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番外編
リンドという男 3
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「国王夫妻の結婚式からしばらく経ちますのに、まだ市場の賑わいはすごいですねぇ」
「本当に。国王夫妻の人気は凄まじいものね」
街中至る所にアレックスとカリーナの肖像画のポスターが貼られ、街は未だに結婚式のお祝いムード一色である。
「でもそれもわかる気がするわ。あのお二人なら国民達も最後までついて行こうと思うもの」
マリアンヌは国王夫妻の様子を思い出しながら微笑む。
今日の彼女は市場にいてもおかしくないように簡素なワンピース姿である。
同じくワンピースに身を包んだローズを供にして街中を歩くのがマリアンヌのちょっとした息抜きなのだ。
「お嬢様、レモネードでも買って飲みますか? 」
そう言ってローズが指差した先には、レモネードのワゴンが。
公爵令嬢が歩きながら飲み食いするなど言語道断だと以前父に言われたが、マリアンヌは気にしない。
「いいわね、ちょうど歩いて喉も乾いてきたところだし」
マリアンヌとローズはレモネードのワゴンに向けて歩き出した。
……と、その時。
「きゃっ……」
ドシン!っとマリアンヌが誰かとぶつかってしまった。
ふらつき店頭しそうになったところを、相手の男に腕を引っ張られて起こされる。
無造作に伸びた黒髪を一つにまとめた男は、マリアンヌの方は見向きもせずにこう言った。
「すまない。大丈夫か? 」
男はそれだか伝えると、小走りでその場を去っていく。
「お嬢様! 大丈夫でございますか? 」
慌ててローズがマリアンヌに駆け寄るが、何も反応はない。
ちなみにこんな街中にいると言うのに、大声でお嬢様などと呼んでしまっては変装の意味もない。
いつもならマリアンヌが注意するはずかのだが、今日はそれもない。
不審に思ったローズがマリアンヌの方を覗き込むと、茫然自失のマリアンヌの姿があった。
「……さま……リンド様……」
「お嬢様、何をおっしゃっているのですか? 」
「……リンド様よ。今リンド様がいたわ! ねえローズ、先ほどの男性はどこへ行ったの? 」
必死の形相でローズに訴えかけるが、いまいちローズには伝わっていないらしい。
「リンド様……とは例の元シークベルトの? まさかこのようなところにいらっしゃるわけがないでしょう」
「いいえ、絶対に彼よ。私にはわかるわ! 」
確かに最後に会った時とは大違いの無造作に伸び切った髪に髭、そして、目の下のやつれた隈。
だがその奥にあるエメラルドの瞳はまさしくリンドのものであるとマリアンヌにはわかった。
幸か不幸か、簡素なワンピース姿の彼女を見てもマリアンヌだとは全く気付いていない様子。
それはそうだ。
リンドと婚約者であった頃に、市場にお忍びで遊びにいく話したなどしたことが無い。
まさかシルビア公爵令嬢がこんなところにいるとは思わないだろう。
思い返せば、リンドとは世間話程度の話しかしたことがないことに気付く。
リンドの身の上話しなどほとんど聞いたことがない。
もっともっと彼の事を知りたかった……と今更ながらマリアンヌの中にあるリンドへの想いが再燃していく。
「しばらく市場を探してみるわ」
「ええっ? お嬢様、でも午後からお見合いがあるのでは……ちょ、お嬢様! 」
ローズが止めるのも聞かず、マリアンヌはリンドの姿を求めて市場中を歩き回ったのであった。
「本当に。国王夫妻の人気は凄まじいものね」
街中至る所にアレックスとカリーナの肖像画のポスターが貼られ、街は未だに結婚式のお祝いムード一色である。
「でもそれもわかる気がするわ。あのお二人なら国民達も最後までついて行こうと思うもの」
マリアンヌは国王夫妻の様子を思い出しながら微笑む。
今日の彼女は市場にいてもおかしくないように簡素なワンピース姿である。
同じくワンピースに身を包んだローズを供にして街中を歩くのがマリアンヌのちょっとした息抜きなのだ。
「お嬢様、レモネードでも買って飲みますか? 」
そう言ってローズが指差した先には、レモネードのワゴンが。
公爵令嬢が歩きながら飲み食いするなど言語道断だと以前父に言われたが、マリアンヌは気にしない。
「いいわね、ちょうど歩いて喉も乾いてきたところだし」
マリアンヌとローズはレモネードのワゴンに向けて歩き出した。
……と、その時。
「きゃっ……」
ドシン!っとマリアンヌが誰かとぶつかってしまった。
ふらつき店頭しそうになったところを、相手の男に腕を引っ張られて起こされる。
無造作に伸びた黒髪を一つにまとめた男は、マリアンヌの方は見向きもせずにこう言った。
「すまない。大丈夫か? 」
男はそれだか伝えると、小走りでその場を去っていく。
「お嬢様! 大丈夫でございますか? 」
慌ててローズがマリアンヌに駆け寄るが、何も反応はない。
ちなみにこんな街中にいると言うのに、大声でお嬢様などと呼んでしまっては変装の意味もない。
いつもならマリアンヌが注意するはずかのだが、今日はそれもない。
不審に思ったローズがマリアンヌの方を覗き込むと、茫然自失のマリアンヌの姿があった。
「……さま……リンド様……」
「お嬢様、何をおっしゃっているのですか? 」
「……リンド様よ。今リンド様がいたわ! ねえローズ、先ほどの男性はどこへ行ったの? 」
必死の形相でローズに訴えかけるが、いまいちローズには伝わっていないらしい。
「リンド様……とは例の元シークベルトの? まさかこのようなところにいらっしゃるわけがないでしょう」
「いいえ、絶対に彼よ。私にはわかるわ! 」
確かに最後に会った時とは大違いの無造作に伸び切った髪に髭、そして、目の下のやつれた隈。
だがその奥にあるエメラルドの瞳はまさしくリンドのものであるとマリアンヌにはわかった。
幸か不幸か、簡素なワンピース姿の彼女を見てもマリアンヌだとは全く気付いていない様子。
それはそうだ。
リンドと婚約者であった頃に、市場にお忍びで遊びにいく話したなどしたことが無い。
まさかシルビア公爵令嬢がこんなところにいるとは思わないだろう。
思い返せば、リンドとは世間話程度の話しかしたことがないことに気付く。
リンドの身の上話しなどほとんど聞いたことがない。
もっともっと彼の事を知りたかった……と今更ながらマリアンヌの中にあるリンドへの想いが再燃していく。
「しばらく市場を探してみるわ」
「ええっ? お嬢様、でも午後からお見合いがあるのでは……ちょ、お嬢様! 」
ローズが止めるのも聞かず、マリアンヌはリンドの姿を求めて市場中を歩き回ったのであった。
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