうっ」

 二人乗りの小船を作ると、五階まで真っ直ぐに進んだ。
 金色の宝箱を守っている岩塊を壊して、メルに嵌めないように注意する。
 そして、宝箱が開いた瞬間、数種類の宝石が埋め込まれた銀の腕輪を掴み取った。

【神器の腕輪:使用者に一回のみ進化効果を与える】——ただし、使用者の能力が未成熟な場合は効果は発動しない。

「なるほど。未熟者には使えないわけか……なら大丈夫だな!」

 称号と同じで、ただしと注意が多いが、今度は問題なさそうだ。
 左腕に腕輪を嵌めた。これで誰にも奪えない。

「……なったのか?」

 腕輪を嵌めたが変化を感じない。
 身体に触れて調べてみたが、アビリティは変化していなかった。
 壊れているんじゃないかと疑いたいが、流石にそれは無理がある。

「フッ。まだまだ成長期という事か。ならば仕方ないな」

 まだ、その時じゃないらしい。左腕から腕輪を取って、鞄の奥に押し込んだ。
 早く階段に戻るとしよう。変態オヤジが着替えを覗きに来そうだ。

 ♢

「何だ、これは?」
「ゔゔゔっ、ゔゔゔっ!」

 階段に戻ると、岩塊で拘束されたゾンビしかいなかった。
 しかも、アレンゾンビの腹の上に、見た事ある白い紙が置かれている。

『人質は腕輪と交換だ。上に来い』
「あぁ、なるほどね」

 白い手紙には短い文字が並んでいたが、誰が書いたのかすぐに分かった。
 まだ起きる時間には二時間以上も早いが、嘘作戦の為に早起きしたようだ。

「まあ、それはないな。メル、これを持って城の中に隠れていろ。百数えたら探しに行くから見つかるなよ」
「あうっ!」

 嘘作戦に気づいていたのか、オヤジが助けを求めたのか知らないが、腕輪は渡さない。
 鞄の中から腕輪を引っ張り出すと、メルに渡して隠れるように指示した。
 言われた通りに階段を駆け下りていったから、しばらくは大丈夫だろう。
 これでゆっくりと復讐を楽しめる。

「クククッ。格の違いを教えてやる」

 これから残虐なショーが始まるから子供には見せられない。
 地魔法使い一位の称号を奪い取る。この俺をあの時に殺さなかった事を後悔しろ。
 背中に氷剣と呪われた剣、左腰に素早さ上昇効果の銀剣を装備して、階段をゆっくり上っていく。
 アイツらなら、いきなり攻撃する可能性しかない。

「⁉︎」
「おっと、それ以上は近づかなくていい。まさか生きて戻ってくるとは思わなかった」

 階段から出ると、そこにはオルファウスしかいなかった。
 人質は全部で十八人、他の二人は見張りでもしているのだろう。
 だとしたら、尚更好都合だ。一人ずつ倒す方が楽に決まっている。

「人質はどうした? まさか、もう殺したわけじゃないだろう。生きているか見せろ!」
「自分の立場が分かってないようだ。まずは武器を捨ててもらおうか」
「断る! 俺に人質は効かない。殺したければ殺せ!」
「イカれてやがる」

 交渉の時間は終わりだ。左腰から銀剣を抜くと攻撃を開始した。
 大人しく腕輪を渡す、使われる、口封じに全員殺される、その程度の流れは分かっている。
 だったら、抵抗する、人質が殺される、オルファウス達を倒す、ゾンビにする、がいい。
 残りのゾンビの定員は二人だから、上手な命乞いが出来たヤツを仲間にしてやる。

「エス、ラス! そっちはいいから手伝え!」

 俺の剣を素早く躱しながら、オルファウスが叫んだ。
 三対一なら俺を倒せると思っているようだが、お前はすぐに倒されるから二対一だ。
 左手を向けると、四メートルの至近距離から高速の弾丸を発射した。

「食らえ」

 五つの弾丸が十字を描くように飛んでいく。
 けれども、オルファウスに当たる前に空中で砕け散った。

「なっ⁉︎」
「無駄だ。俺の『重力圧縮』の前に飛び道具は通用しない。そして、人間も同じだ」
「——ッ!」

 右足を押し潰そうとする見えない力に急いで距離を取った。
『重力魔法LV7』『圧縮LV7』『魔眼LV7』、おそらくこれが正体だ。
 見た対象を重力で強力に圧縮している。そんなところだろう。

 だが、魔法を発動できる距離は決まっている。
 遠距離だと届かないし、敵の魔法耐性が高ければ効果は弱くなる。
 それに魔力探知で狙われている部分を素早く把握すれば、回避も可能だ。

「……」

 まあ、ここまでの対策は立てられる。
 問題は三対一で、他の二人を同時に相手しながらやれるかだ。
 岩小屋の中からエストともう一人が飛び出してきた。

「交渉決裂だ。また生け捕りにする」
「簡単に言うな。前よりも魔力が上がっている。また進化している」
「安心しろ。進化だけだ。あの腕輪はモンスターには使えない」
「……」

 嫌な情報がチラッと聞こえたけど、使えない腕輪の処分方法は後で考えよう。
 まずは目の前の危機的状況を考える。考える時間があるのなら……

「またか」

 エストが腕を振り上げて、黒い刃を飛ばしてきた。最近似た技を見たばかりだ。
 多分弾丸で撃ち落そうとしても、避けられるのは分かっている。
 岩壁を左手で作り出して、盾のように構えると走り出した。
 止まっていたら的になる。エストの黒い刃に続いて、透明な鎖まで飛んできた。

【エアロカテーナ:特殊ランクX】——フェンリルの皮と氷竜の鱗で作られた、空気を注入して膨らむ鎖。軽い凍結効果を有する。
 
「なるほど。触ると危険な武器か!」
「むっ!」

 ギィン‼︎ 剣で襲いかかってくる氷風の鎖を弾き返した。
 まずは下手に突っ込むよりも、三人の情報を集める。

 おそらく白髪の男シトラスが三人の中で一番弱い。
 オルファウスとエストは正直微妙だが、エストはLV8のアビリティを一つ持っている。

『地雷魔法LV8』、調べようとしているのに全然見えない。
 もしも、二つの属性が混ざった魔法を使っているなら、純粋な地魔法使いではない。
 つまりは失格だから、この時点で俺が地魔法使い一位確定だ。

 だが、俺はそんな些細な事は気にしない男だ。
 例え反則技を使ったとしても、超えられない壁があると教えてやる。
 圧倒的な力の前に絶望するがいい。

「ハハッ。捕まえた。もう逃げられない」
「それはどうかな!」

 シトラスが操る六本の鎖の一つが俺の胴体に巻き付いた。
 剣で叩き切ろうとしたが弾かれた。

「無駄だよ。その鎖は殺生白珠で作ったから絶対に切れない。あの女みたいに剣でも投げて脱出してみたら?」
「あっそ」

 悪いがその脱出方法に興味はない。
 左手で鎖を掴むと、両足の下に四角い弾丸を用意した。
 捕まえだと? それはこちらの台詞だ。捕まえさせてやったんだ。

「終わりだ」
「むっ⁉︎」

 勢いよく両足の弾丸を発射して一緒に飛んだ。ゾンビの定員は残り二名だ。
 一番弱そうなお前の席は無い。首でも撥ね飛ばされていろ。

 ギィーン‼︎

「くっ‼︎」
「ぐふっ! ハハッ。ねぇ、言ったでしょ。絶対に切れないって」

 右脇下から左肩を狙った渾身の切り上げが、白髪の右腕に巻き付いた鎖に受け止められた。
 白髪の身体が羽根のように軽いのか、剣撃で吹き飛んでいる。
 そうやってまた距離を取るつもりだろうが、そうはさせない。
 剣を握る右手の拳から、空中に浮かぶ白髪に弾丸を連射した。

「忘れたよ!」
「残念ー! お前の攻撃は見えているよ」
「くっ!」
 
 大量の弾丸が渦巻きのように丸まった鎖盾に激突して防がれた。
 ちょっと強くなって油断していたようだ。余裕と油断は違う。
 左手に掴んでいる鎖が滑るように動いて、俺の胴体から身体の下の方に巻き付いていく。
 足を動けないようにするつもりらしい。

「舐めるなよ。この程度で俺を押さえられると思うな‼︎」

 三人とも魔眼持ちなら、俺の魔法攻撃が準備段階からよく見えているんだろう。
 だったら、絶対に避けられない攻撃に変えるだけだ。
 全身を岩で覆うと上空に向かって発射した。空中散歩に連れて行ってやる。

「ぐぐぐっ、逃すわけないだろ! 何やってんだよ、エスト! さっさと倒せよ!」
「だったら、犬が暴れないように首輪を押さえていろ」

 白髪が連れて行かれないように、追加の鎖を岩塊に巻き付けて地上で踏ん張っている。
 でも、無駄だ。縦にも横にも俺はデタラメに飛ぶ事が出来る。
 引いて駄目なら押してやる。上空に行くのが嫌なら押し潰してやる。

「この腐れゾンビが! 何で凍らないんだよ! 僕の鎖を離せよ!」

 俺の突っ込みを回避した白髪が文句を言っているが、先に掴んだのはそっちの方だ。
 身体をさらに巨大な岩の塊に変えて、岩塊を回転させて、白髪の身体から鎖を巻き取り続ける。
 そろそろ力比べは十分だろう。今度こそ逃げ場のない空中散歩に連れていく。

「ぐぅっ! やめろ!」

 魔法破棄で覆おうとする岩を消滅させているが、もう遅過ぎだ。
 かなり短くなった鎖を最後まで巻き取ると、白髪の身体を岩塊にくっ付けた。
 俺のプライベートルームに案内してやる。白髪を岩塊の中に取り込んだ。

「ようこそ、俺の城に——」
「この野朗、ぐごぉ、ふぐっ‼︎」
「最後まで聞けよ」

 どうやら品の無いお客様を招いてしまったようだ。
 周囲の岩壁から弾丸を連射して、鎖で全身を守っている白髪を痛めつけていく。

「ぐがぁ、ぐぅ、ごがぁ‼︎」
「ククッ。早く諦めた方がいいぞ。このまま一ヶ月続けてもいいんだからな」

 もちろん、そんなつもりはない。金庫がどんなに頑丈でも、中身が卵なら壊せる。
 エストが追いかけてくるが、空中を逃げる速さは俺の方が上だ。
 そろそろ卵が壊れそうだから、地上に解放してやろう。
 10メートル程の岩塊から脱出すると、そのまま地上に落下させた。
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