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相7
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『わくフラ』は私が中学時代に嵌まって何周もプレイした乙女ゲームであるうえに、二次創作が許されていた為、飛びついたのだが・・・巨乳のピンク髪ヒロインに生まれ変わりたいおじさんの願望を叶えたと思われかねない『箱庭』になってしまった。
私は、『わくわくフラーグ学園』を制作した秀島相一氏の要望で『アイ』を作成し、全てのキャラクターのステータスを決定する起点となったという説明を、企画仕様書の一頁目に述べておいた。秀島氏が乙女ゲームのヒロインに憧れなどないことは明らかなので、『箱庭』の審査時では、私は特に気にせずいた。
けれどもこの『箱庭』の観察結果を発表するにあたって、大勢の人の前で、まず、巨乳ピンク髪ヒロインは秀島氏の生年月日だと言わなければならなくなった。
秀島氏本人の要望で『アイ』を作成したということは必ず説明するのだが、・・彼がヒロイン転生願望を持ってはいないと、わざわざ付け加えた方が良いのか私は悩んでいた。
秀島氏の具体的な意図が確認できれば、それを発表の冒頭で述べるが、彼から貰った連絡先のメールアドレスはどういうわけか不通になっていた。
ホテルで条件を出された時は呆然としてしまい、秀島氏の考えを深く聞けなかったことが悔やまれる・・・。
ただでさえ私の観察結果は、占いへ偏見を持つ理系のインテリに白い目で見られそうな内容だった。したがって、制服のブラウスにハートの穴が開いている『アイ』の参考画像は、この『箱庭発表会』では決して出さないことを私は固く誓っていた。
これ以上、秀島氏や占星術に誤解や拒絶を生まないために、ずっと私は頭を捻っているのだった。率直に言って不可能だが・・・できるだけインテリにも通用する、客観性を保った論理的な発表となるように悪戦苦闘していた。
悩みすぎて投げやりになってきた私は、ふと思った。
(もし秀島氏が乙ゲーヒロインへの転生を夢見ていたと思われても、夫の不名誉にはならないよな・・。分身を作るって言ってたし・・別に良いか・・。)
「発表会へは、私も同行するよ。なんなら、観察結果の発表は私がしても・・・。」
ウンウン唸りながらパソコンへ向かう私を見かねて、夫が声を掛けてきた。
「駄目よっ。『わくフラ』は乙ゲーの中でも、おバカゲームで有名なんだから。教授が発表しちゃいけないわ。」
「でも発表するのは、『ステータス増減に採用した占星術で取扱う10天体と、箱庭社会変動との因果関係』だろ。」
「研究発表っぽい表題だけど・・おバカ乙女ゲームに占い足したら、審査に通ったんだなってバレるのよ(しかも、ヒロインの生年月日が還暦の秀島氏)。おばさんと若い男がふざけたと思われる位が調度いいの。」
「・・・僕にも将来があるんですけど・・・。」
沈んだ声で、見鷹君が呟いた。
「発表会では恋人に会えるんだから、いいじゃない。」
「出張費は貰えますけどね。・・諸費用が掛かるのは変わらないので、きついっす。」
「彼女と一緒に、食事をご馳走するから・・・。」
「そうだね。発表会が終わったら、4人で食事をしようか。」
私は夫へ相談なくご馳走すると言ってしまったが、夫は快く見鷹君達を食事に誘ってくれた。
「ありがとうございます・・・。そう言えば秀島さんと連絡はついたんですか?・・そろそろ『アイ』が現われますよね。」
「教えてもらったメアドは、相変わらず届かない・・。発表会の準備してて、『アイ』が産まれているか、まだ確認してないよ。今は『箱庭』をチェックする暇なんてない・・。」
「秀島さんには、SNSの直接メールを送れば良いんじゃないですか?あの人、SNSは止められないでしょ。」
「うーん。彼の公式SNSは別の画像投稿SNSに代わってたし・・万が一本人じゃなかったらなあ・・。画像が本人でも、管理しているのは社員とか。」
「ええー?本人だと思うなあ。まだまだ承認欲求、強そうだもん。」
「そうかなあ・・・どっちにしても発表会が終わってからにする。」
「秀島さんと会食になるようなら、声かけてくださいね。セレブの会食って、豪華そうっ。」
夕刻とは思えないアスファルトから照り返す熱波を浴びながら、パートの私は夫を置いて先に帰宅の途へついていた。
帰り道、ほんの少し暑さがやわらぐひと時がある。青々とした立派な木が生い茂る神社の横を歩く間は、涼やかな風を感じるのだ。
しかし今日に限っては、せわしなく行き交う人々の熱気が溢れ、私はいつもより汗をかいていた。
今宵はお祭りらしく、参道の飾り付けや屋台の準備を、厳しい暑さの中慌ただしく進められていたのだ。
鳥居の横でパイプ椅子に座った恰幅の良い老人が、団扇で仰ぎながら清涼飲料水を飲んで準備する人々を眺めている。
(お祭りに行ったお土産を、お姉ちゃんに買って帰ったら母に無神経だと罵られたなあ。)
私には姉がいた。
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