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第一章:人間編

第39話 隠し階段発見

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 二十階に下りると、また天辺の五階から、底の一階に向かって宝箱を探していく。
 他の階と同じで、十九階と二十階は同じピラミッドでも、通路や部屋の位置が少し違う。
 十九階と同じ道順では調べられない。

「ゾンビも一匹もいないな。人が多過ぎるんだよ」

 ジェイが何度も遭遇する冒険者達に不満を漏らしている。
 まだ四階を調べているのに、遭遇した冒険者が十八人もいる。

「金がある所に人が集まるのは自然の法則だ。ゾンビに『太陽石』と金目の物が多いからな」
「それでも、これだけ多いと取り分も減るだろうに。もっと他の階にもバラけた方がいいんだよ」
「人が多いと万が一の時に助け合える。一種の大規模パーティのようなものだと思うしかない」
「ハッハッ。助け合いというよりも、これだと占領だよ。絶対に八十人以上はいるぜ」

 ジェイとマークスが暇潰しに話をしている。
 ゾンビがいなくて、メルのモヤモヤが反応しないと何もする事がない。

 太陽石とは赤い宝箱から取れる琥珀色の石で、四万ギルで売る事が出来る。
 ゾンビ百匹分の価値があるので、ゾンビを倒しながら見つけたらラッキーだ。

 ゾンビは青白い肌のボロボロの服を着た人型モンスターで、全力疾走で襲い掛かってくる。
 首を切り落とすか、頭を叩き潰せば倒せるが、身体が砂袋じゃなくて鉄袋で出来ている。
 硬い首と頭はそう簡単には壊せない。

「カナン、青い宝箱が見つからなかった場合はどうするんだ?」
「流石に引き際は分かっている。宝箱を探してないのは砂漠だけだ。二十一階を調べたら帰るつもりだ」

 二階まで探したが、モヤモヤが見つからない。残りは一階だけだ。
 このまま見つからない可能性があると思ったのか、ダリルが聞いてきた。
 俺もその嫌な可能性を考えていたから、二十一階の水上遺跡までは調べると答えた。
 探すなら、涼しい場所の方が良い。砂漠を調べるつもりはない。

「だとしたら、俺とマークスがまた二十四階まで行こう。自然治癒の強化素材を集めてくる」
「あぁ、そうだな……その方が良いかもな」
「では、今から行ってくる。二十一階を探している間に集めてこよう」

 ダリルはもう見つからないと諦めたようだ。
 俺が許可すると、マークスと一緒に二十四階に行ってしまった。
 確かに無い物を探すよりも、ある物を取りに行った方が時間の無駄にはならない。

「おっさん、気にすんなよ。まだ無いと決まったわけじゃない。ダリルは報酬分の仕事をしたいだけだ」
「別に気にしてない。さっさと一階も調べて、二十一階に行くぞ」
「まあ、その一階が一番広いんだけどな」

 ダリル達がいなくなると、ジェイが心に思ってもいない事を言ってきた。
 諦めたらそこで終了だが、ここは諦めていいと思う。時には諦めも肝心だ。

 それでも、ピラミッドをウロウロする邪魔な冒険者と擦れ違いながらも、一応は隅々まで探していく。
 その努力の結果、沈黙していたメルの口が開いた。
 
「あっ! 隊長、モヤモヤです!」
「……やっと来たか」

 ようやく出番がやって来たようだ。
 だが、横取りする邪魔な冒険者が多いので、早く見つけないと奪われてしまう。
 二十階の地図を広げて歩きながら、宝箱がありそうな部屋や通路の行き止まりを調べていく。

「縦よりも横のモヤモヤの方が距離が短いな。地下四階と同じだ……」

 モヤモヤの範囲を調べ終わったが、宝箱が見つからなかった。
 分かったのは、横のモヤモヤの方が百メートル程短いという事だ。
 こうなったら、壁を叩いて調べるしかない。

「ちょっと待て。壁を叩いて調べていたら、他の冒険者に音で気づかれる。アビリティで調べた方が良い」

 作り出した三本の岩ハンマーを配ろうとすると、ジェイが別の方法があると言ってきた。
 そんな便利なアビリティがあるとは知らなかったが、ただ壁に手を触れて『調べる』を使うだけらしい。

「こんな方法で分かるのか?」
「前に酒場で隠し通路を見つけたやつが、この方法で見つけたと言っていた。試す価値はあるだろう?」
「本当かよ……」

 こんな方法で見つかるのかと疑って聞いたが、情報源は酔っ払いらしい。
 明らかにデタラメか、凄い宝箱を発見をした冒険者が酔っ払って、口を滑らせたかのどちらかだ。
 後者だと嬉しいが、それは壁に触れて調べるを使わないと分からない。

「透視が出来れば一番簡単だろうな」

 壁だけじゃなく、床も念入りに触って調べていく。調べるのLVが低いメルには見学してもらう。
 調べても調べても、結果は石壁や石床しかないが、それでも調べていく。

「あったぞ。ここだ」
「……本当か?」

 床に手を触れているジェイが見つけたと言ってきた。
 間違いだろうと思いながら、ジェイの元に行って、床を調べてみた。
 すると、【隠し階段のある石床】と表示された。

「……本当だな」
「ああ、だから言っただろう。とりあえず壊さないと入れないな。こういうのは普段はダリルが壊すんだが、いないからなぁ……おっさんがやってくれ」
「仕方ないな。危ないから離れていろ」

 弓矢では何千発射っても壊せないからと、ジェイが俺の力を頼ってきた。
 仕方ないので二人を石床から離れさせると、床石に向かって岩塊を連続発射していく。
 ガンガン打つけられる岩塊に床石が少しずつ削られていく。

 大きめの岩ハンマーを作っても、数回叩いただけで、ハンマーの方が壊れるだけだ。
 ある程度全体的に削れてきたので、トドメに岩壁を作って、床石に向かって押し倒した。
 これで岩壁の重みで、床石は木っ端微塵だ。

 ドガァン——

「おい、もっと静かに出来ないのかよ? これだと静かに探した意味がないだろ」
「早い者勝ちだ。人が来る前に宝箱を開ければいい。さあ、入るぞ」

 倒れている岩壁に魔力を流して壊して、邪魔な瓦礫を退けていく。斜めに伸びる階段が見えてきた。
 ジェイは俺の破壊作業に文句を言っているが、文句があるなら自分でやるべきだった。

「以前、似たような場所でモンスターが宝箱を守っていた。ここにはゾンビがいるかもしれない」
「大丈夫だ。ゾンビの数体なら一人でも倒せる」
「油断しない事だ。ゾンビは恐怖を感じないから雪崩れ込んでくるぞ」

 弓矢を構えた狩人が階段を先頭で下りていく。油断しないようにと注意する。
 コイツがやられると俺達を守る人間がいなくなる。
 俺はゾンビ三体に同時に襲われるだけで、戦闘能力の限界だ。

「良かったな。ゾンビはいないみたいだ」
「そうみたいだな。さっさと開けて、二十一階は適当に探すか」

 階段を下りると、縦に長い長方形の部屋に辿り着いた。ゾンビは一匹もいない。
 七十メートル程先に見える祭壇のような台の上に、青い宝箱が微かに見える。
 最初に計画した三つの目的は達成した。もう二十一階は探さなくてもいいかもしれない。
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