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第二章:ゾンビ編

第83話 薬品製造

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「壁を壊すしかないな」

 おそらく宝箱は壁の中にある。
 反応が横に長いのはいつもと同じだが、縦に長いのは初めてだ。
 安全の為に、破壊する壁の真下に誰もいない事を確認する。
 いつもの四分割方式で壁を破壊しまくれば、すぐに宝箱が見つかるだろう。

 ドォン、ドォン——

 両手から丸い弾丸を全力で撃ちまくって、壁を左から右に破壊していく。
 ゴーレムの身体が落ちそうになったら、落ちないように上に軽く発射して微調整する。
 やっぱり地魔法がLV7になって、弾丸の威力が上がっているから調子が良い。
 簡単に直径一メートルを超える亀裂が壁に走って、壁がボロボロと崩れ落ちていく。

「おい、あれ。ブラウンゴーレムじゃないか? レッドゴーレムよりも二回りも大きいぞ」
「そのゴーレムなら、ヴァン達が倒したんじゃなかったのか?」
「アイツら調子に乗っているから、見逃したんだろう。どうする? ブッ殺すか?」

 冒険者達が俺を指差して騒いでいるが、それはゴーレム違いだ。
 三十階のゴーレムは悪いゴーレムで、ここのいるのは良いゴーレムだ。
 こうやって誰にも迷惑をかけずに、地道に壁を破壊しているだけだ。

 確かに以前の俺なら迷わずに、冒険者達の鞄を奪い取って、神金剛石がないか探していた。
 だけど、倒された事で善良なゴーレムLV3に生まれ変わった。もう悪さはしない。
 自分も他人も安全第一で地道に宝箱を探し続けている。それでいいじゃないか。

「ふぅー、襲ってくるのはモンスターだけか。ひと壁一時間で終わらせれば上出来だな」

 少し警戒していたが、冒険者達は「うるさい」という言葉だけを残して歩き出した。
 どうやら、お互い戦闘する意思はないようだ。作業に集中するとしよう。

 二十六分後……

「あっ、あった!」

 破壊した壁の中から赤い宝箱が出てきた。
 ゴーレムの太い指先で宝箱の蓋を押し開けると、中から金色に輝く八角形の結晶を回収した。

「まずは一個目だな」

 正直言って、青い宝物も欲しいが今は先に進む方が重要だ。
 次も赤い宝箱が来てくれるように祈ろう。

「……それにしても邪魔だな。さっさと通れよ。埋めるぞ」
「あのゴーレム、宝箱の場所が分かるんじゃないのか?」
「そういえば、さっき壁を調べていた女連れの冒険者がいなかったか?」

 壊す壁の真下の道を冒険者達が通っていく。
 段状になっているから、通ったと思ったら、別のパーティがやってくる。
 そこを通られると、壊した瓦礫が落下してぶつかるから怪我させてしまう。
 それでも良いならやるけど、そうなったら、また血みどろの戦争が始まってしまう。

「チッ、意外と多いな……」

 イライラしながら人数を数えてみたら、三十二人もいた。
 流石の俺もCランク上位冒険者三十人と戦うつもりはない。

 だけど、ピラミッドみたいに壁に手を触れて、『調べる』を使うつもりもない。
 浮いた状態のゴーレムの身体で、器用に壁を調べていくよりも、明らかに弾丸を撃った方が早い。

 仕方ないので瓦礫が当たらないように、慎重に壁を少しずつ壊していくしかない。
 壁の通路は壊さないように注意しているから、「通れなくなった!」と苦情は言われないだろう。

 ドォン、ドォン……二枚目の壁の破壊作業を開始した。

「ギギギィ、ギギギィ!」

 すぐに両手に黒光りする鎌を持った、黄色と黒色の縞模様をした大型のカマキリが飛んできた。

「それにしても、何で俺だけ集中攻撃なんだよ」

 三十五階の『キラーマンティス』は、飛行能力があり、口から溶解液を吐き出す凶悪モンスターだ。
 一人だけ空中にいるデカイゴーレムを、縄張りに侵入してきた敵だと認識している。
 でも、たまには壁を這い回るゴミ虫どもを襲っても悪くないと思う。明らかに暇そうだ。

「面倒くさいが、また空中戦の練習だな」

 右手から片刃直剣の黒い剣を出すと、握って巨大化させていく。
 弾丸で倒そうとすると、流れ弾で冒険者を怪我させてしまう。
 モンスターも冒険者も面倒だが、今は子供連れの善良なゴーレムだ。
 戻ってきたメル達に、負傷者の山を見せるわけにはいかない。

 ♢

 三時間後……

「もうやる事がないな」

 予想以上に宝箱の回収が早く終わってしまった。赤い宝箱三個と青い宝箱一個を見つけた。
 襲ってくるキラーマンティスは、大剣でくの字にへし折って地獄に叩き落とした。
 三十六階の階段を見つめる以外、もうやる事がない。

「薬品製造ねぇ……どうやって使うんだ?」

 青い宝箱から『薬品製造LV1』の白い革手袋を手に入れた。
 Bランクのオヤジ集団が、この関連のアビリティを商売に使っているのは知っている。
 俺が知っているのは、『武器製造』『防具製造』『装飾品製造』『家具製造』『道具製造』がある。
 何でも魔石を使って、モンスターの素材やダンジョンの素材を加工できるそうだ。

 そうやって加工した素材を組み合わせて、商品を作るそうだが、アビリティのLVが足りなかったり、素材の組み合わせが悪いと、バラバラに壊れて消えるそうだ。
 何でそんなギャンブルみたいな、勿体ない事をするのか分からないが、冒険者はイカれた奴が多い。
 俺なら迷わずに素材は換金して、堅実に金を手に入れる。

「とりあえず、やってみるか」

 文句はこの辺で終わらせて、赤い革手袋を脱いで、白い革手袋をはめた。
 俺は冒険者でもあるが、一流陶芸家でもある。芸術の分野でも優れた才能を発揮できる。
 その辺に落ちている白い魔石とキラーマンティスの鎌だけでも、一流の薬品が作れる。

「薬品か……薬品ねぇ……」

 駄目だ。どんなに考えても溶解液しか思い付かない。
 武器製造なら、包丁とか短剣を作れそうなのに、薬品のイメージが洗剤ぐらいしかない。

「仕方ない。魔石一個に鎌一本でやってみるか」

 こういうのは料理と一緒だ。とりあえず作れば何かが出来る。
 白い魔石を左手に持って、右手に持った鎌に押しつけてみた。
 鎌に魔石が吸収されると、鎌が溶けたように形を変えて、黒い粉末に変わってしまった。

「……とりあえず成功だな」

 素材が消えてないなら成功だ。手の平の上の黒い粉末を調べてみたら、『研磨剤』と表示された。
 何に使うのか分からないが、地魔法で岩箱を作って回収しておこう。
 二百グラムはあるから、二百ギルぐらいで売れるだろう。
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