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第一章:人間編

第42話 閉鎖空間

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「遅いな……まさかゾンビに遭遇したのか?」

 ゾンビの大群に襲われて、部屋の角に篭城してから、もう十五分が経過した。
 そろそろ助けに来てもいい時間だ。それなのに誰も来ない。逆にこっちが心配になる。
 待ってても助けが来ないなら、自力で何とかするしかない。

 だけど、青い宝箱から出てきた指輪は『剣術LV1』と最悪のハズレ指輪だった。
 今日は運が悪いとしか思えない。

「あぁー、くそ! 腕が変色している。一本じゃ足りないのかよ!」
「頼むから、俺に移すなよ」
「移るか、ボケが!」

 狭い室内に一人だけ座っているジェイが、鞄から聖水を取り出して飲んでいる。
 俺の聖水を飲ませてやったのに、まだ足りないようだ。腕が青白く変色している。
 噛まれた数で必要な聖水の数が違うなら、換金所が絶対に教えるべき情報だ。

「何だ、これは? おい、おっさん。ゾンビの気配が消えていく。外の様子を見てみろ」
「本当か?」

 俺は何も異変は感じないが、ジェイは異変を感じたようだ。
 確かに壁に体当たりするゾンビも、叫び声を上げるゾンビも少し前からいなくなった。
 気配が消えていくなら、部屋から出ていっているのか、倒されているしかない。

 岩壁に覗き穴を開けて、外を覗いてみた。
 すると、ゾンビが壁の穴に入っていく姿が見えた。
 まだ誰も助けに来てないみたいだが、状況は変化しているようだ。

「ゾンビが壁の穴に入っている。罠と見るべきだろうな」

 見たままの状況を報告してやった。
 壁の穴に隠れて、俺達がノコノコと外に出てきたところを襲うつもりだ。

「ゾンビにそんな知能があるかよ。いないなら、さっさと外に出るぞ」
「やめておけ。今まで愚かなフリをしていた可能性もある。出たいなら一人で出るんだな」
「ああ、そうするよ。さっさと出口を作れ」
「ふぅー、分かった。気をつけろよ」

 一応警告したが、愚か者は聞く耳を持たないらしい。
 天井に通れる穴を作ると、ジェイは痛がりながら外に出ていった。
 俺は覗き穴で愚か者が襲われる瞬間を見るとしよう。

「おい、おっさん! 早く出て来い! 出口が塞がっている!」
「はぁ? 何だって!」
 
 ジェイはフラフラと部屋の真ん中まで歩いていくと、立ち止まって大声で俺を呼んできた。
 外に出るのは、ゾンビが出て来ないのを確かめた後だが、出口が塞がっているのはマズイ。
 ゾンビに襲われる以前の大問題だ。

 急いで天井の穴から外に出ると、床に着地した。
 床には魔石やドロップアイテムが落ちているが、出口が無ければ拾う意味がない。
 悪い冗談かと思いながら、ジェイの隣まで行くと、確かに壁にあるはずの出口が綺麗に消えていた。

「どういう事だ?」
「おい、ゾンビ穴も塞がり始めているぞ」
「何?」

 呆然としていると、今度は壁の十四個の穴が塞がっていく。
 修復スピードがかなり速いが、ダンジョンの壁が修復されていくのと同じ現象だ。

 これから何が起きるか分からないが、ゾンビがいないなら、とにかく外に出ればいい。
 階段があった壁の前に急いだ。壁の前に魔石が落ちているから間違いない。
 壁に触れて『調べる』を使ってみた。

「駄目だ! ただの石の壁だ。壊すしかない!」

 結果は最悪だったが、最悪の結果を力尽くで変えるしかない。
 両手を壁に向けると岩塊を連続発射していく。
 岩塊が激突して、壁にヒビ割れが走り、ボロボロと壊れた壁の破片が落ちていく。

「やめろ、体力の無駄だ」
「ハァ、ハァ……チッ」

 だけど、壁が壊れる前にジェイに腕を掴まれて止められてしまった。
 どう考えても、何億発も撃たないと壁の外に出れそうにない。

「ダンジョンの壁は表面よりも中の方が硬い。俺達の力で壊すのは無理だ。助けが来るのを待つしかない」

 ジェイはそう言うと、床に寝転んだ。
 長期戦を予想して、無駄な体力を使わないようにするらしい。
 俺も床に座ると、状況と考えられる結果を話した。

「来ればの話だがな。食糧は節約しても二週間が限界だ。水の方は三日がいいところだ。それを過ぎたら飢え死にする」

 鞄の中には八食分の携帯食糧が入っている。水の量は一日半ぐらいしかない。

「通ってきた通路と同じ長さを掘るには、四日もあれば十分だ。まあ、そんなに簡単には掘れないから期待しない方がいいな。一ヶ月生き延びれば、もしかしたら宝箱が復活して通路が開くかもしれないな」
「ハッ。それは無理だな。お前の食糧を奪い取って、ついでにお前の死体を食ってもギリギリだろう。その前にお前の肉なんて食いたくもない」
「ああ、俺も同感だ。おっさんの肉なんて食えるかよ。とりあえず五日生き延びるしかないな」
「五日か……」

 流石に一ヶ月は無理でも、五日ぐらいは耐えきれる自信がある。
 だが、助けに来なかった場合は、さっき言った通りにコイツの肉を食べるしかない。
 少なくとも食糧と水があるうちは、最悪の手段は考えたくないものだ。
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