上 下
56 / 172
第二章:ゾンビ編

第56話 臨時パーティ

しおりを挟む
「くそ、血が出ている。痛みがないと逆に分からないな」

 身体には切り傷や刺し傷が多数ある。ゾンビの身体でも怪我はする。
 二十二階の階段下まで冒険者を倒しながら進んだが、途中で逃げ出した冒険者達がいた。
 きっと貴重品を持って逃げたに決まっている。

 仕方ないので半殺し状態の冒険者達から、アビリティ装備を回収していく。
 逃げた奴らが命結晶を持っていれば、交換に使えるだろう。

「弓術は要らないけど、短剣術と槍術は填めておくか」

 倒れている冒険者の指から指輪を抜いていく。両手の指の空きは残り一本しかない。
 変わったアビリティを探しているのに、同じアビリティしか見つからない。

 それでも何も取らないという選択肢はない。
 俺の戦力アップは出来ないが、敵の戦力ダウンは確実に出来ている。

「さてと、絶対にまた階段の所に待ち構えているぞ。面倒くさいなぁー」

 一通り戦利品の回収は終わったが、このまま二十三階行きの階段に向かうのはマズイ。
 おそらく対策を用意して、同じ人数が待ち構えているはずだ。

 しかも、さっきよりも下の階だから、冒険者の実力が少し上がっている。
 明らかに状況は不利になっている。このまま戦えば奇跡が起きて、俺が負けるかもしれない。

「チッ、駄目か……」

 一応『調べる』を使って、俺の身体に奇跡が起きてないか調べてみた。
 地魔法はLV6のままだった。あれだけ戦って倒しても成長してない。

「仕方ない。水中を進むか」

 これから一ヶ月間も修業するつもりはない。
 豊富な水がある地形を利用させてもらう。

 バシャン! まずは姿を隠す為に水の中に飛び込んだ。
 水中には槍を持った、水色のスマートな魚人がいるが問題ない。
 俺には肺呼吸もエラ呼吸も必要ない。

 水中で両手を岩で覆うと、流星拳で水中を高速クロールで泳いでいく。
 このまま階段近くまで、誰にも邪魔されずにひと泳ぎする。
 相手が待ち伏せするつもりなら、こっちは水中を泳いで素通りさせてもらう。
 気づいてしまった冒険者は水中に引き摺り込んでやる。

 ♢

「全然来ないな」
「階段に倒れて、やられた冒険者のフリをしてるんじゃないのか?」
「うわぁー、あり得そうだな」

 それはあり得ない。何故なら俺はここに居るからだ。
 水中を進んでいくと予想通り、二十三階の階段近くに待ち伏せ中の冒険者がいた。
 このまま立ち話をしているアホ見張り三人を倒させてもらう。

 ザァバン——

「ぐはぁ‼︎」
「何だ! ぐがぁ‼︎」

 水中で加速して、勢いよく水面に飛び出すと、通路でお喋り中の雑魚を殴り飛ばした。
 残り二人も騒がれる前に高速パンチで殴り倒した。

「フッフッ。お前達に名誉を与えてやる」

 だが、お前達の仕事はまだ終わりじゃない。お前達には俺の臨時の仲間になってもらう。
 ほら、プレゼントの仮面を着けて、指輪も填めてやろう。さあ、皆んなに紹介してやる。

 ズルズルと倒れている二人を引き摺って、冒険者達が待ち構えている大広間に向かう。
 もちろん俺の顔に着いている仮面は取って、顔には血を染み込ませた包帯を巻いた。
 名誉の負傷という事で顔出しは拒否させてもらう。

「おい、まさか倒したのか⁉︎」
「ああ、何とか返り討ちにしてやった。やっぱり犯人は複数いたぞ」
「やっぱりか!」
「他にもいるかもしれない。お前達も気をつけろ」

 通路の途中で出会う見張りの冒険者達が、引き摺られる凶悪犯二人に驚いている。
 今のところ作戦は上手くいっているようだ。
 このまま二人には俺の代わりにボコボコにされて、牢屋で寝泊りしてもらう。

「ハァ、ハァ……犯人を連れて来たぞ」
「くそぉー、俺達の出番は無しかよ!」
「いいから、さっさと正体を見ようぜ」

 大広間まで到着すると、大広間の中央に凶悪犯二人を置いた。
 ざっと数えて五十人以上の冒険者が集まってくる。
 後始末は集まった皆さんに任せて、俺は手薄になった階段を下りさせてもらう。

「犯人の名前はジェイコブとトムソンだ! 誰か知っているヤツはいるか?」
「待て待て! 二人とも地魔法のアビリティを持ってないぞ!」
「くそ! 主犯がまだ何処かに隠れてやがる!」

 役に立たない臨時の仲間だ。もう注目を集める力もないらしい。
 呼び止められる前に階段に入りたいが、ここで走ると怪しまれる。
 焦らず走らず、階段から出てくる冒険者の流れに逆らって進んでいく。

 しばらくは地魔法を使える冒険者を探すはずだから、逃げる時間は稼げる。
 大広間に地魔法を使える冒険者がいたら、絶対に捕まって徹底的に調べられる。
 俺の場合はゾンビだから問答無用で殺されてしまう。
 
「……ふぅー、助かった」

 無事に階段に入る事が出来た。このまま二十五階まで避難しよう。
 そこまで俺を探しに来る冒険者はいないはずだ。
 今度は騒ぎが起きないように、命結晶を静かに集めるとしよう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~

有雲相三
ファンタジー
前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。 主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん
ファンタジー
転生者グレイボーンは、前世でシュールな死に方をしてしまったがあまりに神に気に入られ、【重弩使い】のギフトを与えられた。 しかしその神は実のところ、人の運命を弄ぶ邪神だった。 確かに重弩使いとして破格の才能を持って生まれたが、彼は『10cm先までしかまともに見えない』という、台無しのハンデを抱えていた。 それから時が流れ、彼が15歳を迎えると、父が死病を患い、男と蒸発した母が帰ってきた。 異父兄妹のリチェルと共に。 彼はリチェルを嫌うが、結局は母の代わりに面倒を見ることになった。 ところがしばらくしたある日、リチェルが失踪してしまう。 妹に愛情を懐き始めていたグレイボーンは深い衝撃を受けた。 だが皮肉にもその衝撃がきっかけとなり、彼は前世の記憶を取り戻すことになる。 決意したグレイボーンは、父から規格外の重弩《アーバレスト》を受け継いだ。 彼はそれを抱えて、リチェルが入り込んだという魔物の領域に踏み込む。 リチェルを救い、これからは良い兄となるために。 「たぶん人じゃないヨシッッ!!」 当たれば一撃必殺。 ただし、彼の目には、それが魔物か人かはわからない。 勘で必殺の弩を放つ超危険人物にして、空気の読めないシスコン兄の誕生だった。 毎日2~3話投稿。なろうとカクヨムでも公開しています。

【R18】異世界魔剣士のハーレム冒険譚~病弱青年は転生し、極上の冒険と性活を目指す~

泰雅
ファンタジー
病弱ひ弱な青年「青峰レオ」は、その悲惨な人生を女神に同情され、異世界に転生することに。 女神曰く、異世界で人生をしっかり楽しめということらしいが、何か裏がある予感も。 そんなことはお構いなしに才覚溢れる冒険者となり、女の子とお近づきになりまくる状況に。 冒険もエロも楽しみたい人向け、大人の異世界転生冒険活劇始まります。 ・【♡(お相手の名前)】はとりあえずエロイことしています。悪しからず。 ・【☆】は挿絵があります。AI生成なので細部などの再現は甘いですが、キャラクターのイメージをお楽しみください。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・思想・名称などとは一切関係ありません。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません ※この物語のえちちなシーンがある登場人物は全員18歳以上の設定です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...