上 下
31 / 172
第一章:人間編

第31話 十三階ホーンディア

しおりを挟む
 週末土曜日の朝、一人でダンジョンにやって来た。
 メルには、土日は宿屋で宿屋謹慎してもらう。

「これはいいな。これなら行けそうだ」

 地下五階の青い宝箱で手に入れた、神器の靴:素早さ上昇LV1を履いている。
 この靴のお陰で、いつもよりダンジョンを素早く進めている。
 これなら目標の地下十五階まで行けそうだ。

 今回の目的は、神器の強化素材を集める素材採取ツアーだ。

【神器の手袋:筋力上昇LV2】
【LV3強化素材:猿獣人の皮五枚、洞窟グリズリーの皮五枚、ワイルドボアの皮五枚】

【神器の指輪:体力上昇LV2】
【LV3強化素材:パラライズスネークの牙五本、沼ワニの牙五本、ホーンディアの角五本】

【神器の指輪:自然治癒力LV1】
【LV2強化素材:ブルークラブの甲羅五個、スカイフィッシュの魚鱗五枚、人面枯れ木の板五枚】

【神器の靴:素早さ上昇LV1】
【LV2強化素材:ウルフの皮五枚、パラライズスネークの皮五枚、ホーンディアの皮五枚】

 金が全然足りない。これを全部換金所で買っていたら破産してしまう。
 メルをワイルドボアが生息している、地下十五階まで連れて行くのも危険過ぎる。
 どう考えても宿屋謹慎させて、俺一人でやるしかない。

「一番注意するのは痺れ蛇だけだな」

 単独でダンジョンに挑む場合に一番注意するのは状態異常だけだ。
 地下十七階の毒サソリ、地下二十階のゾンビと、状態異常を与えるモンスターは多い。
 半年前の俺も十五階ぐらいまでしか行かないようにしていた。

「まずはブルークラブの甲羅五個だな」

 地下七階に到着した。ウルフの皮五枚は、昨日手に入れた皮を使ったから必要ない。
 まずは七階から九階にいるモンスターから、自然治癒力LV1の強化素材を集める。
 メルの自然治癒力がLV3だから、LV4まで強化する必要がある。

「ハッ! オラッ!」

 七階のブルークラブは剣で突き刺し、八階のスカイフィッシュは剣で頭を切り落とす。
 九階の人面枯れ木はいつも通りに岩杭で、縦に真っ二つに割って倒した。

「フッフッ、余裕だな。さて、強化するか」

 地面に落ちている魔石と人面枯れ木の板を拾った。
 これで自然治癒力LV1の強化素材が集まった。
 右手の人差し指に填めている指輪に板を押し当てる。
 板は指輪に吸い込まれると、指輪がピカッと光ったが、変化はこれで終わりらしい。

「これで次に必要な素材が分かるな」

 まずは最初の目標を達成した。右手を握って『調べる』を使った。

【神器の指輪:使用者に自然治癒力LV2を与える】
【LV3強化素材:ホーンディアの角五本、ワイルドボアの牙五本、砂サメの牙五本】

「最悪だな。十八階の砂漠まで行けるかよ」

 強化素材の中に、十八階の砂漠地帯に生息する砂サメの名前があった。
 今日中に他の神器と同じように、LV3まで強化できると思ったのにこれは無理だ。

 ♢

「ふぅー、今日は凄く楽だな」

 宝箱探しと違って、順調に真っ直ぐに地下十三階までやって来れた。
 まあ、倒したのは猿獣人と痺れ蛇と沼ワニの三種類だけだ。順調なのは当然だ。

 地下十三階と十四階は洞窟山脈と言われている。天候は晴れで気温は少し肌寒い。
 横に真っ直ぐに上下に分かれて伸びる山道と、洞窟の中を通りながら進んでいく。
 その洞窟山脈にターゲットの『ホーンディア』が生息している。

 ホーンディアは紺色と白色のマダラ模様の大きな鹿で、頭に枝分かれした乳白色の角が生えている。
 コイツの角と皮を手に入れれば、体力上昇と素早さ上昇の神器を強化する事が出来る。
 とりあえず素早さ上昇だけは強化して帰りたい。

「この壁を調べるのは難しいな」

 ホーンディアを探しながら、一応宝箱がありそうな場所も探していく。
 山道は上り坂や下り坂が複数あり、分かれ道もある。左右を垂直の高い岩壁に挟まれている。
 見上げる岩壁の所々に木が生えていて、緑色の葉っぱが茂っている。
 あんな高い所の葉っぱはホーンディアも食べないだろう。

「行き止まりは……こっちか」
 
 地図を見ながら、分かれ道は人が通らない方を選んで進んでいく。
 しばらく山道を進んでいくと、目当てのホーンディアと遭遇した。
 馬よりも少しだけ身体は小さいが、角を含めると馬の頭の高さと同じぐらいはある。
 目が合うと、「ピー!」と甲高い鳴き声を上げて走って来た。

「さてと、まだ通用すればいいんだがな」

 好戦的なモンスターは倒しやすい。
 左右の手の平をホーンディアに向けると、小さめの岩塊を発射していく。
 岩塊は大きな角で弾かれ、左右に避けられる。身体に当たっても全然止まらない。

 だが、これでいい。全ては俺だけに意識を真っ直ぐ向けさせる為だ。
 足裏から地面に魔力を流すと、ちょうどいいタイミングで『ウォール』と念じた。

 ドガァン——

「ピー‼︎」

 突然地面から現れた岩壁にホーンディアは激しく激突した。
 激突した衝撃で停止して、岩壁の上半分がバキバキとへし折れて地面に倒された。
 五ヶ月間の自宅修行で鍛え上げられた俺の岩壁が、五ヶ月前と同じように壊された。

「ピー! ピー!」
「やっぱりしぶといな」

 ホーンディアは軽い目眩でも起きたように頭をブンブン振ると、怒ったように鳴き声を上げる。
 角も身体も頑丈だからほとんど無傷だ。まあ、分かっていた事だから問題ない。
 今度は岩壁ではなく、岩杭を前足を狙って地面から突き出した。

「ピー‼︎」

 バキィ! 突き出た岩杭にホーンディアの右前足がへし折れ、胸の中心に先端が浅く突き刺さった。
 俺の岩杭は地面に近いと威力が上がり、地面から離れていると威力が下がる。
 足長ホーンディアには、痺れ蛇や沼ワニのような高威力は期待できない。

 だが、動けない相手を姉貴の凄い剣で倒すのは楽勝だ。

「待たせたな。すぐに楽にしてやる」
「ピー……ピー……」

 鞘から剣を抜くと、足を引き摺るホーンディアに近づいていく。
 姉貴はこの剣を地下三十五階まで使っていた。
『剣術LV2』の俺でも、この辺の雑魚の身体なら切る事が出来る優れ物だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔銃士(ガンナー)とフェンリル ~最強殺し屋が異世界転移して冒険者ライフを満喫します~

三田村優希(または南雲天音)
ファンタジー
依頼完遂率100%の牧野颯太は凄腕の暗殺者。世界を股にかけて依頼をこなしていたがある日、暗殺しようとした瞬間に落雷に見舞われた。意識を手放す颯太。しかし次に目覚めたとき、彼は異様な光景を目にする。 眼前には巨大な狼と蛇が戦っており、子狼が悲痛な遠吠えをあげている。 暗殺者だが犬好きな颯太は、コルト・ガバメントを引き抜き蛇の眉間に向けて撃つ。しかし蛇は弾丸などかすり傷にもならない。 吹き飛ばされた颯太が宝箱を目にし、武器はないかと開ける。そこには大ぶりな回転式拳銃(リボルバー)があるが弾がない。 「氷魔法を撃って! 水色に合わせて、早く!」 巨大な狼の思念が頭に流れ、颯太は色づけされたチャンバーを合わせ撃つ。蛇を一撃で倒したが巨大な狼はそのまま絶命し、子狼となりゆきで主従契約してしまった。 異世界転移した暗殺者は魔銃士(ガンナー)として冒険者ギルドに登録し、相棒の子フェンリルと共に様々なダンジョン踏破を目指す。 【他サイト掲載】カクヨム・エブリスタ

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

秋津皇国興亡記

三笠 陣
ファンタジー
 東洋の端に浮かぶ島国「秋津皇国」。  戦国時代の末期から海洋進出を進めてきたこの国はその後の約二〇〇年間で、北は大陸の凍土から、南は泰平洋の島々を植民地とする広大な領土を持つに至っていた。  だが、国内では産業革命が進み近代化を成し遂げる一方、その支配体制は六大将家「六家」を中心とする諸侯が領国を支配する封建体制が敷かれ続けているという歪な形のままであった。  一方、国外では西洋列強による東洋進出が進み、皇国を取り巻く国際環境は徐々に緊張感を孕むものとなっていく。  六家の一つ、結城家の十七歳となる嫡男・景紀は、父である当主・景忠が病に倒れたため、国論が攘夷と経済振興に割れる中、結城家の政務全般を引き継ぐこととなった。  そして、彼に付き従うシキガミの少女・冬花と彼へと嫁いだ少女・宵姫。  やがて彼らは激動の時代へと呑み込まれていくこととなる。 ※表紙画像・キャラクターデザインはイラストレーターのSioN先生にお願いいたしました。 イラストの著作権はSioN先生に、独占的ライセンス権は筆者にありますので無断での転載・利用はご遠慮下さい。 (本作は、「小説家になろう」様にて連載中の作品を転載したものです。)

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~

有雲相三
ファンタジー
前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。 主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...