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本編

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 「リリー、どう? 似合っているかしら? 」

 あっという間に迎えた舞踏会当日。
 朝からリリーは支度でてんやわんやしていた。

 国中から貴族達が集まる盛大な舞踏会となるのだから、仕方ないだろう。
 王太子妃は王妃と並んで国の顔となる。

 「非常にお似合いですわ。王太子妃様に敵う貴族令嬢やご婦人などは一人もおりません。私もお支度のやり甲斐があるというものです」

 そう言ってリリーは鏡に映った私の姿を見て満足気な表情を浮かべる。

 フィリップ様から今日のために贈られたドレスは、まさに贅を凝らした作りになっていた。
 真っ赤なシルクのドレスは体のラインに沿うようにデザインされているが、露出が控えめなのでいやらしくならないようになっている。
 ドレスの胸元には細かいダイアモンドが散りばめられており、何層にも重なるレースが足元を飾る。

 「本当に王太子様はエスメラルダ様にお似合いの物をよくわかっておいでです」

 アッシュグレーの長い髪を頭の高い位置で一纏めにしながらリリーはそう言った。
 いつもは下ろしていることが多い髪だが、舞踏会や夜会では基本的にアップスタイルが好まれる。
 纏め上げられた髪の下から覗く真っ白なうなじが、エスメラルダの艶かしさを際立たせていた。

 「こちらも、王太子様から本日のためにと贈られた物だそうです」

 リリーがそう言いながら開けた箱の中には、フィリップ様の瞳と同じ色の青いサファイアを用いた首飾りと耳飾りが。
 どちらも周囲を取り囲むようにダイヤモンドで装飾されており、高価なものであることは一目瞭然だ。
 そっと首元と耳元にこれらの装飾品をつけてもらうと、鏡の前には立派な王太子妃が誕生していた。

 「このような素晴らしいお品を……王太子様がエスメラルダ様の事を大切に思っていらっしゃる証でございますね」

 リリーは微笑みながらそう言うが、私の心は晴れない。

 「こんなに飾り立てられても、世継ぎを持たない王太子妃は所詮ただのお飾りよ……」

 きっと一昨日の交わりでも妊娠はしていないだろう。
 もちろんまだ月の物は来ていないが、女の直感でわかるような気がした。
 今日も貴族達やその令嬢達から、心配と言う名のお節介を受けるのだろう。

 「たとえお子様がお生まれにならなくても、王太子様が心から愛しておられるのはエスメラルダ様ただ一人でございます。自信をお持ちくださいませ」
 「気が進まないわね……」

 「エスメラルダ!!なんて美しい! 」

 バン!と部屋のドアが開いてフィリップ様が駆け寄ってきた。
 私を見るその目は熱を帯びている。

 「素敵なドレスと首飾り、耳飾りもありがとうございます」
 「そなたに似合うと思い作らせたのだが、やはり私の目は間違っていなかったな。間違い無く今夜はそなたが舞踏会の華だ」

 そういうフィリップ様の言葉に偽りは感じられない。
 本心で言ってくれているのだろう。
 ではなぜ他の女性と……?
 私に向けられている熱い視線が、他の女性にも向けられていると思うと耐えられない。
 私にはフィリップ様しかいないというのに。

 「……エスメラルダ?いかがした? 」

 急に黙り込む私を心配そうに覗き込む。
 彼は本当に優しいのだ。
 いつも私のことばかり心配して……。

 「いいえ、久しぶりの舞踏会なので緊張していただけですわ。もう大丈夫です。参りましょう」
 「私がそばに居るから安心してくれ。大丈夫だ」
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