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 「何ですって? 義村様に、ご側室が!? 」

 それから少しして、会国城に残された桔梗の元へも非情な知らせがもたらされていた。
 宮代家からの使いが城へ到着し、末娘のお雛を義村の側室とする旨を伝えにきたのである。
 戦に勝った喜びから、一度に地獄へ落とされたような悲しみが桔梗を襲う。
 彼女は白い顔をさらに青白くさせた後、倒れ込んでしまった。

 「奥方様、気をお確かにっ……」

 暗闇の中で千の慌てふためく声が聞こえたが、体に力が入らずどうすることもできない。
 桔梗は遠のく意識の中で、義村の幻影を感じながら気を失った。



 「私……」

 目が覚めると、桔梗は自室に敷いた布団で横になっていた。
 倒れた時は大広間にいたはずなので、恐らくあれから皆がこちらまで運んでくれたのだろう。

 「奥方様……桔梗さま、お目覚めになられましたか!? 」

 わあっと千が泣きながら桔梗に擦り寄った。

 「ごめんなさい。心配をかけてしまって」
 「桔梗様のせいではありません。全ては義村様のせいでございます。あんまりではありませんか、これほど会国のために身を削られてきた桔梗様を蔑ろにするような……」
 「そのような事はいってはなりません。義村様の方にも、何か事情があるのでしょう」

 大方、主君の命に背くことができなかったのだろうと桔梗にはわかっていた。
 主君に逆らうはお家取り潰しと同じこと。
 これまで会国のために尽くしてきた家臣達のことを思えば、桔梗一人のために勝手な判断はできないだろう。

 だが。

 「義村様の隣に他の女性が並ぶ日が来るなど、思ってもいなかった……」

 よく考えてみれば、この武士の世の中側室を持つのは当たり前のこと。
 むしろ結婚してからというもの側室の一人も持たずに桔梗だけを愛してくれた義村が稀有な存在であったのだ。
 しかし桔梗は義村に限って側室など持たぬと、どこかで期待していたところもあった。
 その期待がバラバラに裏切られ、桔梗の心も壊れてしまいそうになる。

 「先日の戦の勝利報告のために、一月後に義村様が一旦ご帰城されるそうにございます」

 一月後とは。
 心の準備もできていないと言うのに、何とも急な話ではないか。
 側室の話を耳にするまでは、その帰りを今か今かと待ち侘びていたと言うのに。
 今は義村の帰りが辛い。

 「ご挨拶をしないわけにはいかないわよね……」

 たかが側室を持つごときで寝込むような女子だと思われたくはなかった。
 桔梗の中にも意地のようなものがあったのかもしれない。
 しかしその意地とは裏腹に、体は正直であった。
 義村が城へ到着するまでの一月もの間、桔梗はほとんど飲み食いすることもできず、床からも起き上がれずに衰弱していったのである。
 まるでこれまで張り詰めていた糸がプツリと切れたかのようであった。

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