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第一章:人間編

第13話 宝箱探知

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 地下二階『炭鉱迷路』……

「メル、出番だぞ」
「はぁーい」

 通路の行き止まりに赤い宝箱を見つけた。
 俺が開けたら意味がないので、メルに開けさせる。
 元気に宝箱の蓋を開けて、銅色の神銅を取り出した。
 
「手を出せ。変化がないか調べてやる」
「お願いします」

 宝箱を開けたばかりだが、これで宝箱を開けるという条件は達成した。
 メルが言われた通りに右手を出してきたので、手を握って調べた。
 予想通り、新しいアビリティ『宝箱探知LV1』を習得していた。

「よし、習得しているぞ。何か変化を感じるか?」
「うーん、何も感じないです。すみません」

 メルは役に立てない事を謝るが、目標のアビリティは習得した。
 実戦でアビリティが使えるのはLV4ぐらいだ。
 即戦力になるとは期待してない。

「謝る必要はない。LVが低いだけだ。宝箱を何個も開けたらLVは上がる。昼飯にするぞ」
「はぁーい」

 宝箱を見つけたので、予定通りに昼飯にする。
 メルが早速弁当箱を渡してきた。

「隊長、どうぞ」
「ああ……」

 大して期待してないが、受け取った四角い弁当箱の蓋を開けてみた。
 ケチャップ塗れの肉団子と野菜炒めスパゲッティが、パンパンに詰め込まれていた。
 俺ならパンにジャムを塗って、二十秒で完成なのに料理時間が勿体ないな。

「隊長、美味しいですか?」
「ああ、まあまあ美味いぞ」
「それは良かったです! また作りますね!」
「ああ、任せる」

 味の感想を聞かれたので素直に答えた。
 吐き出さずに食べられれば問題ない。

 最近のメルは料理以外にも洗濯もやっている。
 俺の服やシーツが綺麗になっていた。
 ジジイとババアに気を遣って、家の手伝いを始めたようだ。

 老後の世話をするには早すぎる。
 お小遣いが目的じゃないなら、放っておいてもいいぞ。

 三十分後……

「よし、再開するぞ。早く探さないと取られるからな」
「はい、頑張ります!」

 昼休憩を終わらせると立ち上がった。
 赤い宝箱が復活していたから、のんびりしていると他の冒険者に取られてしまう。
 赤い宝箱は探している冒険者は少ないが、青い宝箱を探している冒険者は多い。

 ♢

「さて、どうするべきか?」

 風呂に入りにメルが部屋から出ていった。すぐに本棚の職業図鑑を開いた。
 赤い宝箱を七個開けても、宝箱探知のLVは上がらなかった。
 図鑑には宝箱を開ければ、LVが上がると書かれているだけだ。
 だとしたら、開け続けるしかない。
 
 だけど、一階と二階の宝箱が復活するのを一週間も待つつもりはない。
 どこかの冒険者パーティと一時的に手を組んで、宝箱を開けさせてもらう。
 中身の所有権を放棄すれば、馬鹿な喧嘩は起きないだろう。

「安全を考えると、最低三人は必要だな」

 メルがいるから十五階以上は危険過ぎる。
 それを踏まえてパーティ候補の条件を考えていく。

 強さはE~Dランクパーティで、探索時間はダンジョンに一泊する程度だ。
 でも、一つだけ問題がある。計画は完璧だが、俺を手伝いたい冒険者がいない。

 仕方ないから、換金所のオヤジに冒険者を紹介してもらう。
 嫉妬されている優秀な俺が頼んでも、馬鹿高い護衛料を要求されるだけだ。
 前に「パーティを紹介する」とか言っていたから、オヤジの顔を立ててやるか。

 ♢

「誰も来ませんね」
「もういい。お前は家に帰って遊んでいろ」
「いいんですか?」
「いいんだ。子供は気にせずに遊んでいろ」

 オヤジに護衛パーティの紹介を頼むと、連絡が来るまでメルを鍛える事にした。
 だけど、木曜日の朝に頼んだのに、もう週末の土曜日だ。
 さっきも昨日紹介すると言ったから、換金所で待っていたのに誰も現れなかった。
 これで二回目だ。流石に嫌がらせとしか思えない。

「口だけの使えないオヤジだったな。待っていた時間の時給を請求するぞ」

 文句を言うだけ時間の無駄だ。使えない奴に頼ったのが間違いだった。
 メルに二日分の食費として三千ギル渡すと、一人でダンジョンに向かった。
 今回は家には帰らずに、ダンジョンに一泊する予定だ。

 換金所の役立たずオヤジの所為で、作戦を大幅に変更しないといけない。
 俺一人で深い階層に行って宝箱を見つけて、それを見つからないように隠してくる。
 あとは月曜日にメルを連れてきて、隠した宝箱を開けさせればいい。
 実力者のみに許される完璧な作戦だな。

「ハァッ!」
「ギャニャー‼︎」

 地下六階の古代遺跡、襲ってきた猫の獣人を剣で一刀両断した。
 剣と地魔法で順調にモンスターを倒して、魔石と素材を鞄に入れていく。
 魔石も素材も大量に集まると、重くて移動するだけで疲れてしまう。

 だから、十階や二十階の階段には、魔石や素材を買取る冒険者がいる。
 買取り手数料で10%も引かれてしまうが、それでも利用する冒険者は多い。

 地下十階『ジャングル』……

 蒸し暑い森の中を宝箱を探して歩き回る。
 沸騰した風呂場の中に閉じ込められたように、服や身体が濡れていく。
 ここは体力を奪われやすいから、本当なら早く通り抜けたい。

「キィー! キィー!」
「相変わらず、臭そうな赤毛猿だな」

 木の棍棒を馬鹿みたいに振り回して、身長130センチの赤毛の猿獣人が走ってくる。
 汗に濡れた臭そうな赤毛に全身を覆われていて、顔が換金所のオヤジに似ている。
 ムカつくので、両手の手の平から弾丸を発射して、近づく前にボロ雑巾に変えた。

「ハァ、ハァ……クソ暑いな。そろそろ休憩するか」

 地面に落ちている100ギルの魔石と『赤毛猿の毛皮』を乱暴に拾うと、階段を目指した。

「あぁー、涼しい」

 階段の中は死ぬほど涼しい。
 久し振りだから少し疲れたが、実力は落ちてないようだ。
 階段に買取り冒険者がいたから、集めた魔石と素材を調べさせた。

「全部で9900ギルだ。売るのか?」
「だったら一万ギルでいいな。それなら売ってやる」
「はぁ……分かった。それでいいぞ」

 中途半端な金額だったので、キリがいい金額に変えさせた。
 どうせ持てるだけ買取ったら、仲間の買取り冒険者と一緒に町に戻るだけの奴らだ。
 荷物持ちのお小遣いにはちょうどいい金額だ。

「まだ時間はあるな。もう一度十階を調べたら休むとするか」

 ポケットから時計を取り出して、時刻を確認した。
 午後七時なら、まだ四時間ぐらいは活動できる。
 進むのはこの辺にして、今からは調べる方に時間を使う。
 あんまり深い階層に行っても、メルを安全に連れて来れないなら意味がない。
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