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第一章:人間編

第45話 ゾンビ化

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 ドガッ、ドガッ、ドガッ——

「ヤバイな……」

 壁に向かって、岩塊を連続で発射していく。もう二十分は絶え間なく発射している。
 普段の俺なら四分を超えた辺りから、両手が疲労でプルプルし始める。
 それなのに今日は絶好調だ。危機的状況に陥った事で、俺の真なる力が目覚めてしまったようだ。

「な、わけないか。魔術師になったのか?」

 岩塊を撃つのをやめた。真なる力なんて目覚めない。
 おそらく上級職業の『魔術師』になったか、『地魔法LV3』がLV4になったぐらいだ。
 確認の為に胸に手を当てて、『調べる』を使ってみた。

【名前:ゾンビ 年齢:20歳 性別:ゾンビ 身長:169センチ 体重:55キロ】

「んっ?」

 一瞬見間違いだと思ったが、もう一度胸に手を当てて調べてみた。結果は同じだった。

「……ふぅー。よし、一旦落ち着こう」

 結果が分かったので、床に座って落ち着いて状況を考える事にした。
 まず、俺はゾンビになってしまったようだ。問題は肌が青白くなった事だ。

「……特に問題ないな。作業の続きをしよう」

 意識がある理由は分からないが、特に問題なかったので、床から立ち上がった。
 肌が青白くなる程度なら問題ない。地上に出たら日焼けで小麦色の肌に変えればいい。
 食べず寝ず疲れずに魔法を使い続けられるなら、ゾンビは便利な身体だ。
 治療は外に出た後にやればいい。

 ついでに魔法も二日半も休まずに使い続ければ、魔術師や地魔法LV4にもなるだろう。
 そうなれば、さらにトンネル掘削作業も進むというものだ。

「やれやれ、もうピンチは終了か? もっと俺を困らせてくれよ」

 きっと神様が俺の才能を見て、こんな場所で死ぬのは惜しいと思ったのだろう。
 仕方ないからこの貧相な壁を破壊して、さっさと外に出てやるとしよう。

 ♢

 一週間後……

「この腐れ壁がぁー!」

 ドガァン! 二十四時間魔法を使い続けて、念願の魔術師になり、地魔法LV4になった。
 縦横高さ一メートルはある四角い岩塊を壁に激突させていく。
 壁穴を四メートルも掘ったのに、そこから先の壁が壊れなくなった。

「神様の野朗、中途半端な力を与えやがって!」

 神様は偽りの希望を与えて、人間様を揶揄って遊ぶのが楽しいようだ。

「このクソ神がぁー!」

 ドガァン! 壁に空いた四角い穴に岩塊をブチ込んでいく。
 クソ神様の汚いケツの穴に、俺の怒りをブチ込んで、苦痛と恐怖を感じさせてやる。
 さあ、泣いて叫んで許しを請え。そして、俺をここから捻り出せ。

「駄目だ駄目だ! 怒りは頭を鈍らせる。一旦落ち着こう」

 身体は疲れないが、精神は疲れるみたいだ。
 感情的になって、普段使わない汚い言葉を使ってしまった。

「神様、今、思っていた事は全て嘘です。早く助けてください」

 とりあえず天井を見上げて、謝っておいた。
 心の広い神様なら、きっと許して助けてくれるはずだ。

 お祈りを終わらせると、巨大岩レンガの椅子に座った。
 ジェイが話していた最短五日の救出はとっくに過ぎた。
 俺を期待させた責任を取ってもらう為に、ジェイゾンビには死んでもらおうとした。

「グガァ、グガァ!」

 だが、コイツを助ける為にこうなった。
 頭を潰して殺してしまったら、全てが本当に無駄に終わってしまう。

 それに出られる可能性はまだ二つ残っている。
 一つは当然一ヶ月間耐え抜いて、青い宝箱が復活して通路が開くのを待つ事だ。
 もう一つはこのまま地魔法のLVを上げて、さらなる上級職業になる事だ。

 魔術師の『師』とは、師匠を意味している。
 一般的にどのアビリティも、LV4からLV7は師匠クラスと言われている。
 つまり、LV8を獲得すれば、師匠クラスを超える超人クラス扱いになる。

 LV8のアビリティ持ちには、英雄や勇者、大魔術師や賢者と呼ばれている者が多い。
 俺が地魔法をLV8まで上げれば、そのアビリティの頂点の中の頂点に入ったと言ってもいい。
 大地や偉大さを意味するグランドから、『グランドマスター』と名乗ってもいいだろう。

「フッ、仕方ない。神様とは英雄に過酷な運命を歩ませるものだ。いいだろう、このグランドマスターが、この壁を残り三週間で粉々に破壊してやろう」

 頭を少し冷やして、やる気が戻ったので、ジェイゾンビのレンガ椅子から立ち上がった。
 おそらく神様は、俺に困難な道を歩かせたいんじゃない。困難な道を作らせたいんだ。
 この分厚い壁に困難という道を開けさせ、その道を通り抜けた時に俺は英雄になれる。
 一週間一度も神様からの返事は何も聞こえないが、そう思う事にしよう。
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