上 下
18 / 172
第一章:人間編

第18話 伐採作業

しおりを挟む
 地下十階『ジャングル』……

 地上と木の上からの赤毛猿の攻撃を警戒しつつ、隠した宝箱に向かって進んでいく。
 以前は弓使いがいたから、飛行系のモンスターは弓矢で勝手に撃ち落としていた。
 盗賊も弓矢は得意だが、メルが十四歳ぐらいにならないと使えないだろう。

「巨大蚊と同じだ。視覚だけに頼らずに、木のしなる音や葉っぱの擦れる音を聞き逃すなよ」
「そう言われると、たくさん聴こえてきました⁉︎」
「俺と自分の音は聞き流さないと大変だぞ」

 油断しないように注意するが、メルには早かったようだ。
 近場の音さえも敏感に聴き取っている。
 とりあえず半径一メートル以内の音は無視していいぞ。

「あっ⁉︎ 隊長、あそこに宝物があります!」
「んっ?」

 メルが宝物を見つけたと、木の上を指差して言ってきた。
 俺が隠した宝物はもっと先の方にあるから、別の宝箱を見つけたようだ。
 ラッキーだけど、猿に気づかれたら大変だ。次からは小声で報告しろ。

「どこにあるんだ?」
「あそこの木の上にあります」
「うーん、確かにあるな」

 指差す方向を念入りに探してみると、地上十メートルの高さに赤い宝箱がチラッと見えた。
 枝分かれした幹の真ん中にあるから、周囲を破壊しても宝箱は落ちてこない。
 宝箱はメルに開けさせないと意味ないが、落ちたらかなり痛そうだ。

「あそこまで、登れるか?」
「落ちていいなら登れます!」
「それは登れないのと一緒だな」

 一応木登りが得意か聞いてみたが、自信満々で出た答えがそれなら無理だ。
 俺が取りに行くか、メルを背中に背負って登るしかない。
 だけど、俺も木登りは得意じゃない。

 木の幹は太く、巻き付いた太い蔓は登りやすそうに見える。
 でも、壊れやすく、滑りやすそうにも見える。
 俺の全体重と命を預けるには、コイツは信用できない。

「仕方ない。時間はかかるが、この木を倒して回収するか」

 大きな音を立てれば、赤毛猿が集まってくる。
 だけど、邪魔者を誘き出して排除できるから、ちょうどいいだろう。
 宝箱までの大岩階段を作るという手もあるが、魔力が途中で無くなりそうだ。
 動けなくなるまで頑張っても、手に入るのは死だけだ。

「ハァッ! ヤァッ!」

 ドガッ‼︎ 剣を抜くと、大木に刃を叩き込んだ。木の倒し方は前に見た事がある。
 剣を幹に叩き付けて、まずは三角形の切り込みを作る。
 次に反対側を剣で真横に切っていく。
 あとは半分ぐらい切れば、木の重みで勝手に倒れていく。
 力自慢の斧使いが、この方法で木を倒していたから間違いない。

 二十分後……

「ハァ、ハァ……!」
「隊長、大丈夫ですか? タオルを貸しましょうか?」
「使用済みは使わない! お前は周囲の警戒をしていろ!」
「はぁーい」

 メルの汗まみれのタオルなんて使えない。
 毎日の筋力トレーニングで鍛えたはずの両腕が、小刻みな悲鳴を上げている。
 直径八十センチ程度の小木のくせに、倒されないように無駄に頑張っている。
 俺を本気にさせたいようだ。

 それに五十センチまで切って、別の方法を試すわけにはいかない。
 それだと俺が失敗したみたいに思われてしまう。
 俺は絶対に失敗しない男だ。

 十分後……

「あっ、本当に倒れていきます!」
「ハァ、ハァ……手こずらせやがって」

 ミシミシとへし折れる音を立てて、大木がドォスンと地面に切り倒された。
 蒸し暑いジャングルの所為で、予想以上に体力を消費してしまった。
 切り倒した大木の宝箱に、メルと一緒に近づいていく。
 枝分かれした幹の間に、磁石のように宝箱が張り付いている。

「銀色の石が入っていました」
「それは『神鉄』だ。もう一つの宝箱を回収に行くぞ」

 宝箱の蓋を開けて、メルが銀色に輝く石を見せてきた。
 一個一万ギルだから落とされる前に没収した。

 ♢

「剣で木を倒せるなんて凄いですね。普通の剣だったら、剣の方が折れそうです」
「この剣は姉貴のお下がりの剣だからな。その辺の剣よりも頑丈に出来ている」

 痺れた両腕を休憩させつつ、歩きながら無駄話をしていく。
 メルが俺の剣を凄いと褒めているが、本当に凄いのは俺の腕力だ。

「ジャンヌお姉ちゃんの剣なんですね」
「お姉ちゃんねぇ……」

 姉貴は引き取った孤児に、お姉ちゃんと呼ばせているみたいだ。
 俺にはお姉様と呼ばせていた。
 たまに可愛い弟をサンドバッグにする酷いお姉様だった。
 でも、俺に押し付けている時点でお姉ちゃん失格だ。
 
「確かこの辺だったはずなんだが……」

 姉貴の武勇伝を聞きながら、宝箱の隠し場所に到着した。
 目印に四個の岩塊を、地面に四角形に並べている。
 その四角形の角から、二十歩進んだ茂みの中に宝箱がある。

 ジャングルの景色は似ているから、間違わないに目印を置いておいた。
 ここじゃないみたいだから、別の角から二十歩の茂みの中だろう。

「あったぞ。早く開けろ」

 二回目で無事に隠しておいた宝物を見つけた。
 誰かが悪戯で岩塊を動かしてはいなかったようだ。
 メルが宝箱を開けて、銀色の石を見せてきた。

「さっきと同じでした」
「そうだろうな。LVが上がったか調べるぞ」
「はい、お願いします」

 これで合計十一個の宝箱を開けさせた。そろそろ宝箱探知LV2になってほしい。
 そう思って調べたが、結果はLV1のままだった。まだまだ足りないようだ。
 次にキリがいい数なのは二十個だから、その時にでも調べるとしよう。

「次で最後の宝箱だが、さっきのように別の宝箱が見つかる可能性もある。油断せずに探すように」
「はい、今度は青い宝箱を探してみます」
「そこまで期待していない。赤で十分だ」

 冒険者になってから二年も経つが、青い宝箱は数個しか見つけてない。
 冒険者二週間の素人が簡単に見つけられる物ではない。
 馬鹿な夢を見させるつもりはない。時間の無駄だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゆったりおじさんの魔導具作り~召喚に巻き込んどいて王国を救え? 勇者に言えよ!~

ぬこまる
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界の食堂と道具屋で働くおじさん・ヤマザキは、武装したお姫様ハニィとともに、腐敗する王国の統治をすることとなる。 ゆったり魔導具作り! 悪者をざまぁ!! 可愛い女の子たちとのラブコメ♡ でおくる痛快感動ファンタジー爆誕!! ※表紙・挿絵の画像はAI生成ツールを使用して作成したものです。

魔銃士(ガンナー)とフェンリル ~最強殺し屋が異世界転移して冒険者ライフを満喫します~

三田村優希(または南雲天音)
ファンタジー
依頼完遂率100%の牧野颯太は凄腕の暗殺者。世界を股にかけて依頼をこなしていたがある日、暗殺しようとした瞬間に落雷に見舞われた。意識を手放す颯太。しかし次に目覚めたとき、彼は異様な光景を目にする。 眼前には巨大な狼と蛇が戦っており、子狼が悲痛な遠吠えをあげている。 暗殺者だが犬好きな颯太は、コルト・ガバメントを引き抜き蛇の眉間に向けて撃つ。しかし蛇は弾丸などかすり傷にもならない。 吹き飛ばされた颯太が宝箱を目にし、武器はないかと開ける。そこには大ぶりな回転式拳銃(リボルバー)があるが弾がない。 「氷魔法を撃って! 水色に合わせて、早く!」 巨大な狼の思念が頭に流れ、颯太は色づけされたチャンバーを合わせ撃つ。蛇を一撃で倒したが巨大な狼はそのまま絶命し、子狼となりゆきで主従契約してしまった。 異世界転移した暗殺者は魔銃士(ガンナー)として冒険者ギルドに登録し、相棒の子フェンリルと共に様々なダンジョン踏破を目指す。 【他サイト掲載】カクヨム・エブリスタ

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

秋津皇国興亡記

三笠 陣
ファンタジー
 東洋の端に浮かぶ島国「秋津皇国」。  戦国時代の末期から海洋進出を進めてきたこの国はその後の約二〇〇年間で、北は大陸の凍土から、南は泰平洋の島々を植民地とする広大な領土を持つに至っていた。  だが、国内では産業革命が進み近代化を成し遂げる一方、その支配体制は六大将家「六家」を中心とする諸侯が領国を支配する封建体制が敷かれ続けているという歪な形のままであった。  一方、国外では西洋列強による東洋進出が進み、皇国を取り巻く国際環境は徐々に緊張感を孕むものとなっていく。  六家の一つ、結城家の十七歳となる嫡男・景紀は、父である当主・景忠が病に倒れたため、国論が攘夷と経済振興に割れる中、結城家の政務全般を引き継ぐこととなった。  そして、彼に付き従うシキガミの少女・冬花と彼へと嫁いだ少女・宵姫。  やがて彼らは激動の時代へと呑み込まれていくこととなる。 ※表紙画像・キャラクターデザインはイラストレーターのSioN先生にお願いいたしました。 イラストの著作権はSioN先生に、独占的ライセンス権は筆者にありますので無断での転載・利用はご遠慮下さい。 (本作は、「小説家になろう」様にて連載中の作品を転載したものです。)

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

ポーション必要ですか?作るので10時間待てますか?

chocopoppo
ファンタジー
松本(35)は会社でうたた寝をした瞬間に異世界転移してしまった。 特別な才能を持っているわけでも、与えられたわけでもない彼は当然戦うことなど出来ないが、彼には持ち前の『単調作業適性』と『社会人適性』のスキル(?)があった。 第二の『社会人』人生を送るため、超資格重視社会で手に職付けようと奮闘する、自称『どこにでもいる』社会人のお話。(Image generation AI : DALL-E3 / Operator & Finisher : chocopoppo)

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~

有雲相三
ファンタジー
前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。 主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。

処理中です...