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第三章:魔人編

第113話 動く瓦礫

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 地下47階……

 町を守る高い壁から、燃える町中に出た。
 真っ赤な夕陽と炎に照らされた町には、緑色の巨人が歩き回っている。
 壊れた建物の壁や屋根が、押し固められた砂の道に散らばっている。

「四角い壁の中の町か……修理すれば住めそうだな」

 俺の地魔法なら簡単な一軒家ぐらいは作れる。
 家具はないけど、近くに木材と水晶が大量にある。
 それで安い物と高級な物の両方作れるし、蛇皮で服を作るのも得意だ。
 水は氷海の海水を蒸留して、食べ物はバラ園の果物がある。
 人が住めるだけの環境は用意できる。

 でも、一つだけ問題がある。先住民族を追い出さないといけない。
 歩き回る巨人達は確認できるだけで、五十体以上はいる。
 家を踏み潰したり、長さ7メートル程の太った棍棒を地面に叩きつけている。

「叩けば消えそうだけど、永遠に燃える炎なら凄いな」

 ちょっと気になったので、燃えている角材を拾ってみた。
 炎耐性の指輪があるから、この程度なら大丈夫みたいだ。
 バシバシと手の平で消化できるか挑戦してみた。

 残念ながら、普通の炎だったようだ。
 黒く燃えた木材を入手してしまったが、すぐに投げ捨てた。
 永遠に燃える炎なら、氷海で活躍してくれると期待したのに駄目そうだ。

「これだけ暴れているなら、普通は消えると思うんだけどな」

 ダンジョンで起こる現象に常識は通用しない。常識で考える方がおかしい。
 俺が町の炎を全部消しても、きっとまた火種もないのに燃え出すだろう。
 新しい家を建てても、町の復興は永遠に終わらない。
 住むのは諦めた方がよさそうだ。

「さてと、町の調査も終わったし、そろそろ巨人を倒すとしますか」

 調査を終わらせると、巨人への攻撃を開始した。
 町の特産物は燃える木材と赤レンガぐらいしかなさそうだ。
 椅子、机、ベッド、皿、服のどれも見つからなかった。
 まるで、家だけが置かれた無人の町だ。

 ゴーレムに乗って大剣を構えて、上空から一気に巨人に接近していく。
 小人のように、壊れた建物に隠れながら接近してもいいが、おそらく見つかる。
 小さくても、チョロチョロと動き回るネズミぐらいには見えるはずだ。

「氷竜よりもヤバそうだな」

 巨人の持つ極太棍棒は、一撃でゴーレムの中身まで粉砕できそうだ。
 粉砕された後は燃える家に投げ込まれて、火葬される。
 その後は巨人達に焼きゴーレムとして食べられる。

 当然、『腐っている!』と吐き出されて、汚い足裏で踏みつけられる。
 そんな人生の最後は絶対に嫌だ。巨人の動きは氷竜よりも遅いから躱してやる。

「フガァッ、グガァッ!」
「くっ……!」

 額から灰色の角が二本生えた頭を狙って飛んでいく。
 右手からの棍棒の横振りを急上昇で回避して、左手の振り下ろしを左に回避する。
 俺への反応が虫を追い払うのと一緒だが、5メートルの虫は滅多にいない。
 思ったよりも動きが素早いから、叩き落とされる前に一旦上空に避難しよう。

「チッ……ほぼ人間と同じ動きだ。デカイだけの馬鹿じゃない」

 上空から巨人達を観察する。
 俺に気づいた他の巨人達が、腕を振り回して走ってくる。
 皆んなで町に侵入した野良犬を、叩き殺すお祭りを始めるようだ。

「おいおい、何するつもりだ?」
「フガァッ‼︎」
「ちょっ! 危ないなぁ!」

 一体の巨人が燃える家の瓦礫を拾って、上空の俺に向かって全力で投げつけてきた。
 恐ろしくコントロールが良い右肩だ。飛んできた人間サイズの瓦礫を素早く避けた。

「フガァッ‼︎」
「なっ⁉︎ コイツら、イカれてやがる‼︎」

 だが、それがお祭り開始の合図だった。
 十一体の巨人によって、人間サイズの瓦礫が次々に投げつけられる。
 こんな野蛮な祭りに参加した覚えはない。燃える瓦礫を避けて、48階行きの階段を目指した。
 階段の中に緊急避難するに決まっている。

「流石は燃える町だ。住民の心も燃えてやがる」

 くだらない事を言っている余裕はない。
 少し引き離したが、巨人達が棍棒を振り回して追いかけてくる。
 しかも、祭りの参加者が二十体以上に増えている。町の巨人は全員参加みたいだ。
 
「確か、この辺にあるはずだ!」

 姉貴の手帳通りなら、46階行きの階段から見て、町の北東に階段がある。
 地面に作られた階段だから、瓦礫で見えない場合や塞がっている場合もある。
 だけど、最近人が通ったばかりなら、他の場所よりも綺麗なはずだ。

「見つけた!」

 上空から探していると、すぐに階段は見つかった。
 瓦礫が不自然に片付けられた整備された土地がある。
 土地の真ん中に四角い穴がある。巨人達のトイレではないだろう。
 ゴーレムを急降下させて、階段を駆け下りた。

「ふぅー、危なかった」

 棍棒を突っ込まれても届かない奥まで避難した。ここまで来れば安心だ。
 ちょっと予定変更になったが仕方ない。このまま49階まで行ってみよう。
 ヴァン達が50階に行ったなら、49階にモンスターはいないはずだ。

「次は『火竜』だから空にも逃げ場はないな。階段まで行くだけでも難しいぞ」

 ♢

 地下48階……

 階段を下りた先に見える景色は同じだが、今度は巨大な赤い竜が町を破壊している。
 ここの住民は余程酷い事をしたのだろう。そうじゃなければ、ここまでされない。

「なるほど。やはり勝てそうにないな」

 町を四足歩行で動き回る火竜、上空を飛び回る火竜の数を適当に数えてみた。
 巨人と同じで五十体以上はいると見ていい。しかも、巨人よりもデカイ。

 だけど、問題ない。
 先程の敗戦理由を俺は冷静に分析していた。その理由は敵の数が多かったからだ。
 今の俺の実力なら、一対一なら苦戦したとしても巨人は倒せていた。
 倒せなかった理由があるとしたら、他の巨人が妨害してきたからだ。

「一対一なら余裕で勝てるんだけどな」

 これは言い訳じゃなくて、事実だから仕方ない。
 そして、剣を強化するのを諦めたわけじゃない。残りの階段は49階行きと50階行きの二つだけだ。
 そのどちらかに倒したモンスターの素材が入った、車輪付きの空箱が置いてあるはずだ。

 戦闘中に邪魔な箱と人質を連れ歩く馬鹿はいない。
 安全な階段の中に、集めた素材とリエラの両方を置いている可能性大だ。
 それを人質と一緒に盗めばいい。火竜と巨人を倒すよりは楽な仕事だ。

「手紙を置いて誘ってきたんだ。おそらく階段に見張りが何人かいるな」

 階段に人の気配を感じたら、そこが罠であり、チャンスだ。
 見張りがオヤジ三人ぐらいなら、余裕で階段から蹴り落とせる。
 でも、50階をすでに攻略済みなら、全員で休んでいる。
 大勢の人の気配を感じた場合は、バラの森に戻って、大人しく奇襲作戦に切り替えよう。

「よし、覚悟を決めて行くぞ」

 作戦は決まった。あとは火竜に見つからずに階段に辿り着くだけだ。
 うつ伏せに寝転ぶと、背中に焦げた瓦礫を乗せる。次に身体を岩で覆っていく。
 あとはこのまま町の西側にある階段まで、地面を滑るように移動するだけだ。

「グルルゥ……」
「我ながら賢い作戦だな」

 覗き穴で目の前を通過していく火竜の足を見送る。
 デカくなり過ぎると、地面の小さな動く瓦礫には興味がなくなるらしい。
 火竜が通過すると移動を再開した。

「おそらくこの辺だな」

 上空から見てないから、いまいち自信はないが、目的地の近くだと思う。
 だけど、瓦礫から出て、上空から探すつもりはない。
 時間をかけてもいいから、慎重に探すに決まっている。

 二十分後……

「よし、このまま瓦礫として下りてみるか」

 少し時間はかかったが、地面に作られた階段を見つけた。
 人の気配はしないが階段は長い。瓦礫作戦を継続する事に決めた。

 ガタガタガタと音を鳴らして、階段を高速で滑り落ちていく。
 壁にぶつからない器用な瓦礫が落ちてきたな、と階段にいる人間は思うだろう。
 
「このままだと下まで行きそうだな」

 階段の中には誰もいないようだ。音を立てて下りているのに声が聞こえてこない。
 階段の出口に外の光が見えてきた。念の為にこのまま瓦礫のフリをしよう。
 外にヴァン達二十人がいたら、世にも珍しい瓦礫の階段上りをしないといけない。

 地下49階……

 階段から勢いよく外に放り出された。
 瓦礫が草の地面を滑っていって停止した。

「……誰もいない?」

 覗き穴で周囲の安全を確認する。少し移動して丘の下の大草原も確認した。
 やっぱりモンスターもいなければ、人間もいない。
 本当にヴァン達がいるのかも怪しくなってきた。
 あの脅迫状も、ただの嫌がらせの可能性が出てきたぞ。

「よいしょ……まあ、それはないな」

 馬鹿な妄想はやめて、瓦礫を破壊して外に出た。
 気持ちがいい青空の下で、固まった身体をほぐしていく。

 49階にモンスターがいなければ、それは倒された証拠だ。
 この階はダンジョンでも珍しい、モンスターが出現しない場所だ。
 その条件は難しいが、それが出来れば50階への門が開かれる。

「凄いな。七人の将軍を倒したら、王様が出てくるのに倒したのか?」

 誰もいない大草原を開いた門に向かって歩いていく。
 七人の将軍を苦労して倒しても続きがある。
 開いた門から金の鎧を着た王様が、二千人近くの兵士を連れて出てくるそうだ。
 そして、王様と兵士が出終わると、また門は固く閉められてしまう。

「んっ? 王様か?」

 門の先にある階段から人が出てきた。普通に考えれば倒された王様は出てこない。
 となると、ヴァン達になるが、今更隠れられるとは思わない。
 それにやって来る人間は一人だけで、ヴァン達の仲間ではない。

「チッ。エストか……俺を地魔法使い二位にした男め」

 その場で停止すると、町の地魔法使い一位と周囲を警戒した。
 隠れられる場所はないし、人が地面の中に隠れているとも思えない。
 ただの散歩の可能性もあるから、とりあえず様子見で行くしかないな。
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