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第一話 浮世の参拝者
浮世の参拝者 玖
しおりを挟むそれからしばらく笑い合いを続けながら、私たち四人は小川の近くを歩いていた。
「香果さま、香果さま、この石の影です」
「本当かい。八雲君はここで待っていてくれるかい」
「僕も行きます」
「然し君には些か衝撃的かもしれない」
「僕も彼女の事を見送りたいです」
「では覚悟しておいで」
私はグッと力を入れて香果さん達の後を着いて行った。
小豆荒いの案内した小川の近くの大きな石の影に幼気ない少女の遺体があった。
水で膨張しているのか、女の子どころか人間とすら見分けが付かない。
これがこの幼げなアヤカシだと知っていたから。服や髪型で見分けられたに過ぎない。
「うぅっ、」
私はこの様なものを見る事に全く慣れていない。
後ずさりを無意識にしてしまわない様に足を動かさずに立っていることがこれほど難しい事だとは思ってもいなかった。
「無理をしないでください。今の浮世で活きている人間はこの様なことには慣れてないですから。無理をして身体を壊したら香果さまが悲しみます」
小豆洗いは私にだけ聞こえる程の小さな声で言った。
「うん、ありがとう。今は大丈夫だよ」
私は小豆洗いの親切に大変感謝した。
少女はいつもの様に笑顔で香果さんに、
「見て見て私の服と一緒。この子どうしたの」
と訊いた。
少女はそれを自分の身体だと知ってか知らずか自分に似た遺体をとても可笑しそうに眺めている。
「君がこの子に会えたと云うのは君がこれからパパやママに会えるからだよ」
香果さんは、少女に笑顔で言った。
「ほんとに!やったぁ」
少女もとても嬉しそうに笑った。
「彼女はきっとこのぬかるんだ地面にでも足を滑らしてしまったのだろう」
香果さんは小さな声でささやくように言った。
小川の周辺を見ると何かがずり落ちた跡があった。
「まさか、こうなるとは、ね。救ってあげられれば良かったのに…」
香果さんは悲しそうに微笑みながらそう言うと小さな声で「八雲君、警察に連絡を。きっとすぐに彼女の両親が迎えに来てくれるから」と私に云った。
私は持っていた携帯で直ぐに警察に電話をした。
警察によると彼女の両親はすぐに来てくれるらしい。
「パパとママに会えるの? 今日家に帰ったら私カレーが食べたいな。ママ作ってくれるかな」
「嗚呼、きっと作ってくれるよ」
「やったー。私ママの作るカレーが大好きなの」
少女は手を上げて「やったー」と飛び跳ねて喜んだ。
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