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本編

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 「本当に素晴らしいお方でしたわ、マリアンヌ様は」

 マリアンヌがシルビア公爵邸へと帰って行く様子を窓から眺めながら、カリーナとアレックスは先ほどまでのことを思い返す。

 「本当に。リンドやそなたに対してもっと怒りや憎しみの感情を抱いていると思っていたが。取り越し苦労だったようだ。シルビア公爵の剣幕は相変わらずであったがな」

 確かに国王陛下に対しての態度ではなかったかもしれないが、娘達の結婚が立て続けに白紙にされたと考えれば、その怒りもやむを得ないのかもしれない。

 その一方で、公爵令嬢として何不自由無く育てられてきた故か、マリアンヌは大らかで親しみやすい性格である。

 「シルビア公爵邸に戻られた後、お辛い思いをなさらないといいのですが……」

 先程までの公爵とマリアンヌのやり取りを目にしていたカリーナは、俯きながら呟いた。
 恐らくシルビア公爵は、すぐにでも新たな婚約者をマリアンヌにあてがうだろう。
 そしてマリアンヌもその話を断ることはできないだろう。

 「マリアンヌ嬢には次こそは幸せな結婚をしてもらいたい。よほどのことがあれば、私からも口を出すようにするから、安心してくれ」

 「アレックス様……よろしくお願い致します」

 カリーナはホッとしたようにアレックスに寄りかかり身を預ける。
 アレックスはその様子を嬉しげに横目で眺めると、カリーナの腰に手を回した。

 「私、実を言うと今でもマリアンヌ様に対して申し訳なさは残っているのです」

 「だがそなたは城へ来てから、区切りをつけようと努力しただろう。未練がましく追いかけてきたのはリンドの勝手だ。そなたに罪はない」

 「はい……」

 アレックスはカリーナの方を向き、そっと頭を撫でた。
 なんともそれが心地よく、カリーナは自然と目を閉じる。
 すると、唇に温かく柔らかいものが触れた。
 カリーナが目を開けると、目尻を赤くして恥ずかしそうに笑うアレックスの姿が。

 「すまない。そなたがあまりにも可愛かったものだから……」

 カリーナと想いが通じ合ってからと言うもの、アレックスは以前よりも気持ちを態度で表す事が多くなった。
 もちろんこれまでも優しく側で支えてくれていたのだが、今では好きだと言う気持ちを我慢せずに、カリーナにぶつけてくれているように感じる。

 「もう、アレックス様……」

 口付けされた唇を恥ずかしそうに手で触るカリーナを、アレックスは再び強く抱きしめた。

 「もうすぐだな、結婚式」

 「はい。ようやく、ここまで来ましたね」

 「私は結婚式を終えてそなたを完全に私のものにするまでは、まだ不安が残る。早く式を済ませてしまいたい」

 そう話すアレックスの言葉には苦し気なものが含まれている。
 これがアレックスの本心であり心からの願いなのだろう。
 リンドのようにまたいつ横やりが入るかわからない。
 早くカリーナを本当の意味で自分の妻としたいのだ。

 「メアリーがそのお言葉を聞いたら、怒りそうですわね」

 「確かにな、あの者は今結婚式の支度に命をかけているからな」

 メアリーが結婚式の支度に奔走している姿を思い出して、二人はつい笑ってしまう。

 「それで、結局ドレスは決まったのか? 」

 大量のドレスに埋もれたカリーナの姿が浮かび、アレックスはまたもや笑いそうになる。
 メアリーが国中のデザイナーを集めて、数多くの試作品を作らせたと言うではないか。

 「ようやく、決まりましたわ。当日のお楽しみにしてくださいませ」

 そう言って微笑む婚約者の姿に、アレックスは改めて惚れ惚れとする。
 挙式を控えたカリーナは、アレックスの多大な愛に包まれている安心感からか、最近ではより一層その美しさが増したと言われていた。
 以前よりも柔和になったその表情にはアレックスと同じエメラルドの瞳が輝き、見る者を魅了する。

 「そなたは本当に……。私にとってかけがえのない大切な人だ」

 「アレックス様も、私にとってなくてはならない大切なお方です。愛していますわ」

 「私も愛している」

 二人が再び口付けを交わそうとしたその時、突然部屋のドアが開いた。

 「仲がよろしいのは喜ばしい事なんですけれどね、せめてお式が終わってからにしてくださいませ! 」

 二人がドアの方に顔を向けるとメアリーの姿が。

 「メアリー、どうしたの? 」

 「お式まであと1週間だと言うのに、まだ終わっていない事がたくさんなのですよ! アレックス様、このままカリーナ様をお借り致しますね」

 「メアリーには敵わんな。お手柔らかにしてやってくれよ」

 アレックスはまるでお手上げというように両手を上げて降参する。


 結局その日からカリーナとアレックスはほとんど会う事ができなかった。

 ……さすがのメアリーも挙式の前日には予定を入れていなかったが。
 
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