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第三章:魔人編

第119話 秘密兵器

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「普通に切ると時間がかかるな……」

 絶対に負けられない戦いが始まった。瓦礫に隠れて巨人がやってくるのを待つ。
 アレンよりも早く巨人の足を破壊しないと、あとで何を言われるか分からない。
 やるとしたら、高威力の範囲攻撃で一撃で仕留めたい。

 俺の技の中で一番攻撃力が高いのは、ゴーレムに乗った状態からの突進斬りだと思う。
 でも、五メートルのゴーレムが瓦礫に隠れられるはずがない。
 また巨人達に見つかって、また危険なお祭りが始まってしまう。

 技の参考にするなら、エストの技だ。
 爆発する黒い針と弾は、おそらく可燃性ガスや花火のようなものだ。
 巨大なものを力で強引に押さえつけて、入れ物に入れて小さくしている。
 それを得意の遠隔操作で操って、ぶつかる瞬間に入れ物を破壊して、爆発させている。

 利点はもちろん高威力な事だが、欠点も高威力な事だ。
 近場で使うと、自分まで巻き添えを食らってしまうようだ。
 俺の大量の岩壁を壊した時だろう。額から血を流していた。

 遠距離だと操れず、近距離だと使えない。そんな感じの魔法だと思う。
 今度やり合う時は近距離で戦って、分不相応な地位を剥奪してやる。

「やり方は何となく分かるんだけど、真似は出来ないんだよな」

 試しに黒針を作ってみたが、発射後に壊す事は出来なかった。
 発射前に折っても爆発しなかった。
 俺に花瓶を作る事は出来ても、中に入れる水や花は作れないらしい。
 地魔法以外の何かを加えないと駄目なのだろう。
 つまり、俺に出来る範囲で強力な魔法を考えるしかない。

「フガァッー!」
「時間切れだな。とりあえず剣で切るしかないな」

 考えている時間はもうないようだ。地響きが近づいてきている。
 瓦礫から覗いてみると、ロビンが巨人を三体も連れてきていた。
 流石に一体ずつ連れて来てもらうのは、贅沢だったみたいだ。
 足元に岩板を作ると、その上に飛び乗った。

 作戦はこうだ。剣を水平状態で構えたまま巨人の右足に深く突き刺す。
 そして、岩板を操って上に向かって、グルグル回りながら、肉を切っていく。
 足の付け根まで上ったら、今度は折り返して、下にグルグル回っていく。
 でも、どうせなら頭の天辺まで行きたい。喉を切り裂き、両目も切り裂けば完璧だ。

「攻撃が当たれば、蚊みたいに一撃で潰されるな!」

 目の前の瓦礫を蹴り飛ばして巨人が通過した。すぐに岩板を高速で飛ばして追いかけた。
 巨人の攻撃で気をつけるのは、張り手攻撃だけだ。自分の足を棍棒で叩く馬鹿はいない。
 両手を岩の手に変えて、剣を少しだけ大きくした。あとはカカトの少し上に突き刺すだけだ。

「フガァッ、フガァッ!」
「いや、これは無理だろう……」

 走っている巨人のカカトが後ろに向かって飛んでくる。
 どう見ても動いている足に、剣を突き刺すには高度な技術が必要だ。
 タイミングを合わせようと頑張ったが、諦めた。
 剣を刺したいなら動きを止めるか、割れ目が見える緑色の汚い尻に刺すか選ぶしかない。

「くっ、尻に刺すしかないか!」

 究極の決断を素早く出来た自分を褒めてやりたい。
 空飛ぶ岩板を斜め上に急上昇させて、緑色の右尻に剣を突き刺した。

 ドスンッ‼︎

「ンゴォー⁉︎」

 一瞬だけ突き刺さらなければいいと思ってしまったが、剣は深々と突き刺さってしまった。
 次は予定通りに下に向かって、グルグル回って切るだけだが、前に行くのだけは勘弁してほしい。
 足元の岩板に両足をしっかり埋め込ませると、急降下した。

「フンガァーッ‼︎」
「くぅぅ!」

 汚い声が上から聞こえてくるが、それ以上に汚い血の雨が降ってくる。
 口の中に入らないように、しっかり閉じて、右足を下に向かって切り裂いていく。
 勝負には勝てそうだが、素直に喜べそうにない。勝利というには余りにも醜く臭すぎる。

 ♢

「お前はここに隠れていろよ」
「あうっ」

 無事に46階から48階の宝箱探索を終わらせると、49階の草原の上に岩小屋を作った。
 当然、床下にメルが隠れられる小部屋も用意してある。
 これから作戦会議を始めるから、ここに隠れていてもらう。

 オルファウス達にメルを紹介する事は出来ない。
 メルを殺した慰謝料に虹色魔玉、将軍の魂、殺生白珠まで貰ってしまった。
 返すつもりはないから、このまま安全の為にもメルには死んでいてもらう。

「全員の武器を強化するには、虹色魔玉と将軍の魂が足りない。復活後に回収するしかないな」
「そうなると食糧の補給がいるな。残りは五日分ぐらいしかない」

 草原に二十四人が集まると、50階攻略作戦会議が始まった。
 でも、肝心の50階攻略の話はすぐに終わった。俺に対して勝手な注文が始まった。

「それなら運送屋がいるから問題ないっしょ。四日もあれば往復できる」
「町に帰るんだったら、町の食堂で美味い飯が食いたい。冷めたのより出来立てが良い」
「だったら、魔銃用の魔石も必要だ。ミノタウロスを五百匹でいいから倒してきてくれ」

 コイツら俺を便利な補給係と思っているようだが、この中で俺は五本の指に入る最高戦力だ。
 もちろん貴重なアビリティ装備を報酬に貰えるなら考えてもいいが、雰囲気的に無料だろう。

「それよりも聞きたい事があります」

 なかなか進まない会議に業を煮やしたのか、今回の合同パーティの発案者が挙手をした。

「50階には何があるんですか? 知っている人間が何人かいますよね」
「そうだな。カナンとオルファウスは知っているんじゃないのか?」

 場が静かになると、ロビンとヴァンの順番で発言を始めた。
 何故か名前を言われたのは二人なのに、俺に視線が集まっている。そんなに口は軽くない。
 それに期待しているところ悪いが、姉貴には『50階は行ってみてのお楽しみ』と言われただけだ。
 ついでに俺の『50階の情報は俺の頭の中だけに入っている』も大嘘だから信じるな。

「俺は見た事ないが、金色の宝箱が出るらしい。その中には腕輪が入っていて、その腕輪をはめた者は上級職の上の職業になり、習得しているLV7のアビリティがLV8になるそうだ」

 視線が集まる中、沈黙に耐えきらずに話し始めたのはホールドだった。
 人から聞いた話みたいだから信用できないが、かなり具体的だ。
 ここは話を合わせた方がいいだろう。深いため息を吐いてから、しぶしぶ話し出した。

「ふぅー、やれやれ。ほぼその通りだ。俺も姉貴からそう聞いている」
「凄いな! でも、LV6はどうなるんだ? LV7になるのか?」
「それよりも使い回しが出来るのか聞きたい。一個手に入れれば、全員Aランクになれるのか!」
「待て待て、慌てるなよ。それは手に入れた後のお楽しみだ。その前に50階を攻略しないと駄目だろ?」

 名前も知らない赤髪と金髪の魔法使いが、興奮して詰め寄ってきたが、そんなの知るわけない。
 適当に誤魔化して、その腕輪を手に入れる方法の話し合いに戻した。

「多分49階と同じだな。七体の将軍を倒せば、王様が出現すると思う」
「多分そうだろうな。と言っても、三十種類以上のモンスターが厄介だ」
「宝箱を開けても数が減らないのが最悪だよ。しかも、他のモンスターと協力までしやがる」

 やっとまともな話し合いというか、愚痴大会が始まった。
 地下50階は『暗黒城』と名付けたそうだ。

 その城を地下1~30階に現れたモンスターが、強くなって占拠している。
 現在はその強化モンスターを倒して、宝箱を落とすモンスターを五体倒している。
 予想では残り二体を倒す事で、毒々しい紫色の開かずの大扉が開くそうだ。

 全体的な話を聞いた結果、宝箱を持っているモンスターが分からなくて苦戦している。
 そんなの手当たり次第に倒せばいいだけだが、どうも宝箱が移動しているらしい。
 暗黒城は地下二階、地上五階建てで、地下二階から順番に倒しても集まらなかった。
 
「つまりは宝箱を持っているモンスターが分かれば、無用な戦闘を避けられるわけか……」

 そんな都合の良い話はないと言いたいが、ちょうど宝箱探知器を連れてきている。
 秘密部屋から秘密兵器を連れてくれば、問題が解決する可能性は高い。
 だけど、新しい問題が発生してしまう。慰謝料をたっぷり貰ってしまった。
 出来れば、秘密兵器は秘密のまま終わらせたい。
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