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 フッと見た瞬間、その横顔がキラキラ輝いて見えた。僕の名前は高山秋人たかやまあきと、公立高校に通う二年生だ。友達は「あきと」とは呼ばずに、「あきひと」と呼んでいる。まあ、どっちでもいいんだけどね。

 そうこんなのはどっちでもいいんだ。僕がこんなことを思ってしまった切っ掛けは、ある日の昼休みのことだ。いつものように二年三組の教室で、同じクラスの男友達二人と話している時に長谷川涼介はせがわりょうすけの横顔がキラキラ輝いて見えたのだ。

「こんなに綺麗な顔してたんだ」と今まで涼介の顔を見てそんな風に思ったことはなかった。恋に落ちたとか、身体の中心を雷が走り抜けたとか、そんな大したものではない。ただ、綺麗な顔だと思ってしまった。それだけだった。

 僕も涼介もそこまでの美形ではない。僕の身長は171センチメートルで体重は63キログラム。涼介は身長174センチメートルで体重は65キログラム。童顔でもなければ、身長が女子並みという訳でもない。僕も涼介も普通といえば普通の男子高校生だと思う。

「あきひと、帰るぞ」
「ああっ、直ぐに行くよ」

 放課後、教室で涼介が戻って来るのスマートフォンを見ながら待っていると、日直の仕事を終えた涼介が職員室から戻って来た。呼びに来ておいて先に帰ろうとするなんて薄情な友達だ。直ぐに机に端にぶら下がっていたペタンコの鞄を持って、涼介を追いかけた。

「待っていたんだから、ジュースぐらい奢れよな」
「分かってるよ。今度の休みに家に遊びに行くから、その時に持って行くよ」
「どうせ自分用だろう。前みたいに騒ぐだけ騒いで俺の部屋を散らかすなよ。片付けるのも、怒られるのも俺なんだからな!」
「はいはい、分かってるって」

 いつものように同じバス停で同じ時刻にやって来る市営バスに二人で乗る。降りる場所も一緒だけど、降りた場所から乗るバスは一緒じゃない。別々の終点を目指して進む。

「じゃあ、また明日」
「んんっ」

 いつものように先にやって来たバスに涼介が乗って、僕がお見送りをする。涼介は決まってバスの中から子供のように右手を振ってくる。恥ずかしいので軽く右手を上げるだけに僕はとどめた。こうして、僕の一日はいつものように終わっていく。

 小さい頃から男が好きだった訳じゃない。普通に女性が好きだった。今もそれは変わらないと思う。その変わらない好きの中にある日、涼介という男がひょっこりと侵入して来たのだ。そのひょっこりと入って来た男の所為で僕の好きという領域が少しだけ広げられてしまったのだ。

 最初は十対0という大差で僕の好きという領域は女性に支配されていた。それが今では涼介の所為で九対一、八対二と変わりつつある。こんな気持ちになるのは、彼女がいない所為だ。学校で話すのは男友達の方が多いし、休日に一緒に遊ぶのも男友達だ。男友達が女だったら、ほとんど彼女と彼氏の関係に近い。

「はぁ、何でこんな気持ちならないといけないんだ」

 最近では、見知らぬイケメンと手を繋いで、遊園地デートをする夢まで見てしまった。最後はお決まりのキスでデート終了という実に嫌な夢だった。

 


 
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