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 ステアが呪いを解いたことに気付いた王太子ノアは、レティの記憶が失われたことを良いことに、その功績を我が物にしようとしたのだ。

 「いいか、覚えておけ。お前が彼女に口付けて呪いを解いたことを誰かに話しでもしたら、レティに無理やり手を出した罪で流罪にしてやるからな。又は再びレティに呪いをかけてやっても良い」

 ノアは卑怯にも、このような手を使ってステアを黙らせたのだ。

 「記憶を失い、王太子殿下と仲睦まじく過ごすあなた様を見ているのは、とても辛かった……」

 ステアはその美しい顔を歪めた。

 「公爵夫妻もあなた様に呪いをかけた呪術師を総出で探しておられましたが、なかなか朗報は得られず。あの舞踏会で結婚宣言をされてしまったならば、もう手遅れだと思いました。ただの護衛騎士の自分にはどうすることもできないと……」
 「お父様達は、このことに気付いていたというの? 」
 「殿下とおられるあなた様の様子を見て、何かおかしいと思われていたようです」

 両親は、レティとノアの間に流れる空気の違和感に気付いていたらしい。
 だが決定的な証拠もなく、ノアの王太子という立場もあって太刀打ちできなかったのだとか。

 「あなたはお父様達に、口付けのことはお話したの? 」
 「いえ……お話しておりません。ただ、呪いを解いたのは王太子殿下ではないだろう、ということはお伝えしてあります」
 「そう……」
 「申し訳ありません。私は殿下に太刀打ちできないひ弱な騎士です……」

 そう言って項垂れるステアの両手を、レティはそっと握る。
 恐らく両親は、ステアがレティの呪いを解いたその人である、と気付いているのではないかと思った。

 「でも、あなたの口付けが私を救ってくれたのよ」

 
 ステアは心からレティの事を愛してくれていたのだ。
 その事実だけで十分だ。

 「ステア、お願い。もう一度口付けて」

 「いや、でも……レティ様にそのような……」

 「ステア、早く」

 「っああ、もう! 」

 ステアはシャツの首元を少し緩めると、レティを強く抱きしめて口付けた。
 触れるだけの口付けのはずが、止まらなくなり、いつしかそれは深いものとなっていく。
 ステアの大きな舌は、ねっとりとレティの歯列をなぞり口内を占領する。
 レティの舌はその動きについていくので必死だ。
 飲み込めなかった唾液が口元からこぼれ落ち、それがまたなんとも情欲をそそる。

 「はぁっ……レティ様、もう……」

 このままだと際限なくレティを襲い、その純潔を奪ってしまう。
 ステアはレティから離れようと体に力を入れる。
 だが、レティはそれを許さない。

 「だめよステア、やめたくないの」

 「レティ様、私も男です。あなたのような愛しい方を前にしていては、止められなくなってしまう……」

 「止めないで。私の全てを、あなたにあげるから」

 ステアの動きが止まる。
 信じられないものを見たとでもいうように、目と口を大きく開けたステアの表情は、レティの初めて見る顔であった。

 「愛してるわステア。私をあなたのものにして」

 潤んだ瞳で愛する女性にそう請われて断ることのできる男は、いないだろう。
 ステアは覚悟を決めたようにぐっと拳を握りしめると、レティに囁いた。

 「もう戻れません。覚悟してくださいね、後悔しても遅いですから」


 
 
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