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第一章:人間編

第12話 ビッグアント

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 地下三階『縦穴草原』……

 薄茶色の岩壁に開いた階段から外に出ると、踏みつける地面が草と土に変わった。
 三階は丸い植木鉢の底に作られた、直径六百メートルの箱庭のような場所だ。
 壁に開いている階段から外に出ると、自分が小人になったような気分になれる。

「宝箱の気配は感じるか?」
「何も感じないです」
「やっぱり習得するまで無理か」

 三階に到着したので、またメルに聞いてみた。二階は何も感じなかった。
 宝箱がまだ復活してない可能性も考えたが、やっぱり三階も感じないようだ。

「わぁー! 空が見えますよ。崖を登れば外に出られますね! 何があるんですか?」

 遥か上に見える青空を見上げて、メルが期待を膨らませている。
 その答えは馬鹿な冒険者が壁を登ってくれたから知っている。

「途中に見えない壁があるから、登れるのはそこまでだ」
「……瓶に閉じ込められた虫と一緒ですね。一生外に出られないで死ぬんですね」
「……」

 答えを教えてやると、急にメルが落ち込んでしまった。
 それに嫌な例え方だ。トラウマスイッチでも押してしまったのだろうか?
 少なくとも俺は閉じ込められた程度で死ぬつもりはない。

「死ぬわけないだろうが。瓶ぐらい俺が壊してやる。くだらない事言ってないで探すぞ」
「あっ、待ってください!」

 強気に励ますと、靴が隠れる高さの草原を元気に歩き出した。

 四階への階段は草原の真ん中にある。
 宝箱を探すなら真ん中と壁沿い以外だ。
 人が通る場所や探しやすい場所は誰かが見つけている。
 
「木の上や地面に半分埋まっていたりする。特に青い宝箱は予想外の所にあるらしい」
「予想外ですか? 地面の中に完全に埋まっているんですか?」
「その可能性もあるが、見つからない時は四階に下りるだけだ」
「戦略的撤退ですね」
「その通りだ」

 赤い宝箱があった場所は知っているが、青い宝箱は分からない。
 青い宝箱は一個だけで、一度取ると復活するのに一ヶ月かかる。
 前に宝箱を開けたヤツが黙っていれば、復活したタイミングに探して何度も独り占めできる。
 あるか、ないのか分からない宝箱を探すのは時間の無駄だ。

「止まれ……あれが見えるか?」

 歩くのをやめて、メルを制止すると前方を指差した。

「宝箱ですか?」
「違う。モンスターだ」
「……っ‼︎」

 前方三十メートル先に『ビッグアント』が四匹見える。
 不揃いの三つの玉が繋がった、茶色の身体の昆虫系モンスターで、頭の高さは俺の膝ぐらいある。
 六本足で素早く動き回って、顎に生えている左右の牙で噛みついてくる。
 足を噛み潰されて地面に倒れた冒険者は、集団で襲われて死ぬだけだ。

「倒してくるからここにいろ」
「大丈夫ですか?」
「楽勝だ。他にもいるから注意するんだぞ。襲われたら、とにかく叫べ」
「分かりました。頑張ってください」

 短剣を構えさせて、メルには離れた場所で待機してもらった。
 ピッタリ張り付いて守るよりも、近づけないように倒す方が楽だ。
 いつも通りの感じで、一人で戦っている方が実力を出せる。

「ギィィ……‼︎」

 接近する俺に一匹のビッグアントが気づいたようだ。
 顎の牙をカチカチ鳴らして、仲間に獲物がやって来たと教えている。
 すぐに四匹が縦に並んで襲ってきた。

「どいつもこいつも集団行動が好きだな」

 剣を地面に突き刺すと、両手の手の平を巨大アリ達に向けた。
 歓迎の岩弾をプレゼントしてやる。次々に手の平大の茶色い弾丸を発射した。

「ガァ‼︎」

 グシャ‼︎ 弾丸が直撃して、頭や胴体が潰れたアリ達が停止していく。
 剣を振り回すよりも弾丸を撃つ方が速い。
 背の低いモンスターは魔法で攻撃した方が楽だ。

「フッ。終わったな」

 四匹倒して、地面から剣を引き抜くと周囲を確認した。
 戦闘音に他のビッグアントが来ると思ったが、大丈夫みたいだ。
 安全が確認できたので、手招きしてメルを呼んだ。

「メル……メル……」
「……もう倒したんですか?」
「この程度の雑魚なら楽勝だ。狙いが俺一人なら真っ直ぐに向かってくるからな」
「そうなんですね」

 犬みたいに走ってきたメルは、俺が一分以内に倒したのに驚いている。
 俺はスライムしか倒せない雑魚冒険者ではない。
 地面に落ちている30ギルの魔石と『ビッグアントの甲殻』を回収させた。
 探しているのは宝箱だが、お金はいくらあっても困らない。

 二時間後……

「なかなか見つからないですね」
「そうだな。最近、どこかのパーティが徹底的に探したのかもしれないな」

 ビッグアントを倒しながら、木の上や岩の周辺を調べていくが、宝箱は見つからない。
 三階なら弱小パーティが青い宝箱欲しさに一日中探して、赤い宝箱を見つけた可能性が高い。
 これなら復活した宝箱がありそうな、二階を探した方が良かったかもしれない。

「三階は諦めて移動するか。二階と四階のどっちを調べたい?」
「……隊長はどっちがいいですか?」

 聞いたのに、俺に決めて欲しいようだ。責任回避能力が高いな。
 最初の予定では見つからない時は四階を探す予定だったが、四階もなさそうだ。
 だったら答えは決まっている。

「二階だな」
「だったら、私も二階がいいです」
「じゃあ、そうするぞ」
「はい」

 二階だと言うと、メルも俺の答えに賛成した。
 分かりきった答えだったが、二階に戻る事にした。
 二階への階段を上っていると、下りてくる冒険者とすれ違った。

「おい、もう三階に下りたみたいだぞ」
「アイツ、女子供相手でも容赦しないな」

 相変わらずヒソヒソ話がデカ過ぎる。
 早めに昼飯を食べてもいいが、人通りの多い階段では食べにくい。
 二階で赤い宝箱を見つけたら、そこで食べるとするか。

「すみません、隊長。私の所為で目立ってしまって……」
「別に気にしていない。噂されるのは俺の宿命みたいなものだ。さっさと上るぞ」

 冒険者達から離れるとメルが謝ってきた。
 すれ違った冒険者がヒソヒソ話をするのはいつもの事だ。
 それに何か勘違いしている。
 目立っているのはお前じゃない……俺だ。図に乗るな。
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