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第二章:ゾンビ編

第69話 違法ゴーレム

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「悪いな、腕壊しちゃった。まあ、普通のゴーレムよりは動きは良かったぜ」

 悪びれる様子もなく、アレンは両手を合わせて笑顔で謝ってきた。
 もう勝ったつもりでいるらしい。

「ククッ」

 どうやら、しばらく会わない間に少しは強くなったようだ。
 仕方ないヤツだ。天と地の間にどれだけの差があるのか教えてやろう。

「おいおい、マジかよ……聞いてないぞ」

 失った右腕に魔力を流していく。
 すぐに破壊された手首と千切れ飛んだ右手が修復されていく。
 アレンの顔から笑みが消えた。

 悪いな。お前は壊せないものを壊そうとしていただけの愚か者だ。
 だが、安心しろ。俺のように一ヶ月間も無謀な挑戦をさせるつもりはない。
 五分もあれば終わる。さて、再開しようか。

 ガァン、ガァン、バキィ——

「くそぉー! まだ回復すんのかよ!」

 盾を背中にしまったアレンと殴り合いを開始した。
 拳と拳が打つかり合い、蹴りと蹴りが激しく交差する。
 手足が何度も破壊されていくが、それもすぐに修復されていく。
 修復が間に合わない時は、時間稼ぎに至近距離で弾丸を発射した。

「ぐふっ! この、汚ねぇぞ!」
「勝てばいいんだよ」

 ドゴォ! アレンの腹を狙って、左足のスネから斜め上に向かって弾丸を発射した。
 コイツは目が良いのか、俺の動きを見切っている。
 予想外の攻撃じゃないと、当てるのは難しい。

 それに何発当てても、少し痛そうな顔をするだけだ。
 上等な防具を服の下に隠している。強烈な一撃を決めないと倒せない。
 お互いが決定打を持ってないなら、このまま長期戦になる。

「ぐっ、硬ぇー!」

 ガァン! 胴体を強打したアレンが右拳を痛そうに振っている。
 無駄だ。重要な部分は奪った盾で、さらに強化している。
 胸の中心で身体を丸めている俺には、お前如きの拳は絶対に届かない。

「遊びはもう十分だ。殺すつもりでやってやる」
 
 お前を倒す方法は考えさせてもらった。
 手足が壊されるのなら、壊されない物を使わせてもらうだけだ。
 左腰の黒鞘から剣を右手で抜くと、ゴーレムの右手に向かって、体内を移動させていく。
 そして、ゴーレムの手の平から出てきた剣を右手で握った。

「おいおい、ちょっと待てよ⁉︎ コイツ、絶対にゴーレムじゃないだろう⁉︎」
「『ゴーレムソード』……これを使うのはお前が初めてだ」
 
 驚愕するアレンの前で、片刃曲剣の黒剣が刀身二メートルを超える大剣に変わっていく。
 体内で打撃強化LV3の手袋を取って、斬撃強化LV3の手袋を装着した。
 逃すつもりはないが、逃げたいなら早くするんだな。

「マジで最悪だ。剣を使うなんて聞いてないぞ!」
「ほぉー」

 だが、まだ諦めずに戦いたいようだ。アレンが負けずに剣を抜いてきた。
 どうやら、棒切れで俺と遊びたいらしい。悪いが峰打ちでも重傷か即死だ。
 まあ、お前が死んでも、お前の装備は大切に使ってやる。安らかに成仏していいぞ。

「フンッ!」
「おわっっ‼︎」

 ブォーン‼︎ 不気味な音を鳴らして、まずは右から左に右手に持った剣を振り払った。
 アレンは後方に大きく飛び退いて回避しようとするが、リーチが違う。
 すぐに追いかけて、着地しようとする瞬間に、追撃の一振りを頭上に振り下ろした。

 ドォシン——

「ぐっ、ぐっ!」
「チッ」

 振り下ろした大剣と頭上に水平に構えた剣が激突する。
 アレンは避けずに大剣の一撃を剣で受け止めている。
 ガリガリとお互いの剣が擦れ合って、嫌な音を立てている。

「ぐっ、くっ……やっぱりパンチと一緒で……見た目よりも軽いな!」
「まだ減らず口を聞くか」

 苦しそうに両手で大剣を受け止めているのに、まだ笑う余裕があるようだ。
 左手をアレンに向けた。弾丸の雨で笑えないようにしてやる。

「ち、ちくしょう! ウラァッ‼︎」

 左手に気づくと、アレンは気合いを入れて、剣を持ち上げ斜めに傾けた。
 剣の上を大剣が滑り落ちて、地面に刃が叩きつけられた。

「ゴーレム如きに負けられないんだよ!」

 大剣から脱出すると、アレンは即座に俺に向かって駆け出した。狙いは分かっている。
 大剣を握っている腕を切り落とすか、大剣が振り回しにくい懐に飛び込むか、そのどちらかだ。

 だが、そのどちらも不可能だ。接近戦の対応策はもう考えている。
 ゴーレムの全身の岩肌に鋭い岩杭をイメージする。
 あとは攻撃のタイミングに合わせるだけだ。回避不能のカウンターで串刺しになれ。
 
「食らうか!」

 ブォーン‼︎ 右腕を切りやすいように、左から右に水平に大剣を振り払った。
 アレンはそれを軽々と跳躍で躱すと、振り払ったばかりの右腕を狙っている。
 空中で剣を両手でしっかり握って、前腕を狙って振り下ろそうとしている。

 おそらく、右腕を切り落とした後は、素早く胴体を狙って、剣を切り上げるだろう。
 俺ならそうする。だけど、お前の実力だとそこまで剣は届かない。

「貰った!」

 空中で筋肉をバネのように跳ねさせて、アレンは剣を垂直に上腕に振り下ろした。
 その瞬間、『ジェノサイドトラップ』をゴーレムの全身に発動させた。

 ドガガガッ——

「ぐぅがああ‼︎」

 長さ四十センチ程の細長い岩杭が、アレンの身体に突き刺さる。
 その状態でも、アレンは剣を振り下ろして、ゴーレムの右腕を切り落とした。
 
「ぐわあぁぁ、痛ぇー! また聞いてないのが出てきたぞ!」
「しぶといな。やはり服の下に防具を隠していたか」

 折れた岩杭が手足に突き刺さった状態で、アレンは地面に倒れて叫んでいる。
 岩杭が突き刺さっているのは手足だけで、胸、腹、股間の辺りには刺さっていない。
 とりあえず剣を持っていて危ないので、左足で蹴り飛ばした。

「ぐばぁ‼︎」

 アレンが宙を飛んでいくが、この程度では死なない。
 切り落とされた右腕を素早く修復して、落ちている右手から大剣を回収した。
 あとは蹴り飛ばしたアレンにトドメを刺してやるだけだ。

「ごほぉ、ごほぉ……テメェー、俺に手を出したら死ぬからな」
「はぁ……はいはい。じゃあ、先に死んでください」

 目の前まで行くと、血反吐を吐いているアレンが剣を向けて、まだ生意気な事を言っている。
 泣いて土下座して命乞いすれば、全殺しじゃなくて、九割殺しぐらいにしてやるのに馬鹿なヤツだ。
 俺は元仲間でも容赦しない男だ。頭上に向かって大剣を振り上げた。

「くたばれ」
「ひぃっ‼︎」

 そして、容赦なく大剣を振り下ろした。
 ようやく死を悟ったのか、初めてアレンの顔に恐怖が見えた。
 だが、手遅れだ。お前はもう死んでいる。

 ヒューン、ドガァーン——

「ぐぁっ! な、何だ⁉︎」

 突然、激しい爆発音と衝撃がゴーレムの身体を襲った。
 大剣がアレンに届く前に、大剣を持った両腕が爆発して、バラバラに砕け散った。
 
「まったく……遅いから様子を見に来たら、悪い期待通りの事しか出来ないんですか?」
「副隊長ぉー! 助けてください! コイツが凄く強いゴーレムです!」
「見れば分かります」

 蔑むような男の声が聞こえて、アレンと一緒に振り向いた。
 アレンが情けない声で助けを求めている。どうやら仲間の登場みたいだ。
 かなり離れた場所に、金髪の男が弓矢を構えているのが見える。
 側には赤髪の剣士と、短い緑髪の槍使いが立っている。

「お前達は……」

 三人の顔には見覚えがあるどころではない。見覚えしかない。
 最後のパーティメンバー三人だ。剣士ヴァン、弓使いロビン、槍使いガイだ。
 まだ、この馬鹿をクビにしてなかったようだ。
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