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第二章:ゾンビ編

第79話 間話:メル

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「やっぱり年齢差があると、話が合わないみたいね」
「……」

 多分、勧誘が失敗した原因はそこじゃないと思う。
 お姉ちゃんはさっきの失敗をもう忘れて、次のパーティの所に向かっている。
 何でも昔隊長のパーティにいた人達で、年齢的にも近いそうだ。
 知り合いなら話ぐらいは聞いてくれると自信満々だ。

 でも、隊長が愚痴でそのパーティの事を「絶対に許さない!」と言っていた。
 知り合いは知り合いでも、仲が悪い方の知り合いだと思う。
 きっと隊長の名前が出た瞬間に、さっきみたいに追い出される。

「お姉ちゃん、隊長の名前は出さない方がいいかも。凄く仲が悪かったみたいだから」
「大丈夫大丈夫! 男と男は拳で語り合うものよ。喧嘩する程、仲が良い証拠なんだから!」
「さっきのおじさんは殴られたら、凄く怒っていたよ?」
「そこが年齢差なのよ。子供の喧嘩に大人が入ったら駄目でしょ? それと一緒よ」
「よく分かんないです」

 私とお姉ちゃんの間にも年齢差があるみたいだ。
 せっかく教えてあげたのに、お姉ちゃんは拳を素早く振り回して、殴り合いの練習をしている。
 どう考えても仲が悪い人とは、仲が悪いとしか思えない。

 だけど、今度は殴り飛ばしても良いかもしれない。
 ボコボコにすれば、隊長が大喜びしそうだ。

 ドン、ドン、ドン——
 
「すみませーん、すみませーん、すみませーん!」
「お、お姉ちゃん⁉︎」

 さっきので分かったけど、絶対に会う約束はしていない。
 二階建ての大きめの建物に到着すると、お姉ちゃんが扉を馬鹿みたいに叩き出した。
 言葉で謝るつもりがあるなら、今すぐに扉を叩くのをやめて、態度で示した方がいい。
 借金の取立てに来た悪い人じゃないのに、通りすがりの人達がジッと見てくる。

 ドン、ドン、ドン——

「はいはいはーい! 返事してるだろうが! やめろよ!」

 やっぱりうるさいから、建物の中から誰かが怒ってやって来る。
 扉が開いた瞬間に殴り合いが始まりそうだから、ちょっと離れていよう。

「はいはい、何ですか!」

 ガァチャン! 扉が勢いよく開くと、ブチ切れている銀髪のミイラ男が現れた。
 両手足だけをグルグル白い包帯で巻いている。他は包帯が足りなかったのだろうか。

「すみません、強いゴーレムを倒した冒険者様のお家ですか?」
「はい、そうですけど……それがどうかしましたか?」

 ミイラ男はお姉ちゃんの身体を上から下まで見ると、ちょっとだけ冷静になった。
 可愛い服は意外と効果があるみたいだ。私の方は上だけ見て、すぐに終わったけど。
 
「ありがとうございます! あなたは兄の命の恩人です!」
「えっ? 命の恩人?」

 そんな失礼なミイラ男の手を、お姉ちゃんは嬉しいそうに両手で握ると、感謝の言葉を言った、
 さっきまで借金取りだったのに、急に態度も口調も可愛い女の子になっている。

 でも、お姉ちゃんにお兄ちゃんはいない。
 宿屋に隊長と親娘という設定で泊まった時と同じだ。
 私は年の離れた妹役を演じればいいみたいだ。いつもと一緒だから楽な役で助かった。

「もしかして、その大怪我は? あなた様がゴーレムを倒した冒険者様ですか?」
「えっ? あぁー、確かにそんな奴を倒した気がするな。弱過ぎたから、よく覚えてないけど」
「凄い! 是非是非、英雄様のパーティに私達姉妹を入れてください! 荷物持ちでも何でもしますから!」
「いやいや、ちょっと待ってよ! 今、隊長と副隊長がいないから、そういう事は決められない。それに何でもって、本当に何でもしてくれるのか?」

 押しに弱そうなミイラ男を、お姉ちゃんはグイグイ積極的に身体で攻めている。
 褒めて煽てて強引にパーティメンバーになるみたいだけど、何でもはしたくない。
 私もちょっと待ってほしいと思っていると……

「アレン、さっきからうるさいぞ」

 家の中から白い半袖シャツと黒い長ズボンを着た、短い緑髪の大男がやって来た。
 筋肉が凄いから、小さな白シャツが悲鳴を上げている。
 もう少しサイズが上の服を選んだ方がいい。

「いや、俺じゃ——」
「お前達もさっさと帰れ。荷物持ちなら間に合っている」
「じゃあ、戦闘員でいいです。このミイラを倒したら雇ってください」
「えっー! 何で、そう——」
「やれるものやってみろ。出来るものならな」
「じゃあ、やってやります!」

 ミイラ男が何だか可哀想になってきた。
 話そうとしているのに、筋肉とお姉ちゃんが自分勝手に話を進めている。
 多分、筋肉が言っている荷物持ちは、このミイラ男だと思う。
 私でも分かるぐらいに下っ端臭がプンプンする。

「いい加減にしてくれよ! あんたもあんただ。何で命の恩人を倒そうとするんだよ。おかしいだろ?」
「それだけ本気だと言う事です。雇ってくれるまで、何日でも扉を叩き続けます」

 その下っ端ミイラ男が遂にブチ切れたけど、お姉ちゃんは全然止まらない。
 凄い嫌がらせを言った。本当にやりそうな気配しか伝わって来ない。

「絶対にやめろ! 何日叩いても答えは同じだ。いいか、俺達は大規模パーティを組んで、五十階に行く準備で忙しいんだよ! Bランク冒険者じゃないと参加できないんだよ。強くなってから出直して来い」
「それは良かったです。私達も五十階に行きたいので、是非お供させてください。出発は何日ですか?」
「二日後だ」
「ちょっと! 何、答えるん——」
「予定があるので三日後にしてください」

 お姉ちゃんの質問にミイラ男じゃなくて、筋肉が素早く答えた。
 だけど、私達の出発予定と少しズレていたから、お姉ちゃんが日付変更をお願いした。

「それは無理だ。俺達だけの予定じゃない。行きたいのならお前の予定を変えろ」
「こっちも無理です。女の準備は男よりも時間がかかるんです」
「あぁー、もう駄目だ‼︎ もう一言も喋るな! 叩きたいなら好きなだけ叩いてろ! 俺は知らねぇからな!」
「あっ、ちょっと!」

 バァタン‼︎ もう我慢の限界だったみたいだ。ミイラ男が扉を思いっきり閉めた。
 筋肉とお姉ちゃんの板挟み状態で、よく我慢した方だと私は思う。

「はぁ……若いと短気過ぎて駄目ね。全然話を聞いてくれない」
「よく聞いてくれた方だと思うよ」

 玄関から呆れた表情でお姉ちゃんが戻ってきた。扉を叩くつもりはないようだ。
 扉を普通に叩いて呼んでいたら、最低でも家の中でお茶を飲みながら、話せていたと思う。
 ハッキリ言って、お姉ちゃんに勧誘は向いてない。

「まあ、極秘情報を手に入れたから作戦成功ね。これで勧誘活動は終わりよ」
「まだ二つパーティが残っているのにいいんですか?」
「行くだけ無駄よ。私達の出発日を二日後に変更して、後ろを付いて行けばいいんだから」

 確かに勧誘が無駄なのは否定しない。でも、私達の待ち合わせは三日後だ。
 連絡が取れない相手と会えるのだろうか。
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