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私もあなたを愛しています

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「……え?」

 今彼はなんと言ったのだろうか。
 自分の聞き間違いではないかと必死に頭の中を整理しようとするが、先ほどまでの痺れるような刺激が未だに私を支配して性格な判断ができない。

「い、いまなんと……?」
「私はお前を愛しているんだ、ずっと昔から」

 やはり聞き間違いではなかったらしい。

「お義兄様は、ご結婚なさるのでは……」
「ああ、お前とな」
「は……私……?」
「まさか他のやつと結婚すると言い出すほど嫌われているとは思わなかった。だがもう自分の気持ちを押さえつけることはできない。私はお前が欲しい」
「ちょ、ちょっとお待ちください……」

 私おずおずとアンソニーを見上げた。
 彼の鳶色の瞳には苦しげな色が浮かんでいる。

「お義兄様は、私のことが好きなのですか?」
「何度もそう言っているだろう。これ以上どうすれば信じてくれるのか」
「だ、だって……昔私がお慕いしているとお伝えしたら、お義兄様はそれを断ったではありませんか」
「それは……」
「だから私はてっきり他にお好きな方がいらっしゃるのかと……」

 私のことをずっと愛していたと言うのならば、あの時の告白を断る必要など無かったはず。
 彼の言葉と行動に矛盾が生じている。
 そんな考えが顔に出ていたのであろうか、アンソニーは私の顔をチラと見ると苦しげに表情を歪めた。

「っ……仕方がないだろう。アリアは侯爵家の大切なひとり娘だ。それに引き換え私は遠縁とはいえその生まれは平民も同然。こんな私と結婚してはアリアに申し訳ないと……そう思って…」
「え……なんですのそれ……」
「どこかの立派な貴族と結婚して幸せになってもらいたかったんだ。俺に縛り付けるようなことがあってはならないと……。だがアリアはいつまで経っても結婚しようとはしないし、俺に向けてくれる表情は昔と変わらずとびきり甘い。それで……もしかしたら今もまだ俺のことを好きでいてくれるのかと自惚れてしまったんだ」

 それは事実であるので、結果的に彼の自惚れなどではなかったのだが。
 
「アリアは日に日に魅力的な女性になっていって、気のないふりをしながら一つ屋根の下で暮らすのはもう限界だった。それでようやく俺は自分の気持ちに気づいたんだ。アリアを諦めることなどできない、俺の妻にしたいと」
「……」
「義父上もそんな俺の気持ちに気付いていたんだろう。本当はアリアをどこかの貴族の息子に嫁がせるつもりであったらしい。だが俺に覚悟があるなら……アリアを生涯守り抜き幸せにする覚悟があるなら、結婚して二人で侯爵家を盛り立てていくことを許してくださったのだ」
「お父様が……?」
「アリアが耳にした話は、そのときのものだろう」

 突然伝えられる数々の情報についていくのがやっとである。
 だが私の中では腑に落ちないことがまだあった。

「デビュタントの日……」
「え?」
「私が初めて参加した舞踏会で、あなたはエスコートを引き受けてはくれませんでした。どこかの女性と楽しそうにダンスを踊って……」

 あの日ほど屈辱に包まれた日はなかった。
 心は張り裂けそうになりながら、貼り付けたような笑顔でその場を乗り切ったあの日を思い出す。

「……それは、すまない。あの日のアリアはあまりに美しかった。そんなお前と時間を共にしたら、自分の気持ちに歯止めが効かなくなると思って……。それにあの女性は私の友人の婚約者だ。友人が席を外している間に彼女の相手を頼まれたまでのこと。それ以上の関係など何もない」
「そんな……」
「俺がエスコートしてしまったら、皆いずれ俺とアリアが結婚するのだと思い込むだろう。そうしたらお前の婚約者探しが難しくなるのではないかと思って……」

 そう言ってアンソニーは私を抱き締める。

「だがこんなことになるなら、最初から自分の欲求のままに進めばよかった……今考えればお前が他の男のものになるなど耐えられないはずなのに。格好だけつけて最後までそれを貫き通すこともできない、情けない男なんだ。結局、アリアの心すら失ってしまった」
「お義兄様、何か勘違いをされておりますわ……」
「何がだ」
「私、まだどなたとの結婚も決まっておりません」
「……は?」

 アンソニーは私の言葉に固まった。
 その目は見開かれ、口も半開きのままである。

「確かにお父様にどなたかと縁談を進めていただくようお願いはいたしました。ですが、まだそのお返事は何も受け取っておりませんの」
「だがしかし先ほど、近々結婚すると……」
「あれは嘘なのです。お義兄様が結婚なさるというお話を盗み聞きしてから、心が苦しくてたまらなくなってしまって……。これ以上あなたと過ごす時間が増えれば増えるほど、想いに踏ん切りをつけることができなくなってしまいます。ですからあのような真似を……」
「なんだ、そうだったのか……」

 アンソニーはどこかホッとしたような表情を浮かべると、私の首筋に顔を埋めた。
 そしてそのままちゅっと軽い口付けを贈る。

「んっ……」
「だがあのストラブール侯爵家の息子は、お前に本気だ」
「私とお義兄様が正式に結婚すれば、あのお方も諦めてくださるはずです」
「私の生まれのせいで、アリアには肩身の狭い思いをさせてしまうかもしれない……」
「そんなこと、考えたこともありませんでした。お義兄様が他の方と結婚する方が辛いに決まっています」
「アリア……」

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