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横やり
しおりを挟む「……ええ、私でよければ、よろこん……」
「良くないよ。シェイラ」
戸惑いながらもその思いを振り切って伯爵令息の誘いを応えようとした私の声は、途中でよく聞き慣れた男性の声によってかき消されてしまった。
「か……カリュード……? なぜここへ……今日の舞踏会には参加しないって……」
そう、私の目の前にはカリュードがいたのだ。
その表情は今まで見たことがないほど険しく、鋭いほどに青い目を細めた彼は、まるで獲物を狩るかのように見える。
事前に今日の舞踏会のことを確認したが、彼は出席しないと話していた。
国中の令嬢令息達が集まると噂の舞踏会を欠席するということは、彼はもう婚約する相手が決まっているのかもしれない。
そう思って私も覚悟を決めて参加したというのに。
「参加しないつもりだった。わざわざ婚約者など探しにいく必要はないからね。だがまさか君がこんなに軽率に判断を下すとは思っていなかった。心配になって様子を見に来てよかったよ。手遅れになるところだった」
「あ、あの……」
カリュードは私の隣で固まっている伯爵令息をちらと見て、恐ろしいほど冷たい声でこう告げた。
「ベンフォード伯爵令息。こちらの令嬢は、私の婚約者だ。軽々しく手を出さないでいただきたい」
「い、いえ! 手を出そうなどと! まさかミュラー侯爵令息様と婚約されているとは思ってもいなかったので……」
そう言うと、そそくさとその場から退散してしまった。
「……どういうこと? せっかく私にも結婚相手が見つかりそうだったのに。あなたのせいで、また一から振り出しだわ」
大広間の隅の方に移動した私とカリュードは、なんとも言えない気まずい空気に包まれていた。
カリュードはこちらを見ようとしない。
せっかくこんな私に好意を抱いてくれそうだった男性は、彼のせいで立ち去ってしまった。
それどころか一連の騒ぎを大勢の貴族たちに見られてしまったため、今日の舞踏会ではもう私に声をかける令息はいないだろう。
「これ以上ここにいても時間の無駄だし、帰るわね。おやすみなさいカリュード」
私はくるりとカリュードに背を向けると、屋敷の出入り口の方へ足をすすめようとした。
するとその瞬間、グイッとカリュードに手を引っ張られる。
「きゃっ……何、カリュード……みんながいるところで手を触ったりしないで、誤解されるわ……」
カリュードは私のそんな抵抗などお構いなしに、ずんずんと歩みを進める。
初めて感じる彼の強い力にあがらうことはできず、私は彼に引きずられるようにして中庭へと連れて行かれた。
「カリュード! 私たちが二人でいるところを見られたら、誤解されてしまうわ」
手を解こうとするが、逆に強く抱きしめられてしまう。
「誤解されたら困るのか? シェイラ」
「……か、カリュード……どうしたの……」
「こんなややこしいことになるなら、無理矢理でも自分のものにしておけばよかったか? だが君の意思に反したことはしたくないと、俺は……」
「あの、だから何言って……」
「俺はヴァンパイアだ」
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