上 下
97 / 172
第三章:魔人編

第97話 悪の黒幕

しおりを挟む
「望み通りに殺し合いをしてやるよ‼︎」

 いつもよりも重い大剣を振り回すと、逃げるオヤジ達の背中を追いかけた。
 お前達は見逃してやるけど、向かってくる四人は一人も見逃さない。
 ボコボコのバラバラのボキボキにしてやる。

「死ねえ!」

 ドガガガッッ‼︎
 両足の裏に魔力を圧縮して集めながら走り、地面を右足で踏みつけた瞬間に解放した。
 そして、扇状に広がった黒い岩杭を左足を踏みつけると同時に、四人に向かって全弾発射した。

「ただの見掛け倒しだな」
「確かにその通りだ。上に避ければいいが、それが狙いだろう。直進するぞ」
「ああ、楽勝だ!」

 数千発の黒岩の矢に向かって、アレンとロビンは回避を選んで、ヴァンとガイの二人は全力で突っ込んできた。
 愚かな選択だと言いたいが、二人とも高速で剣を振り回し、槍を突き出し、黒岩の矢を破壊していく。
 まあ、そのぐらいはやってもらわないと困る。

「次はこれだ」

 ドガガガッッ‼︎
 二人が黒岩の矢を突破したタイミングで、周囲の地面から黒岩の壁を大量に突き出した。
 攻撃用ではなく、ロビンの矢にいちいち邪魔されるのがムカつくだけだ。

「おい、お前。お前、元隊長だろ? 身内の恥は消させてもらう!」
「俺の顔を覚えていたとは嬉しいね!」

 遠くからでも、目が良いロビンには俺の顔が見えていたようだ。
 一直線に向かってくる槍使いに対して、大剣を薙ぎ払った。
 その攻撃をガイは俺に向かって飛び上がって回避した——

「ハッ! 遅すぎ!」
「お前がな」

 そして、そのままゴーレムの胸に槍を突き刺そうとしている。
 だが、俺の左腕の丸盾を忘れている。宙を飛んでくる虫に向かって、丸盾をぶちかました。

 ガン‼︎

「ぐぅ……!」
 
 殴り飛ばされた槍使いが、黒岩の壁に飛んでいく。
 槍の赤い柄で丸盾をガードしていたが、ダメージはあるだろう。
 黒壁に派手に激突するのを見届けたいが、もう一人いるのを忘れてない。

「それが本当の実力か?」
「知らねよ」

 両刃の剣を抜いた赤髪の黒服男に聞かれたが、そんなのは知らない。
 俺が知っているのは、お前達よりも強くなったという事だけだ。
 左足の膝から黒い弾丸を容赦なく発射した。

 ギィン!

「遅い攻撃だな」
「一発ならな」

 頭を狙った一発は簡単に剣で弾かれた。まあいい。
 飛び道具はロビンの矢の速さを見慣れているなら、遅く感じるのだろう。
 だが、ガイは殴り飛ばせた。つまりは弾けない攻撃は受けるしかないという事だ。

「いっ、痛ぅ! ゴーレムの15~20倍の力がある。止めきれなかった」

 そんな殴り飛ばされたガイが平気な感じで戻ってきた。
 黒壁を一枚突き破っているのに元気な奴だ。
 
「40階にいるんだ。遊んでいたら死ぬぞ」
「ハァッ! 遊ぶに決まっている。俺一人でやるから邪魔するなよ」
「邪魔するつもりはないが、俺より早く倒せないなら、邪魔した事になるだろうな」
「ほぉー、じゃあ早い者勝ちか。いいぜ! この不細工な棺桶から元隊長を引き摺り出してやるよ!」

 二対一……いや、三対一か。
 ロビンの弓なら直線じゃなくて、曲線で上から攻撃すればいいだけだ。
 俺を殺さないように、優しくゴーレムの中から引き摺り出して、話でも聞きたいのだろう。
 生け捕りとは余裕があるが、それだけ自信があるという事か。

 そういえば、あの腰抜けの銀髪野朗はどこに消えやがった。
 黒壁の裏に隠れているじゃないのか?

「気をつけろよ。身体のどこからでも弾丸を発射して、棘を生やすそうだ」
「そんなのアレンから聞いてるよ。だけどなぁ……近づかないと倒せないんだぜ!」

 ヴァンの忠告を無視して、ガイがダァンと一気に踏み出して攻撃してきた。
 右脇を狙った槍の一突きだが、躱す必要はない。
 左側にいるヴァンの方が左手の盾を狙って、剣を地面を滑らせている。

 コイツらの攻撃方法は、全部切り裂く、全部貫くという単純明快なものだ。
 ゴーレムの身体を破壊したいならさせてやる。

 服の下の身体に黒岩を纏って、左腰の鞘から剣を抜くと、ガイに向かって構えた。
 俺は同じ失敗は二度はしない。ゴーレムが持っているのは、ただの黒岩の大剣だ。

「ハァッ‼︎」
「ぐぅ……!」

 ギィン‼︎ 槍が突き刺さると同時に、槍を持つガイの右腕を剣で切りつけた。
 だが、硬い手応えと金属音が響いた。服の下に手甲でも着けている。

「チッ」

 腕を切断できれば最高だったが、このままでも構わない。
 突き刺さった槍を抜けないように岩で押さえ込むと、ゴーレムから飛び出した。
 
「ハァッ、フゥッ!」
「——ッ‼︎」

 両手で握った剣を素早く振り回して、槍を抜けずに逃げたガイを黒壁に追い詰めていく。
 振り払い、斬り上げ、蹴り上げる。剣術と体術で槍を手元に戻す時間は与えない。

「やるな、元隊長! だけど、剣ならヴァンの方が上だ。この程度じゃ俺は倒せないぜ!」
「くっ……!」

 俺の攻撃を笑みを浮かべて躱し続けた、ガイの右手に赤い柄の槍が現れた。
 振り上げようとした剣が、ガンと矛先で受け止められた。

「交代だ。しっかりと防いでくれよ!」
「ぐっ!」

 形勢が逆転した。ガイの猛攻が始まった。
 デタラメに槍を両手で振り回して、槍先や石突き、柄で俺の手足を中心に強打していく。
 地味でイラつく攻撃だが、俺の生け捕りが目標なんだろう。致命傷は避けている。

 そして、ヴァンの方はブラックゴーレムの手足を剣の一振りで切断している。
 リエラの剣並みに切れ味がある。どこにも逃すつもりはないようだ。

「ぐっ、うぐっ!」

 だが、残念だったな。
 俺は地面に倒れて、泣きながら降参するつもりはない。
 どうせ泣くなら、命乞いの方を選ばさせてもらう。

「フフッ。この身体の持ち主を殺すつもりか?」
「はぁ? 何言ってんだ?」

 大きく後方に回避すると、両手を広げて攻撃の意思がないと見せた。
 ガイは警戒しているが、話を聞くつもりはあるようだ。
 まあ、最初から話をするのが目的なら、攻撃はしないだろう。

「分からぬか? 我が操っているこの身体の持ち主の事だ。知り合いなんじゃないのか?」
「操っているだと? どういう意味だ?」
「クククッ。この男が我の操り人形だという事だ。いや、生きているから人形ではないな。操り人間か?」

 声色を変えて、悪の黒幕のような感じで話していく。
 俺はこの黒幕に身体を乗っ取られた、哀れな冒険者という設定だ。
 これで少しは攻撃しにくくなっただろう。

「へぇー。どうする、ヴァン?」
「そういう事情だったか。道理で強くなったわけだ。だが、元に戻す方法がないなら殺すしかない。さっきもシトラスの風の防壁が間に合わなければ、ホールド達八人が死んでいた」
「なるほどな。だったら、嫌な役は俺が引き受けてやるよ! 悪いな、元隊長。死んでもらうぜ」

 ヴァンとガイが話し合った結果、逆に殺しやすくなってしまったようだ。
 生け捕りから、完全に殺す方向に変更になった。

「気の早い連中だな。元に戻す方法ならあるぞ。我がコイツの身体から抜ければいいだけだ。ほら、こうやってな……」

 だが、そう簡単に殺されるつもりはない。
 力が抜けたようにガクンと意識を失うと、ガイとヴァンの二人に見せた。

「うぐっ、痛い、痛い、ヴァン、ガイ、助けてくれ……コイツが俺を無理矢理、うがぁー!」
「おい、どうした⁉︎」

 左手を伸ばして、黒幕から普通の声で助けを求めたが、すぐに頭を押さえて苦しみ出した。

「……ふぅー、誰がそこまで喋っていいと言った? この人間風情のゴミ屑の分際で」
「おい、今の声は元隊長か? 何しやがった?」
「いつも通りに躾のなってない家畜に罰を与えただけだ。お前達にも絶望と苦痛を与えてやろうか?」
 
 ガイの方は良い反応をしてくれるのに、ヴァンの方は無反応を決め込んでいる。
 そもそも二対一だから、勝てないに決まっている。
 一対一ならブラックゴーレムに乗っていれば倒せていた。

 だが、状況がヤバイと分かって、少し冷静になってきた。
 倒して逃げるから、倒さず逃げるに切り替えないといけない。
 くだらない演技で時間稼ぎは出来ている。
 あとは周囲の黒壁を中心に向けて飛ば……

「きゃああああ‼︎」
「——ッ‼︎」

 突然の悲鳴にビクッと反応してしまった。明らかに女の悲鳴だった。

「副隊長ぉー! 言われた通りに子供を捕まえてきましたよぉー! おい、さっさと歩け!」
「痛いです! 逃げないから離してください!」
「嘘吐くな! さっき逃げただろう!」

 俺の黒壁の所為で見えないが、声だけで状況は分かった。
 姿を消していた卑怯者のアレンが、メルを捕獲したようだ。
 子供を人質にするなんて、人間のする事じゃない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~

有雲相三
ファンタジー
前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。 主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん
ファンタジー
転生者グレイボーンは、前世でシュールな死に方をしてしまったがあまりに神に気に入られ、【重弩使い】のギフトを与えられた。 しかしその神は実のところ、人の運命を弄ぶ邪神だった。 確かに重弩使いとして破格の才能を持って生まれたが、彼は『10cm先までしかまともに見えない』という、台無しのハンデを抱えていた。 それから時が流れ、彼が15歳を迎えると、父が死病を患い、男と蒸発した母が帰ってきた。 異父兄妹のリチェルと共に。 彼はリチェルを嫌うが、結局は母の代わりに面倒を見ることになった。 ところがしばらくしたある日、リチェルが失踪してしまう。 妹に愛情を懐き始めていたグレイボーンは深い衝撃を受けた。 だが皮肉にもその衝撃がきっかけとなり、彼は前世の記憶を取り戻すことになる。 決意したグレイボーンは、父から規格外の重弩《アーバレスト》を受け継いだ。 彼はそれを抱えて、リチェルが入り込んだという魔物の領域に踏み込む。 リチェルを救い、これからは良い兄となるために。 「たぶん人じゃないヨシッッ!!」 当たれば一撃必殺。 ただし、彼の目には、それが魔物か人かはわからない。 勘で必殺の弩を放つ超危険人物にして、空気の読めないシスコン兄の誕生だった。 毎日2~3話投稿。なろうとカクヨムでも公開しています。

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

なぜかクセすご美少女たちに振り回されている俺は本の物語に出てくる武器を具現化する能力で無双する!!

浅羽ふゆ
ファンタジー
【男性向けHOTランキング最高9位記録】なんやかんやあって美少女たちに振り回される毎日を送るケイタ。 じつはけっこう強かった。というよりかなり強かった。 しかし、なぜかなかなかその実力を発揮しきれない。 その理由は……美少女たちのクセがすごすぎたからである! それでもケイタはめげません。なぜならーーーー。 この生活、けっこう悪くないんですよね!!

【R18】異世界魔剣士のハーレム冒険譚~病弱青年は転生し、極上の冒険と性活を目指す~

泰雅
ファンタジー
病弱ひ弱な青年「青峰レオ」は、その悲惨な人生を女神に同情され、異世界に転生することに。 女神曰く、異世界で人生をしっかり楽しめということらしいが、何か裏がある予感も。 そんなことはお構いなしに才覚溢れる冒険者となり、女の子とお近づきになりまくる状況に。 冒険もエロも楽しみたい人向け、大人の異世界転生冒険活劇始まります。 ・【♡(お相手の名前)】はとりあえずエロイことしています。悪しからず。 ・【☆】は挿絵があります。AI生成なので細部などの再現は甘いですが、キャラクターのイメージをお楽しみください。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・思想・名称などとは一切関係ありません。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません ※この物語のえちちなシーンがある登場人物は全員18歳以上の設定です。

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...