2 / 12
他の誰かが羨ましい
しおりを挟む
「……結婚……ええ、もちろんです。精一杯彼女のことを幸せにいたします。力を合わせて、アルメリア侯爵家をより一層盛り立てて行く所存です」
それから二年の月日が経ち。
私は偶然父の執務室の前を通りかかった際に、わずかに開いた扉の隙間からこんなやりとりを耳にした。
——アンソニーお義兄様が、結婚……。
出会ったときは九つだった彼も、もう二十二である。
貴族の跡取りとして、妻を迎えるべき年頃になったのだ。
予想できていたはずの事実を受け止めることができず、私はふらつくような足取りで自室へと戻った。
デビュタントを終えた私の元へもたくさんの縁談が持ち込まれていたが、私はその全てを断っていた。
理由はたった一つ。
私の中でアンソニーを超える男性がいなかったから。
彼の想いは私に向いてはおらず叶わぬ恋だとわかっているはずなのに、いつまでたっても私の中からアンソニーが消えてくれないのだ。
父はそんな私の想いを察してか無理を強いることはなかったが、このままではダメだということは私にもわかっていた。
——お義兄様と結婚する方が羨ましい。
彼の唇を奪い、体を奪い、その心までも奪い去ることのできる相手は一体どこの誰なのだろうか。
誰よりも長く彼に対して恋心を抱き続けてきたというのに、その想いが報われることは永遠にない。
その事実がただただ辛くて、私は自室に引きこもるようになった。
「アリア? 最近部屋から出てこないようだけど、体調でも悪いのかい?」
突然部屋から出てこなくなった私を、アンソニーは心配した。
毎日のように私の部屋のドアを叩いては様子を確認する。
だが私はその問いかけに応えるつもりはなかった。
彼の声を聞いてドアを開けてしまったら、また自分が辛い思いをするだけなのだから。
そして私は一つの決断を下したのである。
もう彼のことを諦めて、他の誰かの元へ嫁ごうと。
◇
「アリアがなかなか部屋から出てこないから、悪いが無理やりドアを開けさせてもらったよ」
私はアンソニーの結婚がまとまる前に、この家を出て行く決心をした。
その決意を伝えるとお父様は戸惑われていたけれど、たくさん来ていた縁組の中から私に合った方を早急に選ぶと約束してくれた。
あとは可能な限りアンソニーと顔を合わせる機会を避けるだけ……。
直接顔を見てその声を聞いてしまったら、せっかくの決意が揺らいでしまうから。
そう思っていたというのに。
今なぜか私の部屋にいるアンソニーを目にして言葉を失う。
「どうやって……部屋には鍵をかけていたはずです」
「義父上に合鍵をもらったんだ。今日からしばらく地方の視察に行くらしく、屋敷の留守を預かっている」
「ああ、そういうことですの……」
侯爵である父の部屋には、この屋敷中の合鍵が保管されており、その鍵を厳重に管理しておくのも父の役目であった。
その合鍵をアンソニーに手渡すということは、彼がもうすぐ次期侯爵として台頭していくという表れなのかもしれない。
つまり結婚も近いのだろう。
それから二年の月日が経ち。
私は偶然父の執務室の前を通りかかった際に、わずかに開いた扉の隙間からこんなやりとりを耳にした。
——アンソニーお義兄様が、結婚……。
出会ったときは九つだった彼も、もう二十二である。
貴族の跡取りとして、妻を迎えるべき年頃になったのだ。
予想できていたはずの事実を受け止めることができず、私はふらつくような足取りで自室へと戻った。
デビュタントを終えた私の元へもたくさんの縁談が持ち込まれていたが、私はその全てを断っていた。
理由はたった一つ。
私の中でアンソニーを超える男性がいなかったから。
彼の想いは私に向いてはおらず叶わぬ恋だとわかっているはずなのに、いつまでたっても私の中からアンソニーが消えてくれないのだ。
父はそんな私の想いを察してか無理を強いることはなかったが、このままではダメだということは私にもわかっていた。
——お義兄様と結婚する方が羨ましい。
彼の唇を奪い、体を奪い、その心までも奪い去ることのできる相手は一体どこの誰なのだろうか。
誰よりも長く彼に対して恋心を抱き続けてきたというのに、その想いが報われることは永遠にない。
その事実がただただ辛くて、私は自室に引きこもるようになった。
「アリア? 最近部屋から出てこないようだけど、体調でも悪いのかい?」
突然部屋から出てこなくなった私を、アンソニーは心配した。
毎日のように私の部屋のドアを叩いては様子を確認する。
だが私はその問いかけに応えるつもりはなかった。
彼の声を聞いてドアを開けてしまったら、また自分が辛い思いをするだけなのだから。
そして私は一つの決断を下したのである。
もう彼のことを諦めて、他の誰かの元へ嫁ごうと。
◇
「アリアがなかなか部屋から出てこないから、悪いが無理やりドアを開けさせてもらったよ」
私はアンソニーの結婚がまとまる前に、この家を出て行く決心をした。
その決意を伝えるとお父様は戸惑われていたけれど、たくさん来ていた縁組の中から私に合った方を早急に選ぶと約束してくれた。
あとは可能な限りアンソニーと顔を合わせる機会を避けるだけ……。
直接顔を見てその声を聞いてしまったら、せっかくの決意が揺らいでしまうから。
そう思っていたというのに。
今なぜか私の部屋にいるアンソニーを目にして言葉を失う。
「どうやって……部屋には鍵をかけていたはずです」
「義父上に合鍵をもらったんだ。今日からしばらく地方の視察に行くらしく、屋敷の留守を預かっている」
「ああ、そういうことですの……」
侯爵である父の部屋には、この屋敷中の合鍵が保管されており、その鍵を厳重に管理しておくのも父の役目であった。
その合鍵をアンソニーに手渡すということは、彼がもうすぐ次期侯爵として台頭していくという表れなのかもしれない。
つまり結婚も近いのだろう。
433
お気に入りに追加
702
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
憐れな妻は龍の夫から逃れられない
向水白音
恋愛
龍の夫ヤトと人間の妻アズサ。夫婦は新年の儀を行うべく、二人きりで山の中の館にいた。新婚夫婦が寝室で二人きり、何も起きないわけなく……。独占欲つよつよヤンデレ気味な夫が妻を愛でる作品です。そこに愛はあります。ムーンライトノベルズにも掲載しています。
騎士団長の幼なじみ
入海月子
恋愛
マールは伯爵令嬢。幼なじみの騎士団長のラディアンのことが好き。10歳上の彼はマールのことをかわいがってはくれるけど、異性とは考えてないようで、マールはいつまでも子ども扱い。
あれこれ誘惑してみるものの、笑ってかわされる。
ある日、マールに縁談が来て……。
歳の差、体格差、身分差を書いてみたかったのです。王道のつもりです。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した
Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる