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第三章:魔人編
第99話 間話:オルファウス
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「二人死んだみたいだ。こんなに簡単に殺して良かったのか?」
漆黒の武闘服を着た、薄紫髪の男エストに聞かれて、少し微笑んで答えた。
「簡単じゃない。少し難しかった」
「そうか、それは大変だったな」
真っ直ぐに発射された赤い魔石の弾丸は、目標の二人だけを貫いて地面に沈めた。
魔石は鉄のように硬く、三人まとめて貫くのは簡単だが、威力を弱めて撃つのは難しい。
「あれはどういうつもりですか?」
「ああ、一番嫌な役を引き受けてやっただけだが、それがどうかしたか? どうせ三人とも犯罪者だ。生け捕りにしても死刑になる。町に連れていく手間も省けて助かっただろ?」
俺の攻撃が見えていたのか、金髪の弓使いが不機嫌そうな顔でやって来た。
自分よりも遠距離から攻撃できる人間がいるのが気に食わないようだ。
それとも、知り合いが殺されたのが気に食わないのか……
まあ、その知り合いはまだ死んでないようだ。
心臓を貫いたのに立ち上がっている。生きたいと思う執念には感心するよ。
「犯罪者ではなく、容疑者です。あなたがやった事はただの殺人です」
「本当にそう思っているなら、大勢で攻撃しないだろ? それに人質のガキを捕まえたのは、お前の仲間だ。そして、俺はお前の仲間が危ないから助けた。それだけだ」
「それなら、足を狙えばいいだけです。他にも安全に攻撃できる場面はありました」
素直に感謝の言葉を言えばいいのに、俺を悪者にしたいようだ。
自分達には一切責任がないと主張している。
「簡単に動く手足を狙えると思うのか? 男を貫通した弾が、不幸にも子供の胸に刺さって、俺も胸が痛いんだ。あぁ、本当に胸が痛いのは子供の方か。可哀想に……」
「まさか、不幸な事故だと言いたいんですか?」
不幸な子供の死に、胸に手を当てて悲しんだ。
金髪の顔は信じてないようだが、俺は昔から感情が顔に現れにくいだけだ。
「それ以外に見えるのか? お前にとっての都合が良い真実が出来たら聞かせてくれ。お客様だ」
金髪の弓使いを揶揄うのは楽しいが、どうやら時間切れだ。
指を指して教えてやった。懐かしい女が十二人の冒険者を振り切ってやって来た。
一対十二で戦っている間も殺気一つ出してなかったのに、俺には随分と気前がいい。
肌が切れそうな程の殺気が飛んでくる。
「武器を捨てて動かないでください。あなたには暴行の——」
「黙ってて。死にたくないでしょ?」
「……」
金髪は弓を構えて、女の前に立ち塞がった。
実に勇敢だが、女にひと睨みされて剣を向けられただけで、塞いだ道を開けようとした。
「何逃げてんだよ。また俺の手だけ汚させるつもりか?」
「……」
馬鹿みたいに危険察知能力は高いようだが、そういう行動は駄目だと忠告した。
だが、俺を無視して、赤髪の剣士の所に移動している。
「腰抜けが——」
ガァン‼︎
「ッ‼︎」
「ちっ……!」
「余所見するな」
僅かに視線を横に動かした瞬間、無言で黒髪の女が双剣を顔面に振り抜いた。
その双剣をエストが両腕を岩石に固めてカードすると、すぐに俺を注意してきた。
「ああ、助かった」
あんたの駄目弟と違って、エストは優秀な地魔法使いの武闘家だ。
白い上着と水色のズボンを着た、薄緑髪のシトラスの方も優秀な風魔法使いだ。
俺を殺したいなら、俺を守る二人の仲間を倒すしかない。
だが、それは俺がいるから絶対に不可能だ。
「殺すほどの恨みはないが、俺の邪魔をするなら排除する。力尽くでな」
俺とエストから距離を取った女に言うと、左腰から剣を抜いた。
【バーミリオン・レックス:長剣ランクA】——緋色の刀身は波打ち、半楕円の鍔で持ち手をガードする。
あんたの剣には劣ると思うが、Bランクダンジョンで手に入る最強の剣だ。
「エス、ラス、油断すると死ぬからな」
「普通は死ぬような相手とは戦わない。それが賢い選択だ」
「俺も勝てない相手と戦うつもりはない。一対三なら勝てるだろ?」
「そうだな……無理そうなら、お前を捨てて、他のパーティに加えてもらうとしよう」
「酷い仲間だな」
エストは相変わらず口が悪い。シトラスの方もやる気なさそうにやって来る。
まあ、六本の長い透明な鎖を引き摺っているから、やる気はあるようだ。
二人とも戦う準備が出来ているなら問題ない。始めさせてもらう。
『アンティグラビティ』と俺達全員と女の身体と武器に魔法を発動させた。
「長くは魔力が持たない。さっさと倒せよ」
「お前がな」
頼りにならない仲間だ。俺の魔法は『重力』を操る単純なものだ。
対象を軽くしたり、重くしたり出来る。巨大な岩石の塊も頑丈で重い鎖も羽のように軽く出来る。
当然、女の身体を動けないぐらいに重くする事も出来るし、どんな攻撃も軽くする事が出来る。
俺の前では、パワーもスピードも無意味になる……
「『聖霊解放』」
「やはり無駄か」
だが、何事も例外というものが存在する。
女の黒髪が地面に落ちると、下から青白く輝く髪が現れた。
三年前には見た事がない技だが、俺の重力の影響を無効化するようだ。
エストの拳を躱して、シトラスが風で操る六本の鎖を双剣で弾くと、一直線に俺に向かってきた。
「狙いは俺だけかよ」
高速の剣撃をとにかく距離を取って躱しまくる。
余程の馬鹿じゃなければ、コイツに接近戦を挑まない。
剣を剣で受け止めている僅かな間に、もう一本の剣で身体を三回は切られる。
今のコイツに一番効果的なのは、攻撃よりも会話だ。
感情を激しく揺さぶる方が大きな隙を作ってくれる。
俺の期待以上に動揺して、激情してくれないと、この化け物は倒せない。
「残念だったな。あの子供が使えなくて」
「……」
「自分よりも弱い存在を与えれば、弟が成長できると思ったんだろ? 冒険者としての能力を高める方法は二つだ。自分の危機と仲間の危機だ」
「……」
ヘラヘラと笑いながら、女の攻撃を躱して話し続ける。
無反応を決め込んでいるようだが、それが長くは続かないのは知っている。
お前はそういう女だった。
「でも、二人仲良く冒険者をするとは考えてなかった。でも、良かったじゃないか。二人仲良く死んだんだから」
「ああーッ‼︎ グチャグチャ、うるさい! あんたは絶対に殺す‼︎」
「それは嬉しいね。でも、いいのか? まだ、助かるんじゃないのか。急げば間に合うかもしれない」
「うぐっ……!」
俺を今すぐに殺したい気持ちと、弟と子供を今すぐに救いたい気持ち……確かにどちらも重要だ。
極限状態の中で、究極の二択を迫られているようなものだろうが、答えは実に簡単だ。
俺を殺すよりも、救える命の方が重要に決まっている。
だから、簡単に答えが出せるように手助けしてやる。
「エスト! 死に損ない二人を殺してやれ!」
「分かった。そうしよう」
「くっ……させない!」
倒れている子供の方向を指差して、エストに指示してやった。
一人で対処するには限界がある。一対三、数の有利は最大限利用させてもらう。
「おっと、お前の相手は俺なんだろ?」
「邪魔するな!」
「おお、怖い怖い……」
エストを追いかけようとした女の前を塞いだ。そう簡単に行かせるわけがない。
それに前ばかり見ていると命取りになる。やっと六本の鎖が女の首と両足を捉えてくれた。
「うぐっ、くぅっ!」
顔や足を覆い隠すように、首と足の二重の鎖がグルグルと締め上げ巻きついていく。
透明な鎖の向こう側に、歪んだ女の顔が見える。悪いがのんびり見学するつもりはない。
腰の革袋から小石大の赤い魔石を数十発掴み出した。
「三人仲良くな」
「——ッ‼︎」
軽くした魔石を宙に浮かせると、二十発以上の弾丸を剣で打ちつけ発射した。
壊れるまで決して止まらない弾丸が、女に向かって飛んでいった。
漆黒の武闘服を着た、薄紫髪の男エストに聞かれて、少し微笑んで答えた。
「簡単じゃない。少し難しかった」
「そうか、それは大変だったな」
真っ直ぐに発射された赤い魔石の弾丸は、目標の二人だけを貫いて地面に沈めた。
魔石は鉄のように硬く、三人まとめて貫くのは簡単だが、威力を弱めて撃つのは難しい。
「あれはどういうつもりですか?」
「ああ、一番嫌な役を引き受けてやっただけだが、それがどうかしたか? どうせ三人とも犯罪者だ。生け捕りにしても死刑になる。町に連れていく手間も省けて助かっただろ?」
俺の攻撃が見えていたのか、金髪の弓使いが不機嫌そうな顔でやって来た。
自分よりも遠距離から攻撃できる人間がいるのが気に食わないようだ。
それとも、知り合いが殺されたのが気に食わないのか……
まあ、その知り合いはまだ死んでないようだ。
心臓を貫いたのに立ち上がっている。生きたいと思う執念には感心するよ。
「犯罪者ではなく、容疑者です。あなたがやった事はただの殺人です」
「本当にそう思っているなら、大勢で攻撃しないだろ? それに人質のガキを捕まえたのは、お前の仲間だ。そして、俺はお前の仲間が危ないから助けた。それだけだ」
「それなら、足を狙えばいいだけです。他にも安全に攻撃できる場面はありました」
素直に感謝の言葉を言えばいいのに、俺を悪者にしたいようだ。
自分達には一切責任がないと主張している。
「簡単に動く手足を狙えると思うのか? 男を貫通した弾が、不幸にも子供の胸に刺さって、俺も胸が痛いんだ。あぁ、本当に胸が痛いのは子供の方か。可哀想に……」
「まさか、不幸な事故だと言いたいんですか?」
不幸な子供の死に、胸に手を当てて悲しんだ。
金髪の顔は信じてないようだが、俺は昔から感情が顔に現れにくいだけだ。
「それ以外に見えるのか? お前にとっての都合が良い真実が出来たら聞かせてくれ。お客様だ」
金髪の弓使いを揶揄うのは楽しいが、どうやら時間切れだ。
指を指して教えてやった。懐かしい女が十二人の冒険者を振り切ってやって来た。
一対十二で戦っている間も殺気一つ出してなかったのに、俺には随分と気前がいい。
肌が切れそうな程の殺気が飛んでくる。
「武器を捨てて動かないでください。あなたには暴行の——」
「黙ってて。死にたくないでしょ?」
「……」
金髪は弓を構えて、女の前に立ち塞がった。
実に勇敢だが、女にひと睨みされて剣を向けられただけで、塞いだ道を開けようとした。
「何逃げてんだよ。また俺の手だけ汚させるつもりか?」
「……」
馬鹿みたいに危険察知能力は高いようだが、そういう行動は駄目だと忠告した。
だが、俺を無視して、赤髪の剣士の所に移動している。
「腰抜けが——」
ガァン‼︎
「ッ‼︎」
「ちっ……!」
「余所見するな」
僅かに視線を横に動かした瞬間、無言で黒髪の女が双剣を顔面に振り抜いた。
その双剣をエストが両腕を岩石に固めてカードすると、すぐに俺を注意してきた。
「ああ、助かった」
あんたの駄目弟と違って、エストは優秀な地魔法使いの武闘家だ。
白い上着と水色のズボンを着た、薄緑髪のシトラスの方も優秀な風魔法使いだ。
俺を殺したいなら、俺を守る二人の仲間を倒すしかない。
だが、それは俺がいるから絶対に不可能だ。
「殺すほどの恨みはないが、俺の邪魔をするなら排除する。力尽くでな」
俺とエストから距離を取った女に言うと、左腰から剣を抜いた。
【バーミリオン・レックス:長剣ランクA】——緋色の刀身は波打ち、半楕円の鍔で持ち手をガードする。
あんたの剣には劣ると思うが、Bランクダンジョンで手に入る最強の剣だ。
「エス、ラス、油断すると死ぬからな」
「普通は死ぬような相手とは戦わない。それが賢い選択だ」
「俺も勝てない相手と戦うつもりはない。一対三なら勝てるだろ?」
「そうだな……無理そうなら、お前を捨てて、他のパーティに加えてもらうとしよう」
「酷い仲間だな」
エストは相変わらず口が悪い。シトラスの方もやる気なさそうにやって来る。
まあ、六本の長い透明な鎖を引き摺っているから、やる気はあるようだ。
二人とも戦う準備が出来ているなら問題ない。始めさせてもらう。
『アンティグラビティ』と俺達全員と女の身体と武器に魔法を発動させた。
「長くは魔力が持たない。さっさと倒せよ」
「お前がな」
頼りにならない仲間だ。俺の魔法は『重力』を操る単純なものだ。
対象を軽くしたり、重くしたり出来る。巨大な岩石の塊も頑丈で重い鎖も羽のように軽く出来る。
当然、女の身体を動けないぐらいに重くする事も出来るし、どんな攻撃も軽くする事が出来る。
俺の前では、パワーもスピードも無意味になる……
「『聖霊解放』」
「やはり無駄か」
だが、何事も例外というものが存在する。
女の黒髪が地面に落ちると、下から青白く輝く髪が現れた。
三年前には見た事がない技だが、俺の重力の影響を無効化するようだ。
エストの拳を躱して、シトラスが風で操る六本の鎖を双剣で弾くと、一直線に俺に向かってきた。
「狙いは俺だけかよ」
高速の剣撃をとにかく距離を取って躱しまくる。
余程の馬鹿じゃなければ、コイツに接近戦を挑まない。
剣を剣で受け止めている僅かな間に、もう一本の剣で身体を三回は切られる。
今のコイツに一番効果的なのは、攻撃よりも会話だ。
感情を激しく揺さぶる方が大きな隙を作ってくれる。
俺の期待以上に動揺して、激情してくれないと、この化け物は倒せない。
「残念だったな。あの子供が使えなくて」
「……」
「自分よりも弱い存在を与えれば、弟が成長できると思ったんだろ? 冒険者としての能力を高める方法は二つだ。自分の危機と仲間の危機だ」
「……」
ヘラヘラと笑いながら、女の攻撃を躱して話し続ける。
無反応を決め込んでいるようだが、それが長くは続かないのは知っている。
お前はそういう女だった。
「でも、二人仲良く冒険者をするとは考えてなかった。でも、良かったじゃないか。二人仲良く死んだんだから」
「ああーッ‼︎ グチャグチャ、うるさい! あんたは絶対に殺す‼︎」
「それは嬉しいね。でも、いいのか? まだ、助かるんじゃないのか。急げば間に合うかもしれない」
「うぐっ……!」
俺を今すぐに殺したい気持ちと、弟と子供を今すぐに救いたい気持ち……確かにどちらも重要だ。
極限状態の中で、究極の二択を迫られているようなものだろうが、答えは実に簡単だ。
俺を殺すよりも、救える命の方が重要に決まっている。
だから、簡単に答えが出せるように手助けしてやる。
「エスト! 死に損ない二人を殺してやれ!」
「分かった。そうしよう」
「くっ……させない!」
倒れている子供の方向を指差して、エストに指示してやった。
一人で対処するには限界がある。一対三、数の有利は最大限利用させてもらう。
「おっと、お前の相手は俺なんだろ?」
「邪魔するな!」
「おお、怖い怖い……」
エストを追いかけようとした女の前を塞いだ。そう簡単に行かせるわけがない。
それに前ばかり見ていると命取りになる。やっと六本の鎖が女の首と両足を捉えてくれた。
「うぐっ、くぅっ!」
顔や足を覆い隠すように、首と足の二重の鎖がグルグルと締め上げ巻きついていく。
透明な鎖の向こう側に、歪んだ女の顔が見える。悪いがのんびり見学するつもりはない。
腰の革袋から小石大の赤い魔石を数十発掴み出した。
「三人仲良くな」
「——ッ‼︎」
軽くした魔石を宙に浮かせると、二十発以上の弾丸を剣で打ちつけ発射した。
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